スペースインパルス①
第1章 スペースインパルス
旧暦1999年に地球に落下した巨大隕石“恐怖の大王”により、地球は氷河期に突入していた。人類はワープ航法を発明し、銀河の星々に進出、地球とその移民星から成る<地球連邦>はほぼオリオン腕をその勢力圏に治めていた。
宇宙暦498年。
星間犯罪結社<パラドックス>の副首領デコラスは、自らを<大銀河帝国>皇帝と名乗り、地球人類250億人を集団催眠と特殊ESP波で操り、銀河系の星々へ侵略の魔の手を伸ばす。
弓月明、ボッケン、ピンニョ、ヨキ、マーチン、シャーロット、流啓作の運び屋<スペースマン>と情報屋・グレイ、啓作の妹・美理、その親友・山岡麗子の10人(正確には8人と1頭と1羽)は、デコラスの手を逃れ、汎用宇宙船<フロンティア号>を駆り銀河を逃亡する。
銀河連合本部を目指す明たちに<大銀河帝国>四天王とその刺客が次々と襲い掛かる。
バウンティハンターや謎の宇宙船にも狙われ、絶体絶命の危機に陥った彼らを救ったのは、超弩級宇宙戦艦<スペースインパルス>だった。明たちは映像越しに艦長・流啓三と対面する。
流美理が叫ぶ。「お父さん!」
「へ?」驚く弓月明。
メインパネルに映るのは口髭を生やした50歳程のヒューマノイドの男性だ。
『本艦は銀河連合所属特務艦<スペースインパルス>。私は艦長の流啓三だ。君たちを歓迎する』
「すぺーすいんぱるす?」 「特務艦?」
「流?おとうさん?」明は啓作を、続けて美理を見る。
「・・・」
美理は口を両手で覆い立ち尽くす。一筋の涙が流れる。
6年ぶりの再会。美理と啓作の父・流啓三は6年前の宇宙船事故で行方不明になっていた。
流啓作が口を開く。
「けが人がいる。重症だ。最優先で収容をお願いする」口調がきつい。
『了解した。本艦の後部上甲板に着艦してくれ』
<スペースインパルス>は全長555m。大きな翼を有し、その下に昔の旅客機のようにエンジンの様なものがある。甲板には大型の三連装砲塔が二列に並ぶ。砲身の長い回転式砲塔は地球製の特徴だ。艦の前半分だけでも上甲板に4つ・下甲板に2つ・側面に1つずつ。中央やや後ろに艦橋がそびえる。その後部は空母の甲板の様に見える。
明は苦戦しながらも満身創痍の<フロンティア号>を後部上甲板に停める。
<スペースインパルス>の大型砲塔は後部上甲板に2つ・後部両側面に計2つあるのが見える。エンジンは最後尾にあるはずだが見えない。
チューブが伸びて接舷する。
中から宇宙服を着た数人が<フロンティア号>に乗り込んで来る。
先頭の長身男性がヘルメットを取る。丸眼鏡に口髭、頭頂部は少し危ない。
「<スペースインパルス>医療班・Qだ」
「え?・・Q・先生?」出迎えた啓作が驚く。
ドクターQ(弓月丈太郎)は啓作のかつての指導医。明の蘇生の際、“記憶移植“を用いて病院を退職させられ、行方不明になっていた。
「久しぶりだなK(啓作の仇名=Qに対抗してのもの)。話は後だ。患者は・・オーク人?」
「地球人です。ブウ移民ですから(帯電体質なので電気に)気をつけてください。金属腐食ガスと神経ガスに曝されました」
「反重力ストレッチャーに乗せろ!YRZ液か、YRXの方が適しているが無かったのか?」
「はい」
Qは心配そうに見ている山岡麗子に気付く。
「ブウ出身なら熱にも強い。大丈夫だよ、お嬢さん」
Qは啓作の肩に手を当て「親父さんの話をよく聞いてやれ。冷静にな」立ち去る。
マーチンとシャーロット(こちらは自走車いす)は医務室に。
「<スペースインパルス>へようこそ」
残りの者は綺麗なお姉さんに案内されてエレベーターに乗る。金髪の巻き毛の白人、身長は麗子と同じ位。着ているのはこの船の制服だろうか。明たちのものとよく似た銀色のスペーススーツ、下はタイトスカートで緑の二本線が入っている。
「どこへ連れて行くんだ?」明が尋ねる。
