別離 そして陽はまた昇る⑤
<スペースインパルス>は地球旧北極へ降下する。
ミラージュ島は隕石衝突の跡のように木々がなぎ倒され、中央には巨大なクレーターがあいている。
倒れている明たちを発見、収容する。
ボッケンとリュウの口から「啓作の死」が知らされる。
泣きじゃくる美理。
気を失うシャーロット。
信じられないピンニョ。
無言のグレイ。
泣く麗子。
気がついたヨキとマーチンも泣いている。
肩を落とす流啓三。
これは夢か?
なぜだ なぜみんなの姿が見えるんだ?
哀しみが満ちて来る
俺のせいだ・・俺がうかつにデコラスの誘いに乗ったから・・
ヨキは一度デコラスに勝っていたから?
アンテナを破壊して得意になっていた?
わからない・・
夢なら覚めてくれ 早く!
啓作・・この時代で俺を見つけてくれたのはお前だった
瀕死の俺を助けて 仲間に誘ってくれた
ピンチの時も俺が熱くなりすぎた時も 沈着冷静に助けてくれた
お前がいたから俺は、いや俺たちは生き残ってこれた
お前が・・・
そうだ お前は俺と違って、考えて動く
盾となって俺を守るなんて、ありえない
ありえないはず・だ
あの時 お前は笑っているように見えた
・・・・
明は医務室のベッドで目覚める。
「!」
重い。身体が動かない。動かせない。
「気がついたか」Qがのぞき込む。「起きなくていい。ESPの使い過ぎで身体と精神が疲れ切っているんだ。休めば治る。今はゆっくり休め」
「ESP?」
「友の死でESPが覚醒したとは皮肉なものだ」
「・・・」
「自分を責めてはいけない。彼のためにも早くよくなるんだ」
「Q先生」
看護師に呼ばれたQは明の病室を後にする。
ひとりになった明は天井を見つめる。
「・・・」灯りが歪む。
泣きながら深い眠りに落ちていく。
誰かが俺を見ている。誰かが手を握っている。暖かい。
次に明が目を開けた時、心配そうに見つめる美理の姿があった。
涙の跡が見える。少しやつれたような。スペーススーツではなく学生服を着ている。
「大丈夫?」美理が尋ねる。
やさしい声。いつもはほっとする声なのに、胸に突き刺さる。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
明は飛び起きる。かろうじて出たのは 「ごめん」
驚く美理。
「俺のせいだ。俺のせいで・啓作は・・・」
「どうしてそう考えちゃうのかな。・・そうかもしれないし、そうでないかもしれない」
「俺に・そんな・価値なんて無い!」
美理はまっすぐに明を見る。
「悲しいね。心が痛いよ。私も。あなたと一緒」
美理は両腕を広げて・・ハグする。
「あなたの悲しみが痛みが少しでも和らぎますように」
美理のやさしさに涙がこぼれる。
「あいつは・・もう・・いないんだな・・・」
「そうだよ」涙声。
「ごめん・君もつらいだろうに」
「私はもういっぱい泣いたから。麗子やみんなが受け止めてくれた」
「・・わあ・あ・あ・あああああああ・・・・・」
明は声を上げて泣く。
「兄さんは命を懸けてあなたを助けた。あなたにすべてを託した」
「・・・」
「生きて」
「明・・生きなさい」母と同じ言葉だ。
過去は変わらない。変えられない。変えられるのは未来だ。
「俺は・生きる。あいつの分まで」
銀河連合本部会議―――
地球に打ち込まれた“植物”が“暗黒星”を呼んだ事、デコラスがその存在を知っていた事等を流啓三が報告する。
「その植物は偵察兼監視役だった?」
「デコラスとシンクロしていたとの話も」
「トスーゴと呼ばれる存在との関係は?依然不明か」
「デコラスはトスーゴだったのか?」
「“暗黒星”は恒星のエネルギーを吸収、恒星を消滅させている。その目的は?」
「その暗黒星というネーミング、もっといいものがないか?例えばその”暗黒流れ星”とか」
「デコラスを殺してしまったのは痛いな」勝手なことを言っている。
「幻覚とは厄介だな・・そもそも生物なのか?」
エスザレーヌが「謎が多すぎますね」
「<スペースインパルス>副長アランです。私から”スーパーノヴァボンバー“について説明いたします。マイクロギャラクシーエンジンを使って人工的に超新星を造り出し、そのエネルギーを一方向に集束したものです。充填次第で本物の超新星爆発に匹敵するエネルギーを得られます。今回暗黒星にも有効でした」
「我々の許可なしでの試射だったな」
「急を要する状況でした」流啓三が答える。
「その件については了承しています」エスザレーヌが助け舟を出す。
「引き続き我々は恒星消滅の調査を続けます」
「では次の議題、<地球連邦>の銀河侵攻に対する賠償・・」
デコラスの暗示のためとはいえ、銀河の星々へ侵略した<地球連邦>は<銀河連合>の管理下に置かれ、多額の賠償金を払う事となった。
流啓三は席を立つ。
エスザレーヌがひと言。
「流艦長。・・ご子息、残念です」
通信終了。
流啓三は無言で通信室を出る。