パート3:魔族(4)
「あら、それはどういう意味かしら?」
「分身体は……本体の力の……一部を分けてもらう。分身で、分身を作って、力が維持されるはずが、ない……!」
「普通はそうだわね。でも私は本体の力をそのまま使うことが出来るのよ」
「……! 本体との……共鳴……!! それは魔王様の秘術だぞ……!」
――え? なんだって?
「まって」
シュリは眉を顰めた。バロディンの言葉が到底そのままでは済まされない言葉だったから。
「魔王の秘術? 死んだ魔王にこういうことができたの?」
「……!!」
一瞬あわてた顔と揺れる魔力。バロディンの反応は実に怪しい限りだった。それこそ情報の匂いがプンプン漂う反応だ。
「魔王は分身系の魔法を使ったことがなかったと聞いているけど?」
「貴様がどうやってそれを豪語するんだ?」
「それはアンタの知ったことじゃないし。アンタこそ魔王の秘術と言うくらいなら、何か根拠があるんじゃないの?」
「……教える理由はない」
「ふぅん。あっそ」
――最初から捕まえていくつもりだったけど、これは情報を上手く引き出さないとね。
シュリはそう思って手を振った。一瞬にして展開した魔法陣がバロディンの体を覆った。バロディンは狼狽したように口を開いた。
「な、何をするつもりかよ?」
「連れていくわよ。アンタの頭の中に入ったものが多い気がして」
「殺せ! 俺が人間に捕まる屈辱を許すと思うのかよ?」
「私がアンタの許しなんかを許すと思ったの? いいから黙ってね」
「うぐっ!」
魔法で作ったくつわがバロディンの口を封じた。それだけでなく、体のあちこちにベタベタくっついた魔法陣が彼を拘束する縄になった。そしてシュリが指をぴくっと動かすと、バロディンの体が空中に浮び上がり、シュリの後を追って動いた。
シュリは拘束されたバロディンを連れてアント達の方に帰った。戦闘の影響で結界はボロボロだったが、それでも完全には壊れていない。
「お、終わった……のか?」
「うん、終わったの。これからのことを話そう」
「は? 何を?」
アント達は結界のおかげで怪我はしなかったようだが、何だかすごく警戒し、怖がっている様子だった。一見反抗的な顔をしてはいるが、実際に見たら妙に従順な感じもした。
――まぁ、かなり派手に戦ったんだからね。
別に意図したのではないが、結果的にAランク相当のバロディンとかなり激しく戦う姿を見せたから。今さらシュリに対する恐怖と畏敬の念が芽生えてもおかしくはない。
「何をのんきに怯えるのよ? 働かなければならないからしっかりして」
「働く? 何言ってんだ?」
「何って、こいつ連行しなくちゃ」
シュリが親指でバロディンをさっと指した。アント達は一瞬何の意味なのか理解できなかったようで、反応がなかった。しかし、その態度が崩れるまでは長くかからなかった。
「反魔族を連行しろ? オレ達が!? 貴様は!?」
「私が前面に出るわけないでしょ。そういうつもりだったら最初からアンタ達を連れて来もしなかったわよ」
「とんでもねぇこと言うな! オレ達が半魔族を連行して行ったら、疑うに決まっているじゃねぇか!」
アントの言葉はごもっともだった。
アント達はアントがCランクで、他の奴らはそれより下だ。当然だが、Aランクでも中ほどになるバロディンを倒して、引っ張っていく実力ではない。そのバロディンを実物で投げても、背後に誰かがいると疑われやすい。
でもシュリは淡々と頭を振った。
「もちろん私もこんな疑いをかけられるきっかけ作りたくないわよ。でもこいつはどうやら重要な情報を持っているようでね。危険を甘受しても一旦は情報を得なければならないわ」
「オレは変な質問を受けるのがイヤだぜ」
「もちろん言い訳はあるわよ」
すると、シュリはバロディンを指差した。
「最初からこんなにボロボロの状態で出くわしたと言って。こいつが瀕死状態のおかげで何とか勝ったと。アンタ達が直接倒したと言うよりはその方が信憑性があるに違いないのよ。しかも魔力の波長については知ってるよね?」
魔力の波長。それはこの世界では常識の常識だ。
魔力を持つ者は皆自分だけの波長を持っており、その波長は似ているかも知れないが、決して完全に同じではない。だから指紋などの要素とともに個人識別に有用に使われる。
「私の魔法をたっぷりかぶったこいつには、私の波長がついているのよ。アンタ達とは違う波長だから、これが言い訳の証拠になってくれるわよ」
「……オレは構わねぇが、貴様は大丈夫なのかよ?」
「どういう意味?」
「貴様はおれ達を利用、正体を隠すのが目的だろう? そんなに堂々と波長を残してもいいのかよ」
「あら、心配してくれるの? 意外だわね」
「ただ気になっただけだぜ!」
「ふふ、分かるよ。でもありがとうとは言っておくわね。そして波長については……まあ、事業上の秘密というか」
もちろん、魔力の波長は隠したり変えることはできない。それがこの世界の常識だ。
しかし、その常識には穴があるということを、世界でたった2人だけが知っている。
――まぁ、その為に全力を発揮できないというペナルティがあるけどね。
「これで雑談はおしまい。これからこいつはアンタ達が持って。拘束魔法もジョドがまた作って」
「オレが? 半魔族を拘束する魔法を?」
「体内を徹底的に焼いておいたから、半日くらいはそのまま投げても動けないわよ。だから安心して」
[そしてでたらめなことをすれば、アンタに想像すらできない屈辱を抱かせるわよ。覚悟してね]
密かにバロディンに魔法通信を送り、にっこり笑った。バロディンの表情が歪んだが、最初から動けない状態だったからそれ以上の反抗はなかった。
状況が収まり、シュリは注意を喚起するかのように大きく手をたたいた。
「ほら、本当に話はおしまい。みんな動いて!」
アント達は仕方なく指示に従い始めた。
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