ロストラブ②
分かれたもう一方の大銀河帝国艦隊はシェプーラ星に接近していた。
宇宙空母。その食堂で数十人の少年たちは無言で食事を摂る。
チューブを吸う。不味くはないが美味くもない。
少年たちは突然チューブをテーブルに置き、一斉に立ち上がる。
そのまま食堂を出て格納庫へ向かう。居室や他の場所からも少年たちが集まって来る。
そして数人ずつシャトルに搭乗する。
操縦席に座った少年は焦点の合わない目で前を見る。シグナルがブルーに変わる。
艦隊はシェプーラ星へ向かいながら後方のインパルスへ艦砲射撃を行おうとしている。砲塔が狙いを定める。ミサイル発射孔が開く。
そこへ<スペースコンドル隊>が急襲をかける。
リュウが叫ぶ「蹴散らせ!」
ヒットアンドアウェイ。一撃離脱。ピンポイントで艦隊の砲塔を破壊していく。
「下部砲塔を優先して叩け!」
敵艦のハッチが開き、シャトルが発進する。
「! この状況で発進させるか?」
機銃発射。シャトルの発進を阻止する。
それでも100機近いシャトルが降下して行く。
「チームBとCはシャトルを撃ち落とせ!」リュウが命じる。
『敵シャトル降下!地上部隊を降ろす模様。各輸送機は大気圏に突入し、陸戦隊を降ろせ!』
「了解」
明は操縦桿を倒し、シェプーラ星へ向かう。
4機の輸送機は<スペースコンドル>に続いて大気圏に突入する。
空を覆う大銀河帝国のシャトル群。
地表ではシェプーラたちが空を見上げ怯えていた。
山の洞窟に逃げ込む。親が子供を庇う。
【ボッケン王子・・】その名を口にする者もいる。
ボッケンは誰かに呼ばれた気がした。
偵察任務のロミとボッケンの<スペースコンドル>は単機で飛行中。
彼らの担当はシェプーラ星のジャングル地帯だ。シェプーラ星は地軸の傾きがほとんど無く、緯度により温度・気候が変わるだけで四季がない。
「このESP波探知機って大まかな方向しか分んないのよね」今のところ成果はない。
「! ロミさん、着陸できますか?」
「え?」
「シェプーラと接触してみます」
ロミ機はジャングルのはずれに着陸する。
久しぶりに故郷に降り立ったボッケンは違和感を感じる。
「どうしたの?」ロミが尋ねる。
「聞こえないですか?この音・・そうか、地球人には聞こえない波長か」
「失礼ね。モスキート音は聞こえるわよ」超音波だ。聞こえなくて当然。
「あ、消えた」
ボッケンとロミは歩いて音のした方へ向かう。
【王子!】
突然声を掛けられる。シェプーラの少年(仔馬)だ。
優しく面倒見のいいボッケンはいまだに人気がある。だが追放された元王子としてはちょっとバツが悪い。
ボメックという少年に話を訊く。彼はロミに驚きながらも話してくれた。
半月程前に数多くの流れ星が見られた。この音はその後から聞こえているらしい。他にも数カ所同じ様な場所があるが、心地よい響きなので放置されていると。
ボッケンとロミは顔を見合わせる。
「あ、また聞こえ出した」
ボメックの案内で音を追ってさらにジャングルを進む。
木々がなぎ倒された中に1m程の立方体を見つける。明かに人工物だ。
これが音源だった。
<スペースインパルス>は全砲門を開きながら敵艦隊内を進む。
「敵旗艦を捕捉!」
「旗艦に攻撃を集中!」
前を狙える主砲8基が一つの目標に狙いを定める。
一斉発射!
