パート3:魔族(2)
「……貴様」
バロディンの顔から表情が消えた。
しかし彼の瞳が発し始めた光も、皮膚の下で脈動する魔力も非常に激しかった。まさに今にも爆発しそうな感じで。
「それはそうと、ハザードマンを外に出したのはアンタだよね? さっきもいきなりもうすぐ死ぬ命とかを言ったし。何をするつもりなの? 人間とまた戦争でもするつもりなの?」
「それは……」
バロディンは答えようとするかのように口を開いたが、その直後彼の姿が消えた。そしてシュリの後ろに現れた。
「魔族に生まれ変わったら教えてやるぜ!!」
バロディンの拳と、振り向いたシュリの拳が激突した。ドカーンと、手と手がぶつかった音とは信じられない衝突音と衝撃波が周りを襲った。
そして続いたのは無数の手と魔法の応酬。拳と拳が目に見えないスピードでぶつかり合い、瞬く間に無数の魔法陣が展開されてあらゆる魔法を吐き出した。
火と水、氷と雷電、風と岩。一瞬にして多くの魔法が絡み合って相殺され、周辺はすでにすべてが飛ばされた空き地になった。激突の余波はアント達を守る結界まで激しく揺さぶった。
「クハハハハハハ! 面白い! こんなに手触りがある人間は久しぶりだぜ!!」
――人間、か。
シュリは思わず覆面の下で苦笑した。
そのように見えるのはシュリ自身が望んでいたことではあったが、いざ魔族にその話を聞いてみると妙な気分だった。それに相手は気づかなかったが、シュリ自身は実はバロディンと旧知の間柄なのでなおさら。
もちろん、それを今口にするつもりはないが。
「敗北も久しぶりになるわよ!!」
「くっ!?」
シュリがバロディンの腹部に蹴りを突きつけた。バロディンは腕でそれを阻止したが、力を殺しきれずに後ろに下がってしまった。このように距離が広がった2人の間で魔法陣が展開され、巨大な火炎球が爆発してバロディンを襲った。
だがバロディンはにやりと笑って、体に魔力をかけて火炎球に向かって飛び込んだ。
「生ぬるいだぜ、おい!」
バロディンは迎撃用に発動した雷魔法も体で耐え、手のひらに魔力を集中した。その手のひらの中に小さいけれど複雑な魔法陣が出現した。彼はそれをそのままシュリに突き出した。
体術魔法〈螺旋波〉。渦巻く魔力を吐き出して敵を破壊する強力な掌底打ちがシュリを襲った。シュリはいち早く腕を交差させて防いだが、衝撃波が彼女を吹き飛ばした。
「うっ……!」
「ひゃっはっは! そのしっかり包んだ皮を全部裂いてやるぜ!」
飛んでいくシュリよりも速く突進してきたバロディンが拳を振り回した。その腕全体を複雑な魔法陣が取り囲んでいた。
しかし、いきなり周辺に魔法陣が多数出現し、それらから伸びてきた魔力のロープがバロディンの腕をしっかり結んだ。直後シュリの拳がバロディンの顔を狙った。その攻撃は残った腕に阻まれたが、その間にシュリは反対の手の平に〈螺旋波〉の魔法陣を浮かべた。
「くあぁっ!?」
魔力のロープが解除されると同時にシュリの〈螺旋波〉がバロディンの顎を殴り付けた。彼は強烈な衝撃に耐えられず空に吹き飛ばされた。
シュリは拍手を一度打った。パチッという音とともに、青白色電流がパチパチと飛んだ。そして両腕を大きく広げると、その動作に従って雷が四方に広がれた。そして八つの魔法陣を描いた。魔法陣達が明るい光とともに眩しい雷を放った。
「ぐあぁっ!」
天地をとどろかす雷がバロディンを襲った。それも一度じゃなくて、何度も。バロディンの姿は眩しい光に包まれて見えなかった。
しかし、シュリはバロディンの魔力を確かにとらえていた。
――あいつ、防御魔法は最小限にして、体で持ちこたえてるじゃない?
そのままバロディンは魔力を集めていた。姿は見えなくても、彼が何かをたくらんでいたことは明らかだった。
そう判断した瞬間、シュリは地を蹴って跳躍してバロディンのところに飛んでいった。相変わらず荒れ狂う雷電を体で通り抜け、バロディンに再び〈螺旋波〉を叩き込んだ。殴られて飛んでいく彼をシュリの雷電が追った。しかしバロディンが魔法陣を展開した瞬間、シュリの魔法陣が崩壊され、雷電が止まった。
シュリは続けて攻めようとしたが、その前に突然バロディンが多重魔法陣を展開した。それと同時にシュリの周りを包む巨大な結界が現れた。それもかなりの高等魔法が。
――これは……〈空間固定〉?
シュリはすぐに両腕を広げ魔法陣を展開した。
〈空間固定〉は結界内部の時空を凍結させてすべてを止める魔法。いくらシュリでも、完全に巻き込まれては方法がない。そこで〈空間固定〉を無効化する魔法を展開したが、時空凍結を防げたのはシュリの周りだけ。ついに彼女が守り抜いた小さな空間を、凍結された時空の監獄が取り囲む形になってしまった。
[まさか雷電系魔法の奥義である〈滅界八陣雷爆〉をそんなに瞬時に使うとは。本気で驚いたぜ]
凍結された空間の向こうから伝えられたバロディンの魔法通信に、シュリは鼻先で笑った。
[その〈滅界八陣雷爆〉を体で耐えたアンタもタフ極まりないのにね]
[そりゃありがとうな]
バロディンからの返信が届いた直後、不意にシュリの目の前に魔法陣が出現した。
反射的に首を回して避けた彼女の頬を、高速で通り過ぎた何かがちらっとかすめた。覆面とフードが破れ、雷火が跳ねた。
[それを避けるなんてすごいだぜ。ならこれも避けられるか見てみようか?]
バロディンの嘲笑が込められた通信とともに、シュリの周りを数十の魔法陣が埋め尽くした。
それに対してシュリは〈空間固定〉を無効化する魔法を維持する為に無防備な状態。
瞬く間にピンチになった。
――仕方ないわね。
シュリが決めたことと、彼女を取り巻く魔法陣が彼女に殺意を突き出したのは、ほとんど同時だった。
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