スペースインパルス④
クリスがあせる。
「やば。急いで艦橋に行きます。ニコライ機関長、緊急通路使用します」
「了解。許可する」
「みなさーん、ついて来てくださあーい」
啓作も合流し、第一格納庫に戻る。
「何を取って来たの?」シャーロットが訊く。
啓作は黙って一冊の本を見せる。
パンゲア星で明が拾ったデコラスの研究ノート。
「?」
第一格納庫の奥には色のついたドアが3つ並んである。赤・青・黄・・信号か?
クリスは赤色のドアに駆け込む。明たち一行も続く。
扉の中はやたら眩しい。ようやく目が慣れると・・
「え?」
そこはメインブリッジの前のエレベーターホールだった。3つのエレベーターとメインブリッジの扉以外に色分けされたドアが5つある。
「緊急移動用の通路です。本当は戦闘時は使えないんですけど、艦尾から10分以内に戻るには仕方ありませんわ」
空間を繋げたワープトンネルと原理は同じだ。艦橋―機関室、艦橋―作戦室といった主要な場所のみ繋がっている。緊急時しか使えないが戦闘時は閉鎖されるらしい。
「どこでも〇〇」それを言ってはいけない。
メインブリッジに到着するや、艦長席の流啓三が命ずる。
「来たか。席に着いてくれ」
明たちは補助席に着く。
アランが説明する。
「前方の惑星に大銀河帝国の無人基地があり、ESP波を中継増幅しています。これを叩きます」
メインパネルには惑星の地表、一見巨大なクレーターに見えるパラボラアンテナが映っている。直径は計測上20kmある。
「艦長、次元衝撃砲を使いますか?」
「直接標準でいい。第一第二主砲発射用意」流艦長の命令を、
「主砲発射用意」戦闘長のロイが復唱する。
ロイは銀髪赤眼の白人男性。35歳。服には赤の二本ラインがある。
主操縦席に座るのは航行長のサライ。ロイと同期の白人ムキムキマンだ。服は青の二本ライン。
第一砲塔。リックが機器を操作する。主砲の仰角が上がる。隣の第二砲塔も同様だ。
ターゲットスコープに基地を捉える。
「測的完了。自動追尾作動。スイッチ戦闘長に渡します」
接近に気づいた敵基地は臨戦態勢に入る。警報が鳴り響き、宇宙高射砲がせり出す。
「撃て!」
ロイは発射ボタンを押す。
艦首上甲板の二基六門の主砲が唸る。ドッヴォォォーーーンン・・
「(こんな距離から?)」
明は信じられずに、横の啓作と顔を見合わせる。
二つの光の束が惑星に向かう。
基地に命中。巨大なアンテナが木っ端微塵に吹き飛ぶ。
ポカンと口を開けているヨキ。
声の出ない美理。その目は無人でよかったと言っている。
「敵基地沈黙、いえ消滅しました」クリスが報告。
「状況終了。戦闘配備解除」
「ふう」緊張が解け明たちはため息をつく。
啓作は立ち上がり、アラン副長のもとへ。あの本を渡す。
「デコラスの研究ノートです。この中にトスーゴと言う言葉が出てきます」
驚くアラン。
啓作は艦長席を振り返り、
「流艦長。プライベートでお話があります。時間を作っていただけませんか?」
「わかった。一緒にめしを食おう」
「第102中継基地が破壊されました」ローザが報告する。
「なにっ」四天王のひとり玄武が驚く。
デコラスは椅子に座ったまま無言で巨大パネルを見上げる。
「映像を出します」
爆炎のむこうに浮かぶ<スペースインパルス>が映し出される。
顎髭を触りながら玄武が「またこいつか・・コードネームS.I.・・ただ一隻で我々の基地を次々破壊する正体不明の戦闘艦」
黙っていたデコラスが口を開く。
「この艦の出現位置を見せろ。順番にだ。」
映像が銀河星図に切り替わる。次々とバッテンが表示されていく。
「どんどん地球に近づいている・・」ローザがつぶやく。
デコラスは微笑む。
「ふん。たった一隻で何ができる?我々には人民の盾もある。ローザ、各中継基地に民間人を配置させろ。問題は・・」パネルを見つめる。「この船に連中が乗ったとしたら・・厄介だな。」