「本艦の主艦橋です。申し訳ありません、名乗るのが遅れました。私はクリス、本艦の索敵情報長です」
「スリーサイズは?」
そう尋ねたグレイを麗子が睨む。場を和ませるだけではあるまい。
クリスはにっこり笑うだけ。答えてくれない。かなりスタイルはいい。
その麗子は突然手を握られ驚く。握ったのは美理。その手は微かに震えていた。
扉が開く。
そこは広大な機械の中。数多くのメーターやパネルが並ぶ。二階建て構造になっており、10人程の乗組員が慌ただしく動いている。彼らが来ているのはクリスと同じ銀のスペーススーツ、ラインはいろんな色がある。一本線だったり二本線だったり様々だ。
一段高い位置にある中央席の男が立ち上がり、声を掛ける。
「私が艦長の流啓三だ」
クリスは敬礼、明たちに一礼し自分の席に向かう。
明たちは流啓三を見上げる。
通信映像より精悍な感じだ。服は黒を基調としたコート型のスペーススーツ。地球連邦のものに似ているが、地球連邦の艦長はたいてい制帽を被っているものだが、無帽だ。壮年にしては長めの髪、背も高そう。
「(この人が行方不明だった美理たちのお父さん・・啓作に似てないな・・あ、血は繋がっていないんだった。目つきが鋭い・・何か俺にらまれてる?こわっ)」
「君たちの活躍は知っている。デコラスとの因縁もな。よく逃げ続けられたものだ」
流啓三は美理を見て「大きくなったな」
「・・・」
美理はうなずく。言葉が出て来ない。涙が頬を伝う。
啓作は無言で父親を睨みつけている。
「(うわ)」気を利かせて明が「さっきの宇宙船は?」
「彼らの名は“トスーゴ”。それ以外何も判っていない」
「トスーゴ!」
通信が入る『艦長、やはり無人艦のようです』
「ご苦労。帰還してくれ」
男が立ち上がり、明たちの前にやって来る。銀のスペーススーツに黒いラインが三本。
サングラスをかけた長身細身の男、地球人ではない。手足がかなり長い。四角い顔。髪の毛が特殊・逆立っている、500年前のアニメに出て来る何とかちゃんのパパみたい。後頭部は絶壁だ。サングラスの下に“目“は無い。視覚の代わりに髪の毛がレーダーの役目を果たしている。
「私は副長のアランです。よろしく。彼らトスーゴはアンドロメダ銀河M31より飛来するという説が有力だが、無人艦ばかりで正体は掴めていない。機械生命体にしては、艦橋等にスペースがありすぎる。サイズは我々と同等と思われるが、その目的・規模・本拠地、一切不明です」
この船は地球人が主に開発製造したものらしいが、違う星系の者を副長にするのが<銀河連合>の慣わしらしい。
「トスーゴ・・どこかで聞いた事があるような?」啓作の独り言。
『<フロンティア号>の収容完了しました』
「え?」
<フロンティア号>の全長は88mある。後部甲板にぎりぎり停められたが、555mのこの船の中に収容できるのか?聞き間違いで固定したか何かだろうと明は思った。
「発進準備。君たちは空いてる席に座ってくれたまえ」
アランがそう言い終わると、床から補助席がせり出す。明たちはそれに座る。
流艦長はマイクを取る。
「イエ―!君も来ないか?本艦は優秀なスタッフを欲している」
「え~」明たちが驚く。
宇宙空間。
殺し屋イエ―は黙って身を隠している。
「返信ありません」
通信担当のショーンが報告する。南国系、褐色の肌の美人だ。
「そうか・・」流啓三はマイクを置き、命令する。
「<スペースインパルス>発進!」
ドバアァァァ――ンン
エンジン始動し、<スペースインパルス>は惑星状星雲より離れて行く。
艦橋の最前部中央が主操縦席で、男が操縦しているようだが、よく見えない。
「この艦は特務艦と言われた。その任務は?トスーゴと戦う事ですか?」
「・・・」
グレイの問いに流艦長は答えない。
アランが「疲れていると思いますので、今日はゆっくり休んでください」
「・・(何か隠している)」珍しく明が勘ぐる。
クリスが「ご案内します」