パート1:可愛い受付嬢の日常(1)
昨日(1月1日)22時頃にプロローグの魔王の話し方を修正しました。
昨日22時以前にプロローグを読んだ方は再確認してください。
アルベリーゼ王国。大陸有数の大国であり、国を問わず多くの人々が称賛する国の名前だ。
元々強大な国だったが、その名が称えられ始めたのは3年前から。人類の脅威である魔王を討伐する為の超国家的連合軍を主導し、その大将として勇者を任命したのがアルベリーゼ王国だった。そして連合軍は数年間多くの戦功を立て、ついに3年前、勇者が魔王を討伐したことで戦争が終息した。
だが、魔王一人が消えたからといって人類の脅威が消えたのかと問われれば、それは絶対にない。
「いらっしゃいませ。どんなご用件でいらっしゃいましたか?」
「この依頼を受注したいんだけど」
「はい、確認しました。カードを提出していただけますか?」
アルベリーゼ王国、ベルドの町のハンターギルド。そこで受付嬢として働くシュリは、今日も営業用の笑みで仕事を迎えた。
魔物は魔力を操ることができるし、人間ではない生物の総称。そしてハンターとは魔物を討伐することを生業とする者で、ハンターギルドはそんなハンターの依頼を仲介する。
魔王が消えた為、魔物の脅威も前よりは減ったが、だからといってハンターの仕事が完全に消えた訳でもなかった。
それにベルドの町は位置的に魔物がよく現われる最前線。当然、関連仕事も多い。勇者の故郷という理由で3年間観光地として大きく成長したベルドの町だが、魔物はそんな事情を考慮してくれないから。
ただし、シュリが耐えなければならないのは駆けつける仕事だけではなかった。
「やはり奇麗だなぁ。ご飯でも一緒に食べたいぞ」
「そうだな。あんな女を抱くことさえできたら思い残すことはないぜ」
シュリを見ながらそんなことを言う男ハンター達。別に隠すつもりもないように堂々とした声に、シュリは思わず苦笑してしまった。
白に近い薄い紫色のロングヘアと濃くて妖艶なアメシストの瞳。それだけでも目立つには十分だったが、それを除いても彼女は注目を集める存在だった。大きくて可愛い瞳と高い鼻筋、長細い顔とすらりとしながらも魅惑的なラインを誇る体つき。
このベルドの町一番の美人はきっとシュリだ――ベルドの町のハンター全員が同意している事実だ。すでにベルドの町のハンターギルドにとって彼女は観光名所だった。
しかし、男が彼女に近づけない理由がある。
「止めろよ、止め。テメェの分際で何を。あんな美人を手に入れるなら、それこそ勇者ぐらいじゃないとな」
「ええい、そのくらいは分かるぞ。クッソぉ、勇者サマが羨ましいな」
魔王を討伐した勇者の恋人。そのタイトルが彼女をより輝かせる要因であり、男から彼女を守ってくれる最大のお守りでもあった。
「ううぅっ、男は本当に。先輩、いきなりセクハラなんかしてくるかもしれないから気をつけてくださいね」
後輩受付嬢のリアがそんなことを言うと、シュリは苦笑しながら首を横に振った。
「大丈夫、心配いらないわよ。言葉はあれでも本当はラインを越えない方々だから」
「まあ、マジでラインを越した日には勇者様に何を言われるか分かりませんからね。それでも気をつけてください。この前も町に来たばかりの素人が、先輩にちょっかいを出したじゃないですか。先輩はものすごく美しいな人だから自ら気をつけなければならないんですよ」
「ふふ、ありがとう。でも貴方も可愛いから同じように気を付けないとね」
「今怒らせてるんですか?」
リアは不満そうに頬を膨らませたが、リアもすごく可愛いというのがシュリの考えだ。
長くつやつやした茶髪をツインテールで束ねた美少女。体つきが素朴なことを超えて貧弱なレベルだというのが彼女のコンプレックスだが、その小さくて可愛い姿に熱狂する男も多いことを彼女自身は知らない。その代わりシュリが可愛い後輩の為に目を輝かせているが。
「そこ、サボらないで仕事して。まだ人がたくさん来るじゃない」
「はい」
先輩の優しい叱りに頭を下げるシュリと、いたずらっぽく笑うリア。対照的な態度を見せながらも、2人の人気者はそれぞれの席で再び業務を再開した。
***
いつの間にかベルドの町に夜が訪れ、ハンターギルドの受付嬢達も退勤の時間になった。誰が先と言うまでもなく、あちこちで伸び上がる声やうなり声が聞こえた。
「うぅ~……今日も大変でしたね」
「そうね。今日も肩が凝るわ」
「あれ? 肩が凝ったのは他の理由の為じゃないですか? 今ケンカを売っているんですか?」
「いきなりどういうことなの? ……胸触らないで!」
「あんた達は本当に変わっていないね」
変態おっさんのように指をぴくぴく動かすリアと、そんなリアから逃げるシュリ。いつからか退勤直後の日常になったその姿に、先輩は苦笑した。
「こら、二人ともいい加減にしなさい。それはそうと、今日久しぶりに会食でもしようかと思うんだけど、2人とも時間ある? ギルドマスターが久しぶりにご飯おごるって」
「私行きますわ!」
シュリは目を輝かせながら手をさっと上げた。その姿に職員らは皆苦笑した。
「シュリは本当に会食が好きなんだね。勇者様とデートも上手くできないだろうに」
「彼は忙しいんだから仕方ないでしょう。それでも彼が暇な日には一緒に過ごしていますわ。そしてみんな親睦を深めるチャンスなのに、私だけ抜ける訳にはいきませんよね」
「先輩はただお金を節約しようという……うぐっ!?」
「静かにして、リア」
リアの口を塞ぐシュリの姿もいつもの光景だ。
そのように会食が決まった中で、シュリは密かに指パッチンをした。指先から飛び出たほんの小さな光がすぐに地面に染み込んで消えた。
――久しぶりに会食だから、私は私なりに大きな利益を得ることにしようか。
「ふふふ」
「シュリ先輩? どうしたんですか?」
「何でもないわ」
みんな会食でウキウキする中、シュリは一人で別の理由で浮かれていた。
皆には内緒で一人で密かに楽しむ趣味。最近はしばらくできなかったが、会食というアリバイがあれば久しぶりにけっこう楽しめるだろう。
――楽しみだね。
面白かったら是非私の他の小説にも関心を持ってくださったらありがたいです!
●最強の中ボス公女の転生物語 ~憎んだ邪悪なボスの力でみんなを救いたい~
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●逃げてしまった神様が世界を〝観察〟しています
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