決戦①
第5章 決戦
<銀河連合>の主力艦隊は干潟星雲(地球から銀河中心方向へ3900光年)に集結していた。
旗艦エスメラルダは美しい帆船を思わせる宇宙船だ。
そのブリッジ。
「ワープミサイル目標地球」
「全艦第二戦闘態勢のまま待機」
「あと12タマル(約11時間)か」
エスザレーヌはメインスクリーンを見つめる。火星付近にいる偵察機からの超望遠超光速映像だ。
「む?」
<スペースインパルス>は先程バリアーアタックを使った後から動かない。
周囲の大銀河帝国艦隊は機能を停止、こちらも動かない。膠着状態だ。
副官が「太陽系外縁のバリアーは消失しています。今がチャンスでは?」
エスザレーヌは副官を睨む。
「約束を守らぬ者は嫌われるぞ」
再びスクリーンを見つめ、ぽつりとつぶやく。
「どうした?流」
臨時医務室で待機していた流啓作は隣のメインブリッジに駆け込む。
「これは・・」
乗組員たちは気を失っていた。
アラン、ロイ、サライ、ニコライ、クリス、ショーンそして流啓三も。
「親父!」
啓作は艦長席に駆け上がり、父の身体を揺する。
だが流啓三は目覚めない。死んではいない。呼吸も脈も正常。意識がないだけだ。
「啓作!」シャーロットが声をかける。
「無事か」笑みが漏れる。「何があった?」
シャーロットも何が起こったのか分からない。艦内モニターを確認する。
機関室。コンピューター室。すべて乗員が倒れている。
第一砲塔。グレイは無事だ。リックを起こそうとしているが反応は無い。
医務室。Qは倒れているが、美理と麗子は子供たちを介抱している。
啓作はメインコンピューター<那由他>にアクセス。
【那由他や。すんまへん、わて今はあきまへん。あてにせんとって】
<那由他>は<ガイア>のサイバー攻撃を受け自ら機能を停止した。再起動したものの通常の5%程の能力しか出せず、艦内の生命維持を行うのがやっとの状態だ。七つのサブコンピューターも同様だ。
「記録が残っている。対ESPシールドを含むバリアーが切れたところを攻撃された。疑似ESP波(人工テレパシー)だ。今までのものと違う新しい超強力なタイプみたいだ。先行催眠は不要なのか?とにかくこれで乗員を操ろうとしたが、シールドが回復した・・」
『こちら<フロンティア号>』
「明!」
『啓作?何で(ブリッジに)?』
啓作は簡単に説明する。
「どうして私たちは大丈夫なの?」シャーロットが尋ねる。
「わからん。対ESP装備・・いや明以外は外しているか・・俺たちはずっとESP波に曝されてきた。抵抗力があるのかも?とにかく今は俺たちで何とかしなければ・・」
「どういうことだ?」デコラスが詰め寄る。
『乗員を催眠状態に近い状態にして“洗脳”するのですが、予想よりも早く敵の“対ESPシールド”が回復して中断されてしまったようで・・ですが我々の“新型ESP波”の発信が続いている限り、乗員は気絶したままと思います』
ホログラフィのジェラードは汗をかきつつ弁明する。
「つまり、失敗したというわけか?」
『行動不能には出来たかと・・攻撃もしくは乗り込んでシールドを止めれば、操れます』
「やれ!」
『はっ!<真王星>を使わせていただきます』
美理は小さな女の子をそっとベッドに寝かす。
「行こう!」
美理と麗子は駆け出す。医務室を出て、例の緊急用“通路”に飛び込む。
移動した先は機関室。非常事態の赤い照明のせいで色を見間違えた。
今度は間違いなくメインブリッジ前に到着。
<フロンティア号>。
マーチンが立ち上がり「すまん明。俺は機関室にもどる」
「行ってくれ」
マーチンはコクピットを後にする。
「発進中止。啓作、俺たちも手伝う」
『いや。発進してくれ。地球のメインアンテナを破壊すればESP波は止まる。ここからアンテナは死角になっていて狙えない。次元衝撃砲もワープミサイルも使えない。インパルスの移動も難しい。艦載機第三陣は発進できないが、予定通り小型機による直接攻撃がベストだ』
「わかった」明は前を見据える。「最終チェック!」
メインブリッジに駆け込んで来た美理と麗子に啓作が命令する。
「美理はクリスの席でメインレーダー。麗子は通信を担当してもらうが、ピンニョの指示で<フロンティア号>の発進サポートもたのむ。シャーロットは副戦闘席でホーミングアローを。グレイ、第一砲塔はまかせた!俺は操縦する」
啓作はサライを補助席に移して主操縦席に座る。操縦桿を握る。
メインレーダー席に座った美理は困惑している。それでも深呼吸して計器を操作する。
ピキーン。「きゃっ」音に驚く。
バリアーアタックを免れた敵艦隊が接近する。発砲。
ブラスターはインパルスのバリアーに阻まれる。
「えいっ!」グレイがボタンを押す。
第一主砲発射!
