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パート5:魔王という存在(1)

「じゃあ、ギルドマスターとアント達。ちょっと出てくれないの?」


「なに? どういう意味だ?」


「こいつと2人だけで話をちょっとしたくてね」


 シュリの突拍子もない言葉にマナードは眉を顰めた。


 ――まぁ、素直に受け入れることはできないだろうね。


 もちろんシュリにもこれが怪しいお願いだという自覚くらいはある。しかも先ほど、人の記憶を勝手に暴く禁断の魔法まで使ったところだし。


 だが、シュリとしても今は引き下がれない理由がある。


「本当にごめんね、マスター。でもこれは私にとってもとても重要なことだわ。有害なことはしないと約束するわよ。それでも信じられないなら、私の命を貴方の決定に従属させる契約魔法でもしてあげられるよ」


 シュリの手で複雑な魔法陣が展開された。今シュリが言った特殊な契約魔法だ。


 マナードはため息をつきながら首を横に振った。


「どうせ今の君は分身じゃないか。その禁断の契約はどうせ分身で結ぶと本体に何の影響もないぞ。冷やかすのはそれくらいにしておけ」


「あら、ごめんね。じゃあ別の條件でも……」


「……まぁ、良い。君の正体も分からない状態ではあるが、それでもそれなりに信頼はあるからな。ワタシがいる中でギルドの真ん中ででたらめなことをするバカでもないしな」


「ふふ、ありがとう。今度奥さんにあげる素敵なプレゼントでも選んであげるわ」


「……いい加減にしてくれ。あまりよくしてあげると、夜に疲れるぞ」


 マナードは既婚者の微妙な悩みを打ち明けた後、アント達を連れて審問室を出て行った。


 シュリはバロディンとともに2人きりになるとすぐに、バロディンの顔を見ながら真剣な声を出した。


「アンタの記憶から分かったことをまず確認してみようかしら」


「……どうせ記憶を盗み見たくせに、何をいまさら確認するというのかよ」


「〈記憶発掘〉はあくまで記憶を読み取るだけだから。考えや感想は分からないのよ。まぁ、記憶の中に残った考えは見られるけど……それでも確認したいことがあるわ」


 バロディンの記憶を振り返ってみる。


 正直に言って、シュリはバロディンの背後について深く考えていなかった。たかが彼の独断であったり、あるいは人間との戦いを主張する強硬派の暴走程度に考えていた。少なくとも魔族社会全体がバロディンと同じ行動に加わるとは思わなかった。


 でも……バロディンの記憶で見たのは、とても見過ごすことのできない重大な問題だった。


「まず1つ。カオンについてだわよ」


「ちっ」


 バロディンは短く舌打ちした。口ではしないが、その顔が「初めから核心かよぉ」と言っているような気がした。


「魔王の死後、魔王位は3年間空席だったわよ。……その席を先日、他の魔族が占めていたわね。つまり……」


 新しい魔王が即位した。


 人類最大の脅威と言われた魔王の座に、新しい魔族が上がった。これは人類にとって何よりも警戒すべき事態だ。実は3年間空席だった方がもっと変ではあったけど、とにかく今になって新たに即位した以上、意図を探らなければならない。


 重要なことは新しく即位したという事実そのものではなく、その魔王が先代魔王の遺言を覆すか否かだから。


「でもカオン……魔王カオナードは本来穏健派だったはずなのに。勇者が休戦を提案した時も、真っ先に呼応した魔族であったし」


「それを貴様がどうやって知る……いや、俺の記憶だけ見てもそれは分かるか」


「魔王位が3年間空席だった理由も、魔王カオナードが変わった理由もアンタは知らないようね。……ちっ、微妙に役に立たない奴だわ」


「このアマが……」


 それでもバロディンの記憶には重要な情報があった。バロディンがアルセンの森にやってきたのは彼自身の独断も、少数勢力の暴走でもなく、新しい魔王が関与したという事実が。


 ――今動いたのはバロディンだけみたいだけど、状態を見るとすぐに他の魔族も工作に出てきそうね。しかも戦闘員まで集めている。本当にもう一度戦争でもするつもりなの? クソ、推測したくても情報があまりにも足りないわ。


 シュリはバロディンを冷ややかに睨んだ。


 情報不足の理由はバロディンの権限不足も、新しい魔王が機密を徹底的に守ったわけでもなかった。いや、機密は守られてるが、バロディンはその機密に接近する十分な権限を持っていた。新しい魔王の信任も意外に厚くし。


 それにもかかわらず、彼が知らないことが多い理由はただ1つ。作戦会議や情報共有などの場を、面倒だという理由でほとんどを無断欠席した為だった。


 ――何はともあれ怠け者なんだわね。まぁ、でも今は利用できるものは利用しないと。


 シュリは考えをまとめると、再び口を開いた。


「アンタの力を借りたいんだけど」


「あぁん? 何言ってるんだ? 俺の恥ずかしい秘密をいくつか見つけたとして俺を思い通りにできると勘違いするな」


 シュリはバロディンの返事を無視して、指で魔法陣を展開した。瞬く間に審問室の全ての壁と床、そして天井に魔法陣が現れた。


 バロディンはそれを見て目を大きく開けた。


「10重結界、さらに1つ1つが大魔法級だと……!? 貴様は一体……」


「内部の気配を完全に隠して騙すにはこれくらいはしなきゃいけないのよ」


 部屋が完全に密閉されていることを確認した後、シュリはゆっくり覆面とマントを脱いだ。そして分身の容姿を変化させた。やがて現れたのは薄紫色の髪と濃い紫色の目をした美女――つまり、シュリの本体と全く同じ外見だった。


 彼女の姿は相変わらず人間だったが、バロディンはその顔を見て目を大きく開けた。


 変化はまだ終わっていない。頭からは4つの大きな角が生え、背中には黒い羽毛に覆われた巨大な翼が広がっていた。そして骨盤では先が矢じりのような形をした2本の尾が蛇のように蠢いた。


 その姿は疑うべくもない魔族の姿だった。


「……まさか……あり得ない……」


 目を裂くように大きく開けて茫然としたバロディンに向かって、シュリは威厳のある声で口を開いた。


「お久しぶりだわ、バロディン」


 その声が、バロディンの口を動かした。


「……魔王……陛下……」


 先代魔王、カシュレア・ディアボリス。


 その言葉が頭の中をかすめた瞬間、バロディンの目から涙ひとすじが流れ落ちた。

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●最強の中ボス公女の転生物語 ~憎んだ邪悪なボスの力でみんなを救いたい~

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