8つの光の束が青龍の旗艦へ向かう・・・
命中。いや攻撃が突き抜ける。
「ホログラフだ!」
幻。旗艦はそこにいない。
「まんまとひっかかった」青龍は笑いながら「集中攻撃!!」
敵艦隊発砲。四方八方から無数の攻撃がインパルスに・・・
「バリアー出力最大!」
インパルスの周りが光り輝く。敵の攻撃は強力なバリアーに阻まれる。
「周囲に友軍機なし」
クリスの報告を受け、流艦長が命令する。
「このまま“バリアーアタック”を使う!」
「バリアーアタック放射!」ロイがボタンを押す。
インパルスを包む光の球が現れ、それは波か風船の様にどんどん広がり、拡散と共に光は薄れていく。
光の波は敵艦隊を通過。
その“波”に触れた敵艦はエンジンが止まり戦闘不能に陥る。
広がり続けた“波“は、やがて消える。
本来防御のためのバリアーを全方向への攻撃に転じたもの。相手を破壊せず行動不能にする。弱点は味方がいれば使えない事と放射後20秒間バリアーが使えない事だ。
流艦長が命じる。「本物の敵旗艦を見つけろ」
医務室。
モニターを見ていた啓作が「この武器は?」とQに尋ねる。
Qの説明は曖昧だったが、何とか理解できた。
「通常バリアーではなく対ESPシールドで使うことができれば、疑似ESP波を妨害できるのでは?」
大気圏に入った明の輸送機の前を大銀河帝国のシャトルが降下して行く。
だがその飛行は非常に不安定で、翼が震えている。撃墜してもいいのだが明は撃たない。
「下手くそ」ヨキが悪口を言った直後、「あ・・」
シャトルはバランスを崩し急降下、山に接触、そのまま砂漠に墜落する。
ここはどこだ?
僕は・何をしているんだ?
わからない。身体中が痛い。声が出ない。
何かが鳴っている。警報?目覚まし?
起きなくちゃ、学校が・・まあいいか・・もうすぐかあちゃんが起こしてくれる。
何か楽しいことを考えよう。
そうだあの人のこと。
あの人の名前がわかった。
山岡麗子さん。真理之花女学園高等部二年生。同学年だ。
僕の学校にもファンクラブがある有名人らしい。
制服で分かっていたが真理女かあ。規則の厳しいお嬢様校、男女交際などとんでもない。
無許可で学園内に入ったら殺人レーザーが襲って来る。(注:殺傷力は無い)
あの日。女子野球部の交流戦。僕は新聞部の助っ人で中に入ることができた。
試合の最中、僕は緊張からかトイレに行きたくなった。
男子トイレが・無い。
窮地のため、僕は前を歩いていた体操服の女生徒に声をかけた。
「す・すみません・・だ男子トイレはどこ・ですか?」
彼女が振り向いた瞬間。時間が止まった。
あの人だった。
かわいい。アイドル顔負けだ。
「・・ああ、中央棟に。ここからだと中等部の方が近いか。右手の階段を上がって・・・ついて来てください。ご案内します」歩き出す。
あの人の後を歩く。
すらりと高い背。長い脚。引き締まったウエスト。胸はよく分からないが、あまり大きくなさそう。ショートの黒髪からいい香りがする。
あの人はちらと後ろを見る。ジロジロ見過ぎたか?
「少し急ぎます」歩みを速める。
僕のピンチを察してくれた。優しい。
「正面の建物が中等部の校舎です。一階の職員室の前に男子トイレがあります。では、ごきげんよう」お辞儀をして立ち去ろうとする。
「あの・・」
「はい」
「あ、ありがとうございました」
その笑顔を忘れることはないだろう。目に焼き付ける。
「あの・・写真を撮ってもいいですか?」
「だめです」
去っていくあの人を見送る。
もうこの学校に来ることはないだろう。ああ・・でも、また会いたいなあ。
痛みはもう無い。暗くなってきた・・
今度あの人に会ったら・・
手紙を渡すんだ・・たとえ断られても・・
この想いを・伝え・・・・
別のシャトル数機がシェプーラ星の砂漠地帯に着陸する。
『陸戦隊降下!』中隊長の通信が入る。
明はハッチを開く。空気抵抗で機体が揺れるが、そこはプロ、すぐに安定させる。
輸送機から次々と装甲兵が降下して行く。
装甲兵たちは背部のノズルを噴射して減速、着地する。
「荷」を降ろした明はハッチを閉め、その場を離れる。墜落した敵シャトルが目に入る。
「!」
「どうした?」ヨキが明にたずねる。
「あの墜落したシャトルの積み荷・・空だ」
着陸に成功したシャトルからも敵兵が降りる気配はない。




