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パート4:魔族と人間(1)

 シュリがバロディンを倒して数時間後。


 空が奇麗な赤色に染まっている頃、ベルドの町の一角では小さな騒ぎが起きた。


「あれは魔族じゃん!?」


「なぜ魔族がここに……!」


「あのハンター達が捕まえたのか?」


 緊張した顔で歩くアント達の裏側、ジョドの魔法で拘束されてふわふわと浮いているバロディン。その姿を見た住民達が恐れる顔でコソコソと話していた。


 ――クソッ、気になるようにしやがって。


 アントは住民達の声が気に障って眉を顰めた。


 今ここにシュリはいない。どうせ勝手に現われることもできるし、バロディンが暴れたら防ぐと言ったが、シュリが現われる前に死んでしまったら無駄だ。それで最大限にバロディンを刺激したくないが、そんなアントの本心を知るはずのない住民達は大いに騒ぎ立てていた。


 しかも、彼らは単に自分達だけでヒソヒソ話をするだけではなかった。


「うぅ……汚い魔族め! この世から消えろ!」


 ある住民がそう叫びながら石を投げつけた。バロディンには届かなかったが、彼の注意を引くには十分だった。しかしバロディンの恐ろしい目で睨むと、石を投げた住民は「ひいっ」と息を飲んで座り込んだ。


 それが導火線になったらしく、他の住民も恐怖に震えながらも声を上げ始めた。


「このクス! 悪魔っ!」


「魔族はこの世からなくならなければならない!」


「魔族は私の夫の仇だよ……! 彼を返せ!」


 憎悪と恐れが入り混じった叫びと、時々飛んでくる石ころ。バロディンの眼差しと魔族という存在自体に恐怖を感じながらも、住民の反応は実に激しかった。


 ――ちっくしょう! この考えのねぇタワケ野郎らが!


 アントとしてはストレスで胃に穴が開きそうだった。


 遠くから見物しながら大声を出す浅はかなバカ達のせいで魔族が刺激されれば、被害を受けるのはアントだ。しかし何も知らない住民が彼の心などを分かるはずがない。


 ――クソッ、あの女だけがいねぇならいっそ打ちのめして黙らせたが!


 とてもかんしゃくが起こってそんな考えをしたが、そもそも〝あの女〟がいなかったらこのように半魔族と絡むこともなかったということは気づかなかったアントだった。


「やめろ!! 魔族を刺激しねぇよ、このタワケらが!」


 アントは魔力で声を増幅して号令した。おかげで住民の勢いも少し弱まった。だが彼らの吐き出す感情が減ったわけではなかった。


「ど、どうして? その魔族はあなたたちが拘束した……」


「これも完璧じゃねぇぞ! 貴様らが出てきて戦うんじゃねぇなら黙って消えろ!」


 魔族に対する最も明らかな感情は、嫌悪や怒りよりも恐怖だ。


 そんな点でアントの言葉は恐怖を刺激するにはいい言葉だったが、民衆の不安を鎮めるのには全く役に立たなかった。


「な……なんだ! 完璧でもない球速で魔族を連れてきたってことかよ!? そうして魔族が暴れたら俺達はどうなるんだ!!」


「責任も取れないことをどうしてやるんだ!」


「この野郎ともが……!」


 アントは拳を震わせていたが、その時シュリの魔法通信が彼の頭に響いた。


[無視して行って。どうせ魔族が怖くて近付いてくることもできない人達だから]


「……クソッタレぇ!」


 アントは舌打ちしながら踵を返した。住民達は依然として彼や魔族に暴言と非難を浴びせたが、シュリの言う通り誰一人近づいてはこなかった。


 その光景はハンターギルドに到着するまで続いた。


 


 ***


 


 アント達がハンターギルドに到着した時、ギルドの中は相当騒然としていた。


 町に回る噂なんかよりも、町の門番を経由してギルドに直接情報が入ってきた為だ。ハンター達も、そして受付嬢達も、みんな騒ぎ立てていた。


「せ、せせ、先輩、魔族が来てるんですって!」


「だ、大丈夫なの。無力化した状態だというから、大丈夫だと思うわ」


 顔が白くなって絡んでくるリアを、シュリは血の気が引いた顔で震えながらも必死になでてあげた。その姿を見たハンター達や他の受付嬢達は〝毅然としていようと努力する勇者の恋人〟に羨望と心配の目を向けた。


 もちろん、シュリの本音は外見とは全く違っていたが。


 ――私、受付嬢引退したら俳優に転職してもいいんじゃない?


 内心シュリはそう思いながらにやにや笑ってばかりいた。さらに俳優に転職した自分を想像する余裕まであった。


 シュリがそんなくだらない考えをしている間に、アント達はバロディンを連れてギルドのドアを開けた。


「本当に、魔族が……!」


「危ない。刺激するな」


 やはり戦線に立つハンター達。むやみに大声を出していた住民とは異なり、彼らは魔族を警戒して息を殺した。手もいつでも武器を取ることができるように姿勢を取っている。


 ――この町のハンター達は本当に優秀だわね。やっぱり私の旦那様とここのギルドマスターはすごい!


 一人だけ警戒心など爪の垢ほどもないシュリだった。


 アントはシュリに近づいた。他の受付嬢達は今にも逃げ出しそうな状態の中、恐怖で震えながらも必死に席を守っている人がシュリだけだったからだ。


「依頼報告する。そして非常事態も」


「……う、受け付けます。非常事態は後のま、魔族に対することでしょうか?」


「あぁ」


「申し訳ありません。事案が事案ですので、依頼報告より魔族の事案を先に処理します」


「……構わねぇ」


「で、ではこちらへ……」


 シュリは震えながらもアントを案内しようとしたが、その前に奥から重厚な声が流れた。


「良い。案内は私がするぞ」


 そう言って、ある男がギルドの内側から歩いて出た。

小説が面白かったら是非私の他の小説にも関心を持ってくださったらありがたいです!


●最強の中ボス公女の転生物語 ~憎んだ邪悪なボスの力でみんなを救いたい~

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●逃げてしまった神様が世界を〝観察〟しています

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