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幕間:違い

『パート1:可愛い受付嬢の日常(3)』と『パート2:受付嬢は怖い(4)』の話に修正された部分があります。今日の前に該当する部分をお読みになった方は、もしよろしければもう一度見比べていただければありがたいです!

「魔王様、ザルトモの街で食堂同士が争いになりました!」


「取り成す者をよこせ。そして行くついでに夕食を買ってきて」


「魔王様、昨日捕まった泥棒の犯行動機が明らかになりました。生計型犯罪だと言います」


「監獄に入れろ。そして監獄にいる間に適性に合わせた教育を提供する。出所後は正当に働いて食べていけるように」


「魔王様! 西区域の民用住宅が崩れました! 手抜き工事だそうです!」


「担当者を今すぐ減俸させて始末書を書かせろ!! そして怪我した民がいないか徹底的に調査しろ!」


 早朝から降りそそぐあらゆる報告と、そこに1つ1つ答える魔王。勇者はその姿をじっと見守っていた。


 報告内容は平凡な雑務からあらゆる事件・事故に至るまで多様だった。元々最近は戦争関連の事案が多かったというが、勇者の提案で一時的ではあるが休戦になったおかげで、日常的な雑務が増えたという。


 もちろん、その中でも戦争の再開に備える為の内容は時にはあった。そして勇者の滞在に懐疑心や不満を抱く者もいた。


 ――今まで見た感じでは、魔王のカリスマ……というよりも人間味があったからこそ、団結できる集団といえるだろうか。魔王に人間味っていうのも変だけど。


 魔王は強い。恐らく魔王軍で最強であるほどでは。それは勇者自身が直接戦ったことだからよく知っている。だが、魔王はその力を支配には全然使っていなかった。


 むしろ街中の食堂で買ってきた食べ物で食事をする。仕事をする時は配下の意見を聞いて、足りない部分があれば頭をつき合わせて悩み、失敗する配下は次はよくするように督励する。そして偶にはただゴロゴロしたりもして、サボっていたところを配下に見つかってひどい目に遭ったりもした。


 その姿は正直に……。


「ふゅう、まったく。今日も忙しいことこの上ないわね。いっそ戦争中の時の方が暇だったわ」


 魔王はため息をつきながら玉座にどっかりと座り込んだ。


 勇者が思いにふけっている間、怒濤のような報告が終わっていた。額に手を当てる魔王の表情はそれこそ、溢れる仕事にうんざりする顔だった。


 しかし戦争の時の方がいいと言いながらも、窓の外の街や配下を眺める目つきは穏やかだった。


「それで? 急にここにどうして来たの?」


 魔王の言葉に勇者は気を取り直して想念から抜け出した。


「ただ働くのを見たくてね」


「もうたくさん見たでしょ。普段と変わらないのに」


「それはそうだけど」


「……味気ない奴。それはそうと勇者、どうせ来たから私も聞きたいことがあるんだけど」


 魔王は少し興味ありげな表情で勇者を見た。頬づえをしたまま笑う顔には、戦う時の覇気が欠片もなかった。


 ――何だよ、何か可愛い……いや、これじゃなくて。


「何だ?」


「貴様は魔族をどう思うの?」


「……はぁ? それは急にどうした?」


「戦った時も聞いたけど、その時は返事をしなかったでしょ。私は貴様が聞いたことに答えてあげたのに。ちょっと狡いじゃない?」


「魔王がそんなことで狡いと言ってもいいのかよ?」


「やってはいけないという法でもあるの?」


 平然とした反問。本気というのは強いて頭の中を見なくてもわかった。これまで勇者が見てきた魔王の姿は当然そうだったから。


 だからこそ、勇者はなおさらその質問に答えたかった。


「……別に面白い話じゃないけど」


「面白くしろっていう話じゃないじゃない、こんなの」


「連合軍を結成する前にも、そして結成後も……魔族はたくさん見たよ。だからこそ、さらに疑問があった」


「疑問?」


 勇者は小さく頷いた。


 今まで彼が見てきた魔族の姿と、魔王が今見せてくれる姿。その姿を見守った勇者の頭の中では、すでに疑問の段階を越えた確信などが育っていた。


 その確信を、口にする。


「お前ら魔族は……本当に人間と違うのだろうか?」


 もちろん違う。肉体的に大きな差があるから。


 でも、勇者が言うのはそんな話じゃないってことぐらいは、魔王も理解していた。


「友達が死んだと復讐心に燃える魔族がいた」


 勇者の声はとても淡々としていた。しかし、その淡々とした態度は無感情なものではなく、揺るがない確信を込めた淡々さだった。


「愛する者を守ろうとする男がいた。子供は助けてほしいと祈っていた母親がいた。新しい魔法を開発しようとする情熱に燃えていた学者もいた」


 勇者の確信に満ちた目が、魔王の目を見つめた。


 瞳孔が猫のように縦に割れているが、目つきと感情は人間と全然変わらない目を。


「彼らが……人間と何が違うんだろう?」


 勇者はすでにその質問の答えを決めていたのが、彼の眼差しから生々しく伝わった。


 それゆえ魔王は、真心を込めて彼の心に応えた。


「違わないわ。我々も恋をして、憎悪もして、退屈したりもして、楽しいことを望むわよ。もちろん我々には角と翼があり、自由自在に動く尻尾があり、瞳の形も違う。生まれつきの力も違うし」


「それは殻に過ぎない。肉体は違っても、いや、もしかしたら魂も違うかも知れないけど……その心の形だけは同じではないだろうか?」


「……それを我々の祖先が理解していたら、お前らと我々はつまらない戦いで大切な命を浪費しなかったのに」


 魔王は一瞬、苦笑した。しかし、すぐに収拾してからは、真剣な顔に変わった。声も厳粛になり、言葉遣いまで変わった。


「それを理解した貴様に、重要なことを問わざるを得ないな」


「何だ?」


「名前だ、勇者よ。こんな話をしている我々が、まだ互いに名前のない魔王と勇者である必要がどこにある?」


 勇者は少し意外だったように目を見開いたが、すぐに微笑んで頷いた。


「そうだね。……ベルド。ベルド・リオネストだよ」


「ベルド、か。いい名前だな」


「そうだろ? 故郷を愛する父さんが、故郷の名前に因んで名付けてくれたんだよ」


「故郷を愛するいい父親だな」


 魔王は微笑んだ。今まで勇者が一度も見たことのない、穏やかながらもどこかおぼろげな笑顔だった。昔の思い出でも反芻するのか。


 奇麗な唇がゆっくり動いた。


「私はカシュレア。カシュレア・ディアボリスだ。宜しく頼む、ベルド」

小説が面白かったら是非私の他の小説にも関心を持ってくださったらありがたいです!


●最強の中ボス公女の転生物語 ~憎んだ邪悪なボスの力でみんなを救いたい~

https://ncode.syosetu.com/n1356hh/


●逃げてしまった神様が世界を〝観察〟しています

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