出力を落としているが、攻撃して来る戦艦1隻を大破、爆発は数隻を航行不能にする。
「動ける人間がいるのか?」玄武が驚く。
デコラスは平然とモニターを見ている。想定内だったのか。
インパルスの使える武器は第一砲塔とホーミングアローだけだ。周囲には戦闘不能に陥った敵艦が取り巻いている。今はそれらが盾になっている。
通信が入る。
『コンドル隊リュウだ。状況は分かった。隊を二つに分ける。第一陣はインパルスを護衛!第二陣は地球へ向かえ!』
「よよろぴくお願いします」麗子ちゃんあがってる。
<スペースコンドル>は対ESPシールドが強化されており、新型ESP波を防いでいた。
リュウを先頭に約半数は地球へ向かう。
残りはロミ指揮の下インパルスを守るように編隊を組む。
敵駆逐艦が突出。ロミ機が迎撃に向かう。
「対ESP波照射!」
スペースコンドルに搭載の対ESP波発生装置は(インパルスのバリアーアタックと異なりピンガー式)低出力だが照射しても機体の対ESPシールドが切れることはない。
敵艦発砲。ロミは避けつつ、ビームバルカンを発射。
「効かない。いや、一瞬だが敵艦の動きが止まった。少しは効果がある!」
「何?これ」
美理は目を疑った。メインレーダーに突如現れた巨大な反応。
ステルスが解け巨大な宇宙要塞が姿を現す。
いびつな球形をしている。大きさは幻王星の1/100程だが直径30km程ある。ジェラードの乗艦<真王星>通称デコスター。
『こちら機関室。マーチンだ。エンジンは任せろ!』
「たのむ」
啓作は艦を<真王星>に向ける。地球を背にするかたちになる。
敵艦隊が発砲。航行不能の味方艦にお構いなく四方八方から攻撃が来る。
かろうじてバリアーが守っている。ホーミングアローで応戦。
戦闘機が飛来。先頭は<ブラックスワン><ハードセブン>、ハレーGP参加機体だ。
ロミたち<スペースコンドル>第一陣が迎撃に向かう。
第二格納庫。
「最終チェック完了」<フロンティア号>は発進準備作業を終える。
「カタパルト装着」 「第4ゲートオープン」
メインブリッジ通信席の麗子は美理にマイクを向ける。ふたりで叫ぶ。
「せーの、がんばれえー!」
明は笑みを浮かべ、操縦桿を握る。
「<フロンティア号>発進!」
ドギャアアアーーーン
Gがかかる。
数秒で<フロンティア号>は射出孔から飛び出す。
真正面に青い地球。啓作はここまで考えて操艦していたのかと感心する。
「フルパワー!」
全速力で地球を目指す。
瞬く間にインパルスは見えなくなる。