41話 憶測
『賢者の石……』
始めは聞いているのかそっぽを向いていたイフリートだったが、「賢者の石」という言葉を耳にするとピクリと反応してこちらを向いた。
「そう、賢者の石!」
『賢者の石はもう我がとっくの昔に砕いてしまった。今は無いものだ』
「それでもその魔族はそれがここにあると思ってやってくると思います」
『……だとしても我には関係のないこと。勝手にするがいい』
そのまま何を言ってもイフリートは答えなくなった。
「どういうことだ? シルヴィエ」
「魔族が来ても私達には不干渉……ってところだろうな。まあ、そうなるとは思っていた」
「そうか……」
となれば、再びあのファラーシャと二人で対決しなければならない。
「シルヴィエ、その前にここまであいつらはたどり着けるかな? あの精霊達の試しを超えて」
「魔族は粗暴で残忍だが上級魔族になれば知恵も人以上に働く。甘く見ないほうがいい」
「なるほど……ではしばらくここで待つか……」
「イフリート! ここで我らが待っててもいいでしょうか?」
『好きにするがいい』
どうやらシルヴィエ達がここにいることに関しては許されたらしい。
なのでしかたなく二人はイフリートの横の岩にぽつんと腰掛けて、ファラーシャ達がやって来るのを待つことになった。
***
「おお、降ってる降ってる」
「痛い……痛いです……あははは」
その頃、降りしきる精霊達の中をファラーシャ達は突き進んでいた。
「おや、ようやく上級精霊のお出ましだ」
泉にたどり着くと、ウンディーネが姿を現した。
『魔の子よ、何用でここに来た』
「精霊竜の持つ、『賢者の石』をかっぱらいによ」
その途端、ウンディーネの髪が逆立つ。
『貴様達、通す訳にはいかない』
「あははは! 丁度いい。前哨戦と行こうか!」
ファラーシャの詠唱で、ナミラの変化したコウモリ傘は巨大な鎖鎌へと変化する。
「さあ、来い! きゃははは!」
精霊の森に悪意に満ちた笑い声が響いた――。
***
「それにしても、あのファラーシャとかいうのは元々大軍勢を連れて精霊の森にくるつもりだったんだろう? そんなんであの精霊達を乗り越えてここまでやってこれるのか?」
「それは私も疑問だった。思うに……パフォーマンスみたいなものだったんじゃないかなって」
「パフォーマンス?」
「ほら、ルベルニアの援軍が王都を出てきた時みたいに。彼女らも魔王を復活させる為と、熱狂の中で魔族領を出てきたのかもしれないな、と」
なるほど、カイは頷いた。それならばほぼ全軍を壊滅させられて悔しがるでも悪意を向けるでも無く飄々としていたのにも頷ける。
「軍を率いるというのは大変なことだ。総大将というのは心労が半端ない」
「ああ、ユリウス王子は初めてなのによくやっていた」
「うん、そうだな。だからあそこでルベルニア軍が魔族軍を蹴散らしたのは、もしかしたら彼女らにとって好都合だったのかもしれん」
「かえって身軽になったと」
「そうだ」
シルヴィエはそう頷いた。
それでも疑問は残る。もしかすると二人でもこの森の中を通り抜けられる切り札があるのかもしれない。シルヴィエはそう考えたが、憶測に過ぎないとそれは口にしなかった。




