パート4:魔族と人間(2)
茶髪とひげを奇麗に整えた中年の巨漢だった。服は普通のギルドの制服だったが、その服を爆発させるように内側から満たされた筋肉と2メートルを越す背丈は存在だけでもギルドを埋め尽くすような感じさえ与えた。
現役Aランクハンターであり、ベルドの町のハンターギルドのギルドマスター、マナード・ロムバインだ。
「ご苦労だった、シュリ。後はワタシに任せろ」
マナードはシュリの肩に手を置いて言った。大きくて暖かい手が触れるとシュリの震えが収まった。のみならず他の人々もマナードを見て胸をなでおろした。
マナードは現役Aランクで、大戦争の時も魔族との戦争に参戦したベテランだ。そして人柄も立派な彼はここの精神的支えであり、実力の面でも半魔族を相手にできる戦力だ。この場では最も頼もしい人だろう。
「中に。ハンターカードと討伐証明品はシュリさんに預けるように。シュリさん、君はアント達の依頼結果を処理したまえ」
「はい、マスター」
シュリが手続きを進めている間、マナードはアント達を連れて中に入った。
彼らが入ったのはギルドの内側の部屋だった。サイズは小さく、窓なしに密閉されており、狭い部屋の真ん中に机が置かれていた。言葉どおり尋問室だった。
アントは呆れたような顔で話し始めた。
「ハンターギルドになぜこんなところが……」
「意外に使い道は多いぞ。主な用途は罪が疑われるハンターを追及することだが、戦争の時は捕虜を尋問する場所としても使われた」
マナードはそう言い、バロディンを椅子に座らせた。そしてアントを見ながら何か言おうとした。しかしその前にアントの首の後ろから光が出て、そこから流れ出た粒子が人の形を作り出した。シュリの分身だった。
アントはマナードとシュリを交互に見て慌てたが、マナードは平然としていた。
「久しぶりだな、〝カカシ使い〟。この1年ほど現れなかったから、活動を諦めたのかと思ったぞ」
「休んだだけだわ。貴方は相変わらず元気だね」
「そう言う君こそ今度も体格が変わったな。分身のくせに見た目まで毎度変えるとは、面倒ではないか?」
「私くらいになったらそれくらいは簡単に処理できるわよ」
アントはマナードを驚愕させるような目つきで見た。マナードはアントの表情から考えを推察したように苦笑した。
「見れば分かるだろう。ワタシは〝カカシ使い〟について知っているぞ。あいつが先にワタシに要請してきたんだな。協力関係を結んで、マスターとして密かにあいつの活動を手伝っているんだ。あ、ちなみにワタシもあいつの正体は知らない。いつも分身として現われるからな」
「マスター公認だったかよ……」
「公認というまでもないんだな。ギルドレベルで〝カカシ使い〟に対する調査をもみ消す代わりに、こちらはこちらなりに利益を得るだけだぞ。言わば取引だ」
マナードとアントの話は後回しにして、シュリはバロディンの向かい側に座った。そして足を組んで傲慢な目線でバロディンを睨み付けた。
「バロディン・ディアーク、今から質問するわ」
シュリが指をパッチンと鳴らした。するとバロディンの口を塞いでいた魔法のくつわがするりと消えた。
バロディンは口が自由になるやいなや嘲笑った。
「言うことはない」
「あら、そのうち犯罪者として処分されるかも知れないよ?」
「処分に犯罪なんかが必要なのかよ?」
バロディンは壁を顎で指した。
恐らく彼が言いたいことは外の話だろう。来る途中、彼と敵対して悪口や石を投げた人々はもちろん、ハンターギルドにいたハンター達や受付嬢達も彼を警戒していたから。
バロディンが彼らの前で何かをしていたわけではない。もちろん捕縛され連れてこられた状態ではあったが、彼が何をしたか知られたのではない。だが彼は半魔族であり、魔族の象徴である角や翼、尻尾が赤裸々に表れていた。その事実自体が町を緊張させた最大の要因だった。
もちろんバロディン自身もそれをよく知っていた。
「貴様ら人間はうちの魔族を嫌悪する。もちろん我ら魔族も貴様らを嫌うのは同じだぜ。戦場で我々は数えきれないほどお互いを殺し合い、今でもチャンスがあればいくらでも殺すことができる。人間が魔族を殺すのに他の理由がもっと必要なのかよぉ?」
バロディンの言葉にマナードは眉を顰めて割り込んだ。
「愚かだな。3年前の休戦以来、人間と魔族は互いに必死に和解しようとしているぞ。それを貴様の独断で台無しにするというのか?」
「そう言う貴様は俺が何をしたかも分からないくせにすでに俺がやったということを前提に喋っているが?」
「アントのような不良バカばかりならともかく、〝カカシ使い〟はそれなりに信頼があるぞ。少なくとも理由なく魔族を連れて来る人ではない。そしてバロディン貴様は魔王軍の中でも人間を見下して軽蔑することで有名だった奴だ。そんな奴が引っ張られて来たらまず疑うのが当然だぞ」
「は、舌はよくからかうんだな。貴様が先入観で判断したのはともかく、俺が誰かも知らない他の奴等はそんなに偉そう〝必死の和解〟に同意したりするのかよぉ? そしてなぁ……」
バロディンの目つきが鋭くなった。
その目に込められたのは敵愾心とうぬぼれ。それ自体は今までバロディンが見せてくれたことと大差なかった。しかしその裏に隠されたまま蓄積されたのは、表面上よりずっと重くてジメジメした憎悪だった。
続いて言葉を吐き出す声も、まるで感情をくちゃくちゃ噛んで吐き出すように荒かった。
「休戦? 貴様らが我らの偉大なる王を裏切って殺し、勝手に宣言した休戦なんかに俺達がついて行く理由はないぞ!」
バロディンの雰囲気が変わった。
まるて今にも飛び起きて飛びかかるような勢いだった。マナードとアントは緊張していた。
しかし、彼の正面に座ったシュリだけは相変わらず平静を保ったまま口を開いた。
「何か誤解があるようわね」
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