パート3:魔族(1)
「これは!?」
「心配しないで。私の魔法だから」
ハザードマン2匹の死体は魔法陣に包まれて一瞬にして消えた。異空間に物を収納する異空間収納の魔法であることを理解したジョドが目を見開いた。しかし、何か反応も見せる前に皆の体が宙に浮んだ。
「何してるんだ!?」
「ちょっと強い奴がいるわ。アンタ達をここに置いて行って他のBランク以上の魔物と出会ったりしたら大変だから、まずはアンタ達も連れて行くのよ」
その言葉だけ残して、シュリはアント達までひっくるめて高速で飛行し始めた。
「うおぉっ!?」
たちまち擦れ違う森の情景。アント達は飛行自体だけで気が気でなかったから気づかなかったが、今飛んで行く方向はだんだん深く入っていく方だった。ハザードマンと戦った所よりも危険な所だ。
しかし、そこにいるのは元々森に住んでいた魔物よりも危険な存在だった。
――どうしてこんな奴がここにいるの?
シュリは内心少し混乱していた。
ベルドが最前線と言われているが、それはこの森……別名〝魔物の森〟と呼ばれるこのアルセンの森と隣接している為だ。アルセンの森は奥深くに入ると強力な魔物がいる場所で、実力のあるハンターにとっては、なかなかの稼ぎの場ではある。
しかし魔族が活動するかと聞かれたら、全然。
アルセンの森は強い魔物が多いが、魔族の領域とはかけ離れている。もちろん魔族が暗躍しやすい場所ではあるが、3年前の休戦協定の条件の一つが、アルセンの森から魔族が撤収することでもあった。そしてその協定はこれまで徹底して守られてきた。
――いきなり魔族が現れた理由は分からないけど……考えてみれば、ハザードマンが現れたのも不思議ではあったわ。
ハザードマンはアルセンの森では珍しい魔物で、それさえももっと深い所で出没する魔物だ。そんなハザードマンが普段より浅い所に現れたのは疑わしかった。今回ハザードマン討伐の依頼を受けたのも、実はそれを調査しようという目的もあった。
――まさか魔族が来たとは思わなかったけどね。
目的地に到着したシュリはアント達を少し離れた所に降ろして、彼女自身は1番前に降りた。
「……あぁ? 何だ、貴様は?」
そこにいるのは、かなり背が高くて筋肉が適度についた青年だった。
長くて濃い藍色の髪をローポニーテールで結び、長く破れた目つきの中で瞳孔が縦に裂けた赤紫色の目が光った。服装は首の周りに毛がついているジャケットをはじめ、比較的に平凡だった。だが頭に生えた角と後ろの翼と尻尾は決して平凡ではなかった。
「どうして半魔族がここにいるの?」
「俺の質問は無視しながら貴様は勝手に聞くのかよ? 無礼なアマだぜ」
半魔族。その名称にアント達は顔を白くした。
魔族は世界最強の生物であり、魔力を作り出すことができる唯一の生命体だ。純血の魔族である純魔族とは異なり、半魔族は魔族と他の生物の混血であるが、それでも遺伝的に魔族の因子が半分以上を占める。
実は人間が魔法を使えるのも、記録さえ消失するほど遠い昔に魔族と交流のあった人類の末裔だからだ。魔族の因子が最初から存在しない純粋な人間はほとんどいない。
それにしても、今の人類が遺伝的に持つ魔族因子の割合は1割未満。つまり魔力を作り出す魔族の形質は純魔族の1割未満であり、魔族の形質が半分以上を占める半魔族と比べても圧倒的な差がある。
つまり、一言で……人間と魔族の間にはとてつもない肉体的、魔力的な格差がある。
それに人間と魔族は長い間反目した間柄。3年前に休戦協定を結んだとしても、その憎悪と無理解の溝はまだ歴然としている。
つまり……今も露骨に敵愾心と殺意を吐き出すあの半魔族が、シュリ達を見逃す確率は低い。
「あ、アニキ、半魔族は最低Cランクなんが……」
「それも子供の話だぜ。あんな奴ならAランク以上だぞ……!」
いくら傲慢で不良でも、アント達はせいぜいCランク。半魔族には対抗すらできない。そんな彼らの立場から見ると、反魔族を前にしても平気なシュリも十分に不思議な存在だった。
半魔族もそんな彼女の態度が気に入らないのか、小さく舌打ちして脅威的に魔力を噴出した。
「生意気だな。それでももうすぐ死ぬ命だから、自分を殺した奴が誰なのか知らないとな。恐怖に震えながら聞け、俺は……」
「バロディン・ディアーク。魔王軍2軍団3大隊の大将。人間の基準でAランク中位圏に当たる強者。この前の大戦争の時も最前線で活躍したのね?」
「……。何故知ってるのか気になるが、なかなかよく知っているな。それを知っていながら生意気にふるまうのかよ?」
「聞き直すよ。魔王軍の大隊長くらいの奴がどうしてこんな所にいるの? 協定によってここは魔族立ち入り禁止だと思うけど?」
「はぁ! クズとの協定なんかに頭を下げる理由はないぜ!」
バロディンは好戦的に魔力を引き上げ、アント達は恐怖に怯えて逃げようと考えた。シュリはそんなアント達に魔法通信を送った。
[軽挙妄動せずにじっとしていなさい。むやみに動いたら守ることも難しいから]
そして簡単な手振りを取ると、瞬く間に複雑な結界が幾重にも展開され、アント達を庇った。それを見たバロディンがにやりと笑った。
「なかなかやるな。だが、せいぜいその程度でこの俺と立ち向かうつもりなら……」
「ぶつぶつ言わなく、喧嘩したければかかってこいよ」
「……なんて恐怖を失ったアマだぜ」
「ブフッ、怖がる理由なんてあるの?」
シュリは挑発するように唇を引き上げた。どうせ覆面のせいで見えなかったけどその気配は感じたのか、バロディンの表情が歪んだ。
そんな彼に決定打が飛んでいった。
「大戦争の時も勇者にめちゃくちゃにされ、尻に帆をかけて逃げて命だけやっと救ったじゃない? その時に怪我をしたのは全部治ったの?」
小説が面白かったら是非私の他の小説にも関心を持ってくださったらありがたいです!
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