46話 舞踏会
そして二日後。ルベルニアの援軍を慰労する為のパーティの日になった。
「ふふふーん」
「ご機嫌だな」
「王宮のパーティなんてこれが最初で最後かもしれませんから」
その日、まだ日のあるうちから緑色のドレスに身を包んだエリンは上機嫌で髪を結い上げていた。
今日はシルヴィエの付き添い人としてエリンも参加するのだ。
「さ、お師匠様も」
「いや、私は……」
「こういう時くらいはお洒落しましょうよ」
「う、うん」
「そうですね、半分は下に下ろして……」
こんなやり取りをしているうちに日が暮れてきた。
すると、シルヴィエの館のドアノッカーが叩かれる。
「はいはーい!」
「俺だ! カイだ! 迎えに来たぞ……おお」
カイは扉が開かれた瞬間にのけ反りそうになっていた。
「……変じゃないか」
「ちっとも! 全然!」
カイは首が取れるくらいの勢いで首を振る。
「いやあ……変わるもんだなって……」
カイの言う通り、今日のシルヴィエの装いはラベンダー色のドレスにたっぷりとフリルをあしらった可愛らしいもので、髪もエリンの手によって編み込まれ、リボンで飾られている。
「エリンの趣味だ。まあいい。早く行こう」
「ああ」
カイはこれ以上何か言って、シルヴィエの気持ちが変わったら厄介だと思い、馬車のドアを自ら開いた。
「さぁ乗った!」
こうして三人は王宮のパーティへと向かった。
「カイ、シルヴィエ!」
そして会場に入ると、すぐにユリウスがやってきた。
「良く来てくれたね」
「ああ」
白い正装に身を包んだユリウスをシルヴィエはなんだかまともに見れなくて、ついそっぽを向いてしまう。
「……あんまりこういうのは好きじゃないんだろう。でも来てくれてありがとう。ドレス姿もとてもかわいいよ」
「あ、あ……その……」
ユリウスの率直な言葉に、シルヴィエの顔は真っ赤に染まった。
「ははは、お師匠様は照れ屋ですねー」
「そちらは?」
「私はお付きのエリンです。シルヴィエ・リリエンクローンの一番弟子です!」
「ほう、それはそれは。是非パーティを楽しんでくれ」
「ええ……」
エリンはじーっとつま先から頭のてっぺんまでユリウスを舐め回すような視線で見つめた。
一瞬間を置いて、エリンとユリウスの間に火花が散……ったような気がしたのは気のせいだろうか。
「カイ、エリン! お腹すいた!」
「あ、ああ。じゃあまず食事を」
「そうですね」
「と、言う訳で後ほど。ユリウス殿下!」
シルヴィエは微妙な空気を打ち破るような大声を出して、とうとうその場から逃げ出した。
「エリン……。相手は王族だぞ」
カイがそうエリンを窘めると、彼女はしれっと答える。
「いえ、お師匠様の相手がどんな男か見定めようかと思いまして」
「エリンに男を見る目があるのか?」
「ありますよ、失礼な!」
「お前達、静かにしろっ」
やいのやいのと言い合いながら、三人は席について楽しく豪華な食事を楽しんだ。
それから舞踏室へと移動する。
……が。
「私は入っていいのかな」
「なにを今更」
「兵士達の会場に行こうかなって」
歓談する貴族の男女。その中で一人ちんちくりんな自分にふと気づいたシルヴィエは、急に居たたまれない気持ちになったのだ。
もちろん、シルヴィエは本当に子供な訳ではないのだから理屈としてはここに居てもいい。むしろ今回の主役ではあるのだけれども、先程からチラチラと周りから感じる奇異なものを見るような視線を感じてならない。
「お嬢さん、もしかしてダンスのお相手をお探しでは?」
「……ユリウス!」
その時、あからさまに憂鬱そうな顔をしたシルヴィエの前に出てきたのはユリウスだった。
「ダンスなんて……背も足りないし……」
「大丈夫、大丈夫! ほら、音楽がはじまる!」
ユリウスは戸惑うシルヴィエの手を取り、無理矢理にホールの真ん中に連れ出した。
「そもそもダンスなんて出来ない!」
「いいから。俺の靴の上に足を置いて」
ユリウスはシルヴィエを抱え上げると、自分の足の上に乗せる。
そして鳴り出した音楽とともに踊り出す。
「わわわ……」
「俺の動きについてくれば大丈夫」
そう言ってユリウスはゆっくりと踊りだした。
「……ね?」
「うん……」
「嬉しいな、一度シルヴィエと踊ってみたかったんだ」
これをダンスというのだろうか、と思ったシルヴィエだったが、心底嬉しそうなユリウスの顔を見て黙りこくった。
そのうちにテンポの速い曲へと切り替わっていった。
「む、無理だ!」
「じゃあ、こうしよう」
ユリウスはシルヴィエを抱き上げると、そのままくるくると回り始める。
「こんなの無茶苦茶だ!」
「言い足りないなら何度でも言うよ。俺はそのままの君が好きなんだ」
「ユリウス……」
「さ、曲が終わる……楽しかったけど、ちょっと別の所にも顔を出さないと」
ユリウスは寂しそうな顔をしながらシルヴィエを置いて、他の貴族の集団の方に向かってしまった。
シルヴィエはユリウスの体温と香りを急に感じられなくなって、ぽっかりと胸に穴が空いたような気がした。




