決戦⑥
<スペースインパルス>は地球連邦本部上空に静止している。
流啓三艦長がヘリポートに降り立つ。
無言で敬礼をする。黙祷。そして階下の司令部へ。
マッケンジー主席と再会する。
「流、待っていたよ。必ず来てくれると信じていた」
流啓三はやつれた友人に肩を貸す。
「銀河連合の総攻撃に間に合ってよかった。・・これから大変だぞ」
「そうだな。気が重い・よ」
「腐っていた地球連邦を蘇らせたお前だ。きっとうまくいく」
「途中で抜けたお前に言われたくない」
「ふ・・そうだな」
啓作が救護として来る。マッケンジーを診る。
立ち去ろうとする流啓三に、
「親父。後で美理の事で話があるんだ」
「わかった。・・ロイ!デコラスは見つかったのか?」
「いえ、どこかへテレポートで逃げたようです」
建物の対ESPシールドが切られていたのはそのためだ。
地下のハイパーコンピューター室にはアランと数名の技術者が訪れていた。
「<ガイア>は無傷なのか?」
装甲兵が答える。「<ガイア>に絡みついた”根”を銃で焼き切ったようです。我々が到着した時にはすでに正常に戻っていました」
「また奴か・・しかし何なんだ、これは?」
”根”は重金属の壁を突き破り部屋に侵入していた。
アランがつぶやく。
「これが”根”としたら、”本体”はどこだ?」
<フロンティア号>はインパルスの上甲板に着艦していた。
明とボッケンもコクピットに戻り計器のチェック中。
ピンニョは傷の手当て(かすり傷だが念のため)でインパルスへ。
「よ」入れ替わりにマーチンが乗船。
「大活躍だったな。整備に来てやったぞ」
ヨキが「いまさら・・」
マーチンは補修作業に入る。直撃はないが、船体には細かい傷が無数にある。それらはもう自己修復が始まっている。放っておいて大丈夫だろう。まずはエンジンのチェックだ。
「OK。エンジンは問題ない」
次はプロトン砲だ。
「うわ。無茶しすぎだ。こりゃあと一二発撃ったらぶっ壊れるぞ」
《弓月明。》
「ヨキ。いま呼んだか?」
「うんにゃ」
《弓月明。私はここだ。》
「!」明の脳裏に映像が浮かぶ。
白い霧。フードを被った男がひとり霧の中に立っている。数字が浮かぶ。緯度と経度だ。
「何だ?テレパシーか?・・この座標は・・!」
明はしばらく考えていたが、「すまんマーチン、作業中断だ。行かないと・・」
「行く?どこへ?」
「奴が呼んでいる」明は主操縦席へ。「発進する!」
確証がないため目的地のみインパルスに連絡する。
ドギャァーーーン
<フロンティア号>は垂直上昇する。船首を北に向ける。
気付いた啓作が空を見上げる。
「明?どこへ行く気だ?」
旧北極。
昔の日本とほぼ同じ緯度にあるため今では温帯に当たる。
デコラスは旧北極海のとある島にいた。旧北極点から数キロ離れている。
ミラージュ島。約300年前に隆起してできたこの島は年中濃い霧に覆われている。中央に1000m級の山がそびえる。
明とヨキは以前地球に来た時、何も気づかずにこの上空を飛行していた。
そして今<フロンティア号>は低空飛行で島の上空を旋回する。
霧の切れ目にフードを被った男が一人立っている。
「デコラス!」
明はデコラスから約500m離れた地点に<フロンティア号>を着陸させる。
メインパネルに映るデコラス。次第に霧がその姿を隠す。
「何やってんだ?あいつ・・しかし明、お前よくこの場所がわかったな」
明は答えない。答えようがない。
「どうする?プロトン砲撃つか?」
「相手は丸腰だ」明は銃のエネルギーを確認し「外に出る。ヨキ来てくれ」
「まかせといて」
「ボッケンも。もし俺が奴に操られたら遠慮せず斬ってくれ」
明は先行催眠の影響を心配している。
「わかった」
「みねうちだぞ」
「そっか」本気で斬るつもりだった?
「マーチン、もう一度インパルスに連絡を」
マーチンは<スペースインパルス>に連絡するが、通じない。その頃インパルスはそれどころではない事態に直面していた。
霧の中、明とヨキとボッケンは船外に出てデコラスに近づく。
「霧が濃くなる」
足元は緑の草原。芝生に見えるが、ヨキは見たことのない”外来種”だと言う。
明は銃を構える。ボッケンも刀を咥える。
デコラスは無言で微笑んでいる。その背後には巨大な山がそびえる。
不意に霧が晴れる。霧と共にカモフラージュが解かれる。
「!!」
山じゃない・・”植物”だ。
それはあの“恐怖の大王”そのものだった。
マッケンジーと別れた流艦長は<スペースインパルス>のメインブリッジに戻る。
美理と麗子が食事を運んで来て配り、そのままシャーロットと会話中。
ピンニョを肩に乗せ美理は外を見る。
「地球か・・」美理が来るのは初めてだ。
明の故郷。500年前のだけど。
「!」
クリスが驚く。
「艦長!レーダーに反応が!・・これは・・うそでしょ?・・転映します」
「!!!」
メインパネルに映るのは暗黒の球体。
ナカトミ星系で原始恒星を喰いつくしたあの”物体”に酷似している!
流艦長も一瞬目を疑う。すぐに我に返り、
「緊急発進!全艦第一級戦闘態勢!」
<スペースインパルス>は緊急発進する。




