別離 そして陽はまた昇る②
<スペースインパルス>の目前に“暗黒星”が迫る。
「スーパーノヴァボンバー準備!」
「!!」
流艦長のその言葉に緊張するクルーたち。
「何それ?」ピンニョがつぶやく。
勿論美理たちには解らない。だがクルーたちの異様な緊張感は解る。
第一砲塔。グレイがリックに尋ねる。
「何ですか?そのプロレス技みたいなのは?」
「この船の必殺兵器だ。まだ使った事ないから、俺も詳しくは分からないが」
再びメインブリッジ。
サライが「艦長、まだテストが・・」
「そんなん言うとる場合とちゃう」ニコライは軽くあしらう。
「確かに奴の吸収できる限界以上のエネルギーを当てれば破壊できるかもしれません」
「副長。あれは恒星を喰いつくしたんですよ」
「スーパーノヴァボンバーは言わば人工の超新星爆発です。そのエネルギーは恒星のそれを遥かに凌駕します。現在勝てる可能性のある手段はこれしかありません。ですが発射には銀河連合本部の許可が要ります」
皆がアランを見る。
異星人である彼には監査の役目もある。だが許可を待っていては間に合わない。
流艦長が静かに言う。
「発射準備に入れ!私がすべての責任をとる」
ロイが頷き「エネルギー充填開始」
ニコライが「エンジン出力最弱へ。エネルギーをまわします」
「牽制しつつ後退!時間をかせげ!」
インパルスは主砲とミサイルを発射しつつ後退する。
「重力震多数!」クリスが報告する。
インパルスの周りに地球連邦艦隊がワープアウトする。
『<スペースインパルス>を援護する!全艦撃ち方始めー!!』
艦隊は直ちに攻撃を開始する。
流艦長は無言で敬礼をする。
千を越えるビームとミサイルの束が”暗黒星”に向かう。
それらはすべて吸収されて消滅する。
マーチンが叫ぶ。
「いっけー!」
<フロンティア号>は再度プロトン砲を発射する。今度は巨大アンテナを破壊した最大出力だ。
光の束は巨大植物へ。
明たちの頭上で眩い閃光。
跳ね返され、効果はない。
プロトン砲から火花が散る。続けて煙。
連射のツケで回線がショートした。自動消火が働くがもう使えない。
「マーチン!反重力ミサイルだ!」
明の提案にマーチンは躊躇する。明たちを巻き込むリスクが高い。
「エリア最小で根元を狙え!」
それだと明たちのいる所に影響がない上に10倍の威力が出る。
「わかった!」
マーチンはホーミングレーザーを発射。牽制だ。
光線は”植物”の左右後ろに回り込む。敵が気を取られているうちにスイッチを押す。
<フロンティア号>から大型ミサイルが飛び出す。
1000mある”植物”の根元に命中。
重力は10倍の反重力に変わる。
大地が裂ける。土砂が竜巻のように舞い上がる。
“植物”も浮き上がるが、強靭な太い“根”がそれを阻む。<ガイア>に絡んでいたものとは太さが違う。
それを見ていたデコラスは視線を明たちに戻し、
「残念だったな。」笑いながらゆっくりと近づく。
明はヨキを抱えながら銃を撃つ。
バリアーに阻まれる。
何度も何度も銃撃を叩き込む。
「無駄だ。」デコラスは手をかざす。
「む?(明がヨキを背負っている。あの馬はどこだ?)」
死角からボッケンが斬りかかる。刃はデコラスの首を捉える。
パキン。「!」
刃が折れる。地面に突き刺さる。
ボッケンも地面に叩きつけられる。
「ボッケン!」
ボッケンはすぐに起き上がり、デコラスの衝撃波をかわす。
明はほっとする。銃を構え直す。ふと思いついたことを口にする。
「<ガイア>だけじゃなく、お前も操られているのか?」
デコラスの歩みが止まる。何も答えない。
「そのため俺たちを執拗に攻めた?助けてくれというメッセージじゃないのか?」
デコラスの唇が微かに動いた。
声は発していない。だが明には「殺してくれ。」と聞こえた。
マーチンが叫ぶ。
「逃げろ!明!」
<フロンティア号>は上昇し、エンジン噴射!
バリアー全開で“植物”へ突撃する!
赤い“植物”の目が見開かれる。
「!」
忘れようがない。間違いない。あの“恐怖の大王”の目だ。
バチッ!
跳ね返され、<フロンティア号>は真っ逆さまに墜落する。
「マーチーン!!」
”暗黒星”が迫る。
<スペースインパルス>の両翼下にある昔の旅客機のエンジンのようなメカ。これこそスーパーノヴァボンバーの発射装置だ。先端は穴が開き発射孔となっている。
「エネルギー充填完了」
「万一に備え、各惑星にバリアーを張るよう要請しろ」
味方艦隊を後方に下がらせインパルスは突出する。
「総員耐衝撃。発射10秒前、9,8,7・・!!」
「!」
ブリッジが突然宇宙空間へ。
「きゃあ!」
美理の隣に怪物!麗子の隣にも!
まわりは怪物だらけ。
ロイが銃を抜く。
「だめっ!」
ピンニョが羽根手裏剣で銃を制す。
ロイが銃を向けていたのは、隣のサライ。「え?」
流艦長はマイクを取り叫ぶ。
「幻だ!総員、発砲するな!」
「テレパシーの一種のようです」アランが分析結果を口にする。
「対ESPシールドの出力を最大まで上げろ」
医務室。
泣きじゃくる子供たち。ぱんぱんとドクターQは自分の頬を叩く。
機関室。
我に返るクルーたち。
第一主砲のリックとグレイもお互いに向けていた銃をおろす。
動きの止まったインパルスの横を“暗黒星”が悠々と通過して行く。




