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幼女になった若返りの大聖女は、孤高のひきこもり研究三昧ライフを送りたい!!  作者: 高井うしお


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35話 賢者の石

「さて、残滓の濃いうちに準備を済まそう」


 シルヴィエはパンパンとスカートの埃を払うと、ロッドを握り直し地面に魔法陣を書き始めた。


「ここをこうして……こう! さぁ、シルヴィエ・リリエンクローンの名において姿を現せ!」


 それはどうやら召還陣だったようだ。

 まばゆい光が辺りを包み混み、何かが召喚された。

 それは小さくてもふもふで、真っ白の……。


「クーロ!?」


 見慣れたその姿に、カイは素っ頓狂な声で叫んだ。


「およびですかー、あるじー」

「ああ、クーロあんたの出番だよ」

「おしごとですか! おまかせください!」


 クーロはふかふかの胸を張って、自信満々で頷いた。


「シルヴィエ……その子犬をどうするつもりだ?」


 ユリウスも不思議そうな顔で、首を傾げる。


「クーロにここの魔力の残滓を追わせる」

「え、この子にそんなことが出来るのか?」


 カイが疑いながら聞くと、シルヴィエはにやっと笑ってクーロを抱き上げて頭を撫でた。


「ああ。フェンリルの嗅覚はもの凄いんだ。しかも犬と違って魔力をかぎ分ける能力がある。しかも幼獣の時の方が敏感なんだ」

「ぼくはできますよ!」

「そ、そっか……」


 シルヴィエはやる気満々のクーロを地面に下ろした。


「むう……いやーな感じがしますね」

「ここの魔力の匂いを辿って欲しい」

「うーん、あっちの方に向かってます」

「西か……」


 シルヴィエはクーロの指し示した方向に目をやった。


「ここから西は聖域とされているはずだが」

「本当か、ユリウス王子」


 ユリウスが真剣な声で呟くと、カイは驚いたように振り向いた。


「シルヴィエ、聖域……ってなんの聖域だ?」

「この先の領域には精霊竜をはじめとした精霊達の住処なんだ」

「そこに向かってる、ってことか?」

「ああ、その可能性が高い」

「それって……」


 カイの表情も厳しくなる。


「やつらの狙いは人間領じゃない。精霊の森かもしれない」

「……なんでだ?」

「うむ……」


 カイの質問に、シルヴィエは考え込んだ。

 魔族と精霊。どちらも人間ではなく、人智を超えた存在だ。

 魔族が時に人を喰らい、暴力を好むのに対し、精霊は欲がない……いや、独特の価値観で動いている。

 きちんとした手はずを取れば魔力や対価の代わりに力を貸してくれる。逆に侮れば命さえ奪う。それが精霊だ。

 だからわざわざ魔族であっても容易に手を出すとは考えづらい。


「精霊竜……あっ!?」

「どうしたシルヴィエ?」

「まさか……『賢者の石』!?」


 シルヴィエはその考えに至り、思わず大声を出した。

 賢者の石。それは膨大な魔力を秘めた魔石の呼称だ。

 所詮、魔石と言うにはあまりにも強力な為、それを求めて各地で争いが起こったと言う。

 人も魔族も関係無く殺し合い、奪い合ったその争いは始めの人魔の戦の始まりと伝わっている。

 そんないわくのあるシルヴィエが口にした言葉に、カイは不可解な顔をした。


「賢者の石って……おとぎ話だろう。人と魔族が互いに争っている中で、精霊竜が現われて、石を壊していったって」

「ああ……でもそのおとぎ話はどこかで間違って伝わって、もし石を壊してなかったとしたら?」

「精霊竜の元に膨大な魔力の石があるってことか」

「そう。……もしかしたら魔王の封印紋も破壊できるような代物がな」


 シルヴィエとカイ、そしてユリウスは顔を見合わせた。


「だとしたらこの世界の危機だ」

「そうだ、ユリウス。もしあの魔族女がその力を手にしたら……なんとしても止めねばならん」

「シルヴィエ、急いで追うぞ」

「ああ。……ユリウス、負傷者と残りの兵士達のことは頼んだ。私とカイはやつらを追う」


 シルヴィエは真っ直ぐにユリウスを見た。

 ユリウスもまた、シルヴィエを見つめ返す。


「互いに譲れぬ責務が二人を引き離そうと、俺の思いは揺るがない。……これだけ覚えていてくれ。どうか無事で」

「任せてくれ。私は大聖女シルヴィエ・リリエンクローンだ」


 ユリウスが手を伸ばす。シルヴィエはその手に小さな手を差し出してしっかりと握った。


「では! 本国にて待つ!」

「ああ!」


 こうしてユリウスが去った後、シルヴィエはロッドの先で更に魔法陣を描いた。

 そして魔力回復薬をごくりと飲み下して詠唱を唱える。


「シルヴィエ・リリエンクローンの名において姿を現せ! エル! ナキ!」


 光り輝く魔法陣。そこからはクーロの両親、エルとナキが姿を現した。


「呼んだか」

「ああ」


 召喚術は二種ある。知らないものを呼び出すものと既知のものを呼び出すもの。

 既知のものを召喚するほうがグッと魔力は少なくすむ。

 だからこれはエルとナキの顔と名を知っていたから出来た荒技だった。

 そうでなければ今のシルヴィエだったら魔力切れを起こしていたに違いない。


「クーロとある魔族の後を追う。精霊の森に向かっているようだ。力を貸してくれ!」

「分かった。二人とも我らの背に乗れ」


 カイとシルヴィエはエルとナキの背に乗った。


「パパ、ママ行くよ! こっち!」


 クーロはナキに首筋を咥えられながら西の方向を指し示した。


「では行こう。しっかり掴まれ」


 そうして風のようにエルとナキは精霊の森、聖域に向かって走り出した。


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