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プロローグ 彼に会った魔王様

 まるで地獄のような光景だった。


 大地を支配するのはすべてを燃やす火炎。生きているものは何一つなかったし、溶けた土が溶岩となって流れていた。空間を支配する熱気は息を吸い込んだ瞬間、肺を燃やしてしまうほど熱かった。


 そんな死の大地で、熱気を分けて走る2人の存在がいた。


「粘り強いのね、人間!」


「俺の言うことだ!」


 角と翼を見せながら火炎を支配する女と、赤雷を従えて彼女に立ち向かう男。そこを死の地にしてしまった獄炎が女の志に従って男を燃やそうとしたが、彼の力は獄炎を吹き飛ばすほど強かった。


「くっ……こりごりだわよ!」


 女のヒステリーに反応するように炎がさらに上がった。


 こりごりだ――その言葉に男も心の中では全く同意した。それもそのはずだった。2人は4日間、一瞬も休まずに戦い続けたから。


 どちらも仲間はいなかった。最初からなかった訳ではなかった。ただこの激しい死闘に追いつけず、全員脱落しただけ。それほどこの2人――魔王と勇者は格の違う強さを持った存在だった。


 女――魔王が手を伸ばした瞬間、地面を覆った炎と熱気がすべて男――勇者に押し寄せてきた。それこそ勇者を囲んで圧殺しようとするかのように。しかし勇者が四方にまいた赤雷が炎をすべて相殺した。


 そのまま飛び込んだ勇者が剣を振り回した。魔王は獄炎をまとった剣でそれに立ち向かった。赤雷をまとった剣と獄炎をまとった剣がお互いを押し出し始めた。


「ふ……ふふ、疲れたみたいね。力が弱くなったわ!」


「それはテメェも同じだよ!」


 あっという間に数十回の斬撃が行われた。普通の人の目では視認すらできないほど速く、一つ一つが歴戦の猛者をも殺せる必殺の剣撃。それを数え切れないほど取り交わしながらも、2人は無傷で相手の攻撃を相殺していた。


 そして魔王が大きく剣を振り回した瞬間、勇士もまたその攻撃に全力で立ち向かった。大きな爆発が起こり、両者とも衝撃波に押し流されて距離が開いた。


「本っ当に、こりごりだわね。人間の中に貴様ほど強くて煩わしい奴がいるとは思わなかったわ」


「は、それはほめ言葉かよ?」


「勿論だとも。この私とここまで戦っても死ななかった生命体は貴様が初めてだわ」


 そして魔王は剣を取り直して炎を起こした。太陽のように熱い炎が剣をまとった。


「かかって来なさいな。敬意を込めて燃やしてあげる」


「その前に、一つ聞いてもいいか」


「はぁ? 戦いの中に何の譫言なの?」


 魔王は眉を顰めたが、勇者は我関せずと言いたいことを口にした。


「魔王、お前は……人間をどう思う?」


「……はぁ?」


 いきなり何の譫言を言ってるんだ、と言いたいような顔の魔王だったが、勇者の眼差しは戦う時よりも真剣だった。


「戦いが始まるやいなや、お前は俺の仲間を全員無力化して監禁したんだ」


「それがどうしたの? 我が城から侵略者を排除するのは私の勝手だわよ」


「じゃあどうして殺さなかったよ? 俺達はお前の城に攻め入った敵なのに」


「変なことを聞く人間だわね」


 魔王は眉を顰めながらも口をつぐむことはなかった。剣は依然として勇者を狙っていたが、攻撃してこない彼に先に攻撃をする気配もなかった。その事実がますます勇者の心に迷いを残した。


「どうしてそんなこと聞くのか分からないけど、ひとまず返事はしてあげる。……関心などいないわ」


「……は?」


「関心などいないわ、って言ってたわよ。貴様らがどこで何をしようと、それが魔族の私と一体何の関係があるの?」


「魔族は……人間を恨んではいないのかよ? 今回の戦争は、我々人間が先に攻撃して起きたはずなのに」


「恨むとも。私の傍にも人間を征服しようと叫んでいたバカが山ほどいたわ。でも私は違う。憎むなら自分だけでやれということなのよ。何の考えもない私にまで強要しないで!」


 魔王が剣を振り回した。獄炎の強烈な熱気が勇者にむっと及んできた。だがそれだけ、炎が彼を直接燃やす気配はなかった。


「そもそも貴様らが先攻したと言っても、それは今度の戦争のことだけ。魔族と人間の戦いなんか、いつ何の為に始まったのか記録さえ失くしてしまったほど古いわ。当然お互いに数え切れないほど殺害して殺害されただろうね。誰の過ちなのか判断するにはすでに遅すぎるわよ」


 その瞬間、まるで瞬間移動のように突然近づいてきた魔王が剣を振り回した。今度こそ刃と獄炎の勇者を狙った。しかし、その剣は猛烈ながらも殺気がなかった。その事実がますます勇者を混乱させた。


「じゃあ、お前は……人間を憎まないってことかよ!?」


「言ったでしょう? 興味ないわ。それぞれが豊かに暮らせば楽だろうというのが私の本音だわよ。でも私は魔王。私一人の感情で配下の心を無視することはできないのよ。だから貴様を殺して脅威をなくす。それが今私がしなければならないことだわ!!」


「くっ!」


 再び大きな攻撃が交差し、2人の距離が再び開いた。しかし魔王は先ほどの激しい猛攻が嘘だったように、ただ剣を向けたまま口だけを動かしていた。


「そういう貴様はどう思うの?」


「どういう意味だよ?」


「ありきたりじゃない。貴様が私に尋ねたのと同じ意味だわよ。貴様は魔族や戦いについてどう思うの?」


「俺は……」


 勇者は自分の手を見下ろしながら考え込んだ。脳裏に浮かぶのは、これまで見てきた魔族の姿。彼らを見て感じたこと、考えたこと……そんなことを思い出した瞬間、彼の口が自然に動いた。


「一つ提案したいことがあるんだけど」


「遠まわししなくはっきり言って」


「戦いを止めてくれ。そして俺の仲間達は解放してくれ」


「……はぁ? 今それを言葉だと……」


「我が軍勢には俺の名前で退けと言うつもりだ。俺が総司令官だからその程度の権限はあるんだ。国にも休戦を要請する書簡を送ればしばらくは大丈夫だろう」


「私が何を信じてその提案に従うの?」


「その代わりに……俺が人質になる。もちろん俺が変なことをしたりお前達魔族に害を及ぼそうと思ったら、約束は破棄してもいい。それでも俺はお前ともっと話してみたい。魔族について、人間について、そして……我々について」


「……」


 魔王は眉を顰めた。


 常識的に信じがたい。油断した隙を突こうとする企みかも知れないし、中でおかしなことをすると魔族が被害を受けるかも知れない。


 だが、戦いの最中に不思議な質問をする勇者は魔王にも初めてだった。そして彼の言葉が本心だった場合、それを通じて何が変われるかは……期待できるんじゃないか、そんな気がした。


 しばらく悩んでいた魔王はついに口を開いた。


 ………。


 ……。


 …。

今日から新しい小説開始します!!

面白かったら是非私の他の小説にも関心を持ってくださったらありがたいです!


連載周期は不定期自由連載です。

頻繁に更新される時もあるし、しばらく更新されない時もあります。

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