パート4:魔族と人間(3)
「誤解? 貴様らが正義というバカげたことでも言いたいのかよぉ?」
「休戦を結ぶ時に魔王が伝言を残したと聞いたわ。アンタら魔族も、その伝言があったから3年間大人しくしていたでしょ。違うの?」
「伝言だと? は!」
バロディンは不快そうな様子で鼻先でせせら笑った。しかしそれはすぐ嘲笑となり、ついに爆笑になった。
「ひゃははははっ! 伝言だと! ひゃははは!」
「何が面白いの?」
「――陛下がなぜ死ななければならなかったのか!!」
バロディンは今度こそ椅子から飛び起きた。首上を除いた全身がしっかり拘束されたままで。途中で机にぶつかった彼はそのまま机の上に倒れたが、目を血走らせたままシュリを睨んだ。どなり散らす口から唾が飛んだ。
「貴様らの勇者は!! 休戦を口実に魔王城に忍び込んだ! そして陛下は崩御した! 人間と親しくなれという伝言を残して! そんなことあり得るのかよぉ!!」
「……あり得ないってこと?」
「勇者が休戦をエサに接近した結果、魔王陛下がお亡くなりになった!! ところでその最中に人間との仲直りを伝言で残したと!? 信じられるわけないだろ!! 貴様らが陛下を裏切って殺し、偽の伝言を残したのだろう!」
「愚か者め!! ベルド殿は決してそんな……」
マナードが声を荒げたが、シュリは片手を上げて彼を制止した。
シュリはバロディンを睨んではいたが、その目に敵愾心はなかった。その感情はむしろ錯雑に近かった。
しかし、口の外に出す声だけは冷たかった。
「じゃあ、どうして3年間黙ってたの?」
「……」
バロディンは黙った。
目だけは依然として血走ったままシュリを睨んでいたが、今までのように憎悪をぶつけて言い放つ気配はなかった。
――そういうわけにもいかないね。反論する言葉もないから。
そもそもマナードがさっき言ったように、バロディンは魔王軍でも人間に特に敵対的な部類だった。しかも今回はハザードマンを本来の生息地より浅い場所に送り、彼自身もアルセンの森にいた。具体的な行為まではまだなかったが、単に森林浴などをする為に来たのではないだろう。
そんなバロディンであるにもかかわらず、3年間何の行動も取らなかったこと。それには明白な理由がある。
「そもそも黙っているしかなかったんだろうね。魔王が残した伝言は強力で精巧な魔法で編まれていたから。その精巧さと、そこに残った魔力の波長こそ、それが魔王が残した本当の伝言という明白な証拠だったから」
「ふん、それは貴様らが陛下をおびき寄せて……」
「魔王が洗脳されたってこと?」
「グッ……! 伝言を残した後で殺したかも……」
「魔王と勇者は4日間休まずに戦ったわよ。その一帯は完全に不毛の地になったことで有名じゃない。それでも何の痕跡もなく魔王を暗殺するほどに勇者が圧倒的だと思うの?」
「それは……! ……待って、なんで貴様はそんなに詳しく知ってるんだ? 伝言についてもそうだし……!」
「素直に情報を吐き出したら教えてあげるよ」
「消えろ」
バロディンは唾を吐き、椅子に戻った。
マナードは眉を顰めたが、シュリは目を細めてバロディンを見つめるだけだった。
バロディンの言葉からの情報はほとんどない。それでも分かるのは、やはり相手種族への敵対感が深いというのは魔族も同じだということ。
外に分かったことなら……。
「アンタ、魔王をかなり尊敬しているね」
「あぁん? 当たり前だ。その御方は偉大な御方だったぜ」
「……」
シュリは黙った。
マントのフードと覆面で丁寧に顔を隠した分、彼女の表情は表には現れていなかった。でも本音はあまり平穏ではなかった。
――何なのよ。あんな考えをしているとは全く知らなかったのに。
シュリがそんなに1人でグズグズしているうちに、マナードは再び出てきて口を開いた。
「魔王はどんな者だったのか?」
「あぁん? 貴様がそれをなぜ聞くのかよ?」
「魔王はベルド殿の休戦提案を受け入れた。そしてその後もお前ら魔族に言い残して戦いが起こらないようにして、命を捧げて人類の不安をなくし……」
「今何を言っているんだ? 陛下がたかが貴様らの安心の為に自ら命を捨てたってんのか!?」
「少なくとも我ら人間にはそんなに……」
「ざけんな! 貴様らは……ぐはっ!?」
シュリは魔法でバロディンをぶん殴って言葉を遮った。そしてマナードを手振りで沈黙させ、席を立ってバロディンに近づいた。
「種族の話なんかしようって来たんじゃないのよ。アンタが人間を何だと思っているかもこっちの知ったことじゃないわ。今私達が知りたいことはアンタがどんな魂胆を抱いているのか、アンタの行動に他の魔族がどれほど同調しているかということなのよ」
「貴様が何を気にしているんだなんて俺の知ったことじゃないぜ」
「そんなに突っ張らない方がいいのに」
シュリはバロディンの目の前に手を伸ばした。そしてその手を中心に魔法陣を展開した。ただ1つの魔法陣ではあったが、その1つが驚くほど複雑で精巧な魔法陣だった。
「この魔法、何か分かるよね?」
「これは……」
バロディンは魔法陣を見るとすぐに眉を顰めた。魔法陣を解析して何の魔法なのかは分かったが……いや、分かったから尚更、シュリがその魔法を取り出したことに当惑した。
「人間のくせに禁断の魔法を使うというのかよ?」
禁断の魔法。その言葉が出た瞬間、マナードが緊張で体を固めた。
禁断の魔法とは、その名の通り禁止された魔法のことだ。禁止された理由は魔法ごとに違う。しかし禁止されたことには当然深刻な理由があり、そのうちの一部は使おうと試みるだけでも重犯罪として処罰されることもある。
マナードはその危険性と重大さを十分に理解していた。だから彼は前に進みながら口を開いた。
「ふざけるな、半魔族。いくら……」
「ん? これ禁断の魔法正しいわよ?」
シュリのしらばくれる言葉に、その場の空気が微妙になった。
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