パート4:魔族と人間(4)
「禁断の魔法が合ってるって? いったい何をするつもり……」
「そんなに緊張することないよ。そんなに危険な魔法じゃないから」
シュリはバロディンを見た。しかし彼は鼻で笑うだけで、何かをもっと言う気配はなかった。
――まったく、協調というものを知らない奴なんだわね。
シュリは一人で苦笑した。
「魔法に気付いたから分かると思うけど? 沈黙したって何の意味もないってこと。いい加減に話して楽になったらどう?」
「ペッ」
「……そう出るんだよね」
シュリは一度だけため息をついて、魔法陣をバロディンの頭に当てた。魔法陣が輝いた。
「ぐっ、くぅうっ……!? ぐぁああああっ!」
バロディンが悲鳴を上げると、マナードはびっくりして前に出た。
「〝カカシ使い〟、何するんだ!」
あっという間にシュリの傍までやってきたマナードがシュリの腕を攫った。手が離れるとバロディンの悲鳴も止まった。
「拷問みたいなものだと思ったの?」
「違うというのか?」
「そう、違うわよ。付随効果で苦痛が少しひどくはあるけど」
「それでは拷問に他ならないだろうが!」
シュリはマナードの目を覆面越しに凝視した。
実直で、ちょっと心配性のある眼差し。ただ魔族という理由だけで石を投げたり、悪口を浴びせた人達とは違う。
――ギルドマスター、やっぱりいい人だわね。
内心では彼の人となりを結構気に入っているシュリだが、言葉はあくまで冷静だった。
「根本的に違うの。拷問は情報を得る為に苦痛を与えることで、これは情報を得る過程で苦痛がおまけについてくるんだわよ」
「情報を得る過程だと? 待って、その魔法まさか……」
「そうよ。〈記憶発掘〉だわ。脳から記憶を直接引き出す魔法。……やられる人はものすごく痛いという短所と、強制的に人の記憶を見る行為の倫理的な問題のせいで禁止された魔法だけどね」
マナードが眉を顰めた。いや、眉だけ顰めたんじゃなくて、シュリの手首を握った手にも力が入った。
「その程度ならこの手を放せない理由では十分じゃないのか?」
「……魔族も差別しないその性分、率直に本当に好きだわよ。だって今だけはムカつくのよ」
シュリは魔法でマナードの手を無理やり振り切った。しかし、〈記憶発掘〉を再びバロディンに使う気配はなかった。眼差しだけは相変わらず冷淡だったが。
「うちの生真面目で善良なギルドマスターがせっかく好意を寄せてくれるのにね。そのままアンタの口から話してくれないの? どうせバレるのよ。自ら話してあげれば痛い目に遭わずにいいじゃない。むしろ自分の口で情報を調節した方が〈記憶発掘〉で全部暴かれるよりはましだわ」
「クソくらえ」
「……ったく」
シュリは再び〈記憶発掘〉の魔法陣をバロディンの頭に持っていった。しかし、魔法陣が彼の頭に触れる直前にマナードが再び手首をつかんだ。
「その魔法はやめろ。普通の魔法ならまだしも、禁断の魔法は倫理的にも法的にも問題が多いぞ。いっそ自白の魔法を使った方がましだろう」
「半魔族くらいになると自白の魔法がよく通じないこと、貴方も知ってるじゃない。そして今勘違いをしているようわね。こいつは明白な犯罪者だわよ。事態は深刻なのよ?」
「何を……」
「最近ハザードマンがアルセンの森の浅い所から出没したこと、知ってるじゃない? それこいつの仕業だわよ。ちなみに私達がハザードマンを発見した所は元々ならCランク上位の奴らくらいが活動する所だし。放っておいたら犠牲者が出たはずわよ。その行為が果たしてこいつの独断なのか、背後にどのような勢力があるのか調べなければならないでしょ?」
まだ提示していないが、ハザードマンを送ったのがバロディンという物証もある。もちろん、それ以前にバロディンなら人間に自分の潔白を訴えるというプライドを傷つける仕業はしないけど。
「3年間黙っていた魔族が急にまた動いたことにも何か理由があるはずわよ。もし深刻な理由なら倫理など言っている場合じゃないのよ」
「いくらなんでも禁断の魔法は許せないぞ」
「アルセンの森に他の魔族がまたいたりすると、責任は貴方がとるの? そのせいで何の罪もないハンターが死んでも?」
「そうならないように……」
「もういいわ。犠牲を最小限に抑える為の最も効率的な方法を、民間人でもない犯罪者の人権の為に諦めろって? 私はそんな理想主義は嫌いだわよ」
そう言った後、シュリは魔法で再びマナードの手を振り切った。そして問答無用でバロディンに〈記憶発掘〉を打ち込んだ。
「ぐっ……くぁああぁぁっ!」
シュリの言葉のせいか、マナードは暫く険しい目つきで状況を見守った。しかし、彼の忍耐力の持続時間はわずか1分だった。
「やはり……!」
「よし、終わりだわ」
しかしマナードが再び制止する前に、シュリがそう言って手を引いた。
「お、終わったのか?」
「うん。記憶は全部読んだわ」
「全部? その短い時間で?」
「それが〈記憶発掘〉の特徴だから。これも長くかかった方なのよ」
シュリはバロディンに目線を向けた。彼は疲れた様子で机の上にうつぶせになっていた。でもシュリを睨む目つきだけはまだ生きていた。
「……殺せ」
「私がどうして?」
「どうせ記憶を読んだなら、もう俺を尋問する意味もないだろう。人間の奴らに捕まっているという屈辱はもう断りだぜ」
「あら、屈辱がそれで終わりだと思ったの?」
「あぁ? 何の……」
シュリはにっこり笑った。もちろん、覆面のせいでバロディンには見えなかった。
だが、バロディンはどこか背筋がぞっとした。
「アンタの記憶を見たら面白い逸話が多かったの。たとえば幼い頃、魔王を見て性的に興奮したとか……」
「……!? お、おい、ちょっ……!」
「密かに魔王の肖像画を見て手淫したとか……」
「や、やめろおおぉぉぉ!」
今までとは全く違う悲痛な叫びだった。
そんなバロディンに、シュリはにっこり笑って指を一本立てた。
「まだ協力を求めたいことがあるの。聞いてくれるよね?」
「……ちくしょう」
百の言葉よりも多くのことが込められた答えだった。
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