シェプーラの星にて⑤
<スペースインパルス>上甲板にロミ機が着艦する。
「世話になった。ありがとう」アランが後席から降りる。
ロミは管制官に尋ねる。「隊長は?」
『重力震は探知されていません』
ロミは厳しい表情で「新しいワープブースターを準備しろ!戻る!」
メインブリッジ。ロイが命令する。
「<スペースコンドル>5機にワープブースターを装着。準備完了次第発艦しろ!」
シャーロットがその光景を心配そうに眺めている。
そこへリュウから通信が入る。
『こちらリュウ。トスーゴ艦A-1に追跡されたためワープアウトポイントを変更した。現在交戦中。座標を送る。至急応援を乞う』
「銀河垂直方向、距離15光年」クリスが報告する。
「リュウ隊長、流啓作さんとマサ隊員は?」ショーンが尋ねる。
『三号機は流啓作が操縦。ワープアウトを変更したのも彼の判断だ』
シャーロットが驚く。
報告を聞いたロイが「15光年ならブースターなしでも行けます。発艦急げ!」
「まて」
流艦長が命じる。
「第一砲塔を次元衝撃砲に換装、発射用意!」
明は走る。第二格納庫に飛び込む。
ニコライとマーチンが<フロンティア号>で修理作業をしている。
「ニコライ機関長!この船を出させてください!」
「ばか言うな。応急修理が終わったばかりだぞ」マーチンが反論する。
「まあ待て。次元衝撃砲を使うかもしれん」
「次元衝撃砲?」
明とマーチンは顔を見合わす。
「一言でいえばワープビームだ。エネルギーを空間転位させる」
第一主砲塔。てきぱきと作業をしながらリックが説明する。
「そんなことができるんですか?」研修中のグレイが尋ねる。
「まだ実験段階だがな。これまでの最大射程距離は10光年。ルリウス星で見たろ?」
「あ・・」
突然現れてルリウス星の月ナルシーを一撃で破壊したビーム。あれだ。
二機の<スペースコンドル>は敵の攻撃を回避する。
「あれは<インパルス>の武器だったのか」啓作が感心する。
「小さな目標に正確に当てるには、目標に誘導ビームを照射し続けなければいけない」リュウが説明する。
ナルシーの時はリュウがステルス状態の<スペースコンドル>で誘導していた。
「左下の緑のボタンが分かるか?俺が奴を引きつけるから、ボタンを押して誘導ビームを敵に照射してくれないか?」
啓作は息をのむ。少し考えたあと答える。
「了解した。俺が囮になる」
啓作は操縦桿を引き、敵艦の前に躍り込む。
「おいっ!」驚くリュウ。「ちいっ!」方向転換して後を追う。
敵艦発砲。
啓作は難なく避ける。
敵艦は三号機を追う。
リュウはその後を追う。ボタンを押して誘導ビームを照射する。
メインブリッジに美理が駆け込んで来る。
「はあはあはあ」
流艦長に睨まれるが無視してシャーロットのもとへ。
シャーロットは手短く状況を説明する。
「・・・」美理は無言でメインパネルを見上げる。
ロイが「第一砲塔・次元衝撃砲発射準備完了!」
流艦長が怒鳴る。
「撃て!」
第一砲塔が震える。
砲身から緑の光が放たれる。リックとグレイは衝撃に耐える。
光はまっすぐ数十キロ進んだあと、かき消すように見えなくなる。
逃げる三号機。
追うトスーゴ艦。
さらに後ろから誘導ビームを照射するリュウ機。
トスーゴ艦は前方だけでなく後方にもブラスターを発射する。
リュウはその攻撃を避けつつ誘導ビームを外さない。
計器が重力震をキャッチする。
突如現れた緑の光の矢がトスーゴ艦を貫く。
「退避!」リュウが叫び、操縦桿を引く。
啓作も操縦桿を引く。
トスーゴ艦が粉々に消し飛ぶ。
「帰るぞ。オートリターンボタンを」
二機の<スペースコンドル>はワープし、<スペースインパルス>に帰還する。
機体を降りたリュウは啓作のもとへ走る。
「部下を助けてくれたことに感謝する。ありがとう」頭を下げる。
「医者が患者を助けるのは当然だ。それに礼はまだ早い」
そう言うと啓作は反重力ストレッチャーで運ばれて行くマサを追いかける。
リュウは敬礼で見送る。
医務室に向かった啓作だが、呼ばれたため診療をQに任せてメインブリッジへ。
すでに明たちが到着していた。スペースマンメンバー全員集合だ。
アランが説明する。
「ナカトミ第二惑星施設のデータ解析が終わりました。メインパネルに映します」
映像が流れる。
空に浮かぶ原始恒星。まだ幼い太陽だ。
「あ!」
太陽に何かが接近する。
真っ黒い球体。
「!」”恐怖の大王”に似ているがはるかに大きい。
「計測では直径9000kmです」火星より大きく金星より小さい。
球体から触手が出て形が変わる。
「何だ?これは!」
「星?」「ガス?」「雲?」
「ここからは1000倍速です」アランが説明する。
それは太陽にとりつく。
「!!」
太陽に黒い染みが生じる。黒点?・・ちがう、暗黒。“闇”そのものだ。
雨の波紋のように、次々とその数は増えていく。
それに伴い太陽はその輝きを失っていく。
「・・・」美理は声が出ない。
「まるでブラックホールだ」啓作がつぶやく。
「星が・・喰われている?」明は息をのむ。
・・・そして太陽は黒い球体と化し消滅する。
「クリス!」ショーンが叫ぶ。
クリスは気を失っていた。
「これが“恒星消滅”の真相?」サライの顔色は悪い。
ロイが「移動性ブラックホール?いや、生き物の様にも見えた」
アランが付け加える。
「異常な次元波動反応がありました。ブラックホールは超重力ですが、あれは次元の裂け目の様なものです。エネルギーが転送されています」
「・・・」
これには流石の流艦長も動揺しているようだ。
「解析結果を銀河連合へ送れ。・・星はその最後に(次の)星の元になる星間物質を残す。だが、消えてしまっては何も残らない。これが続けば、銀河は消滅する」
艦橋からの帰り。
ショックを受けた明たちの足どりは重い。
皆無言だ。
展望室を通る。
「あ、ボクちょっと星見てから帰るよ」
「おお」明は上の空で「また後でな」
ボッケンはひとり展望室に残る。
嬉しそうに窓の外を見る。
帰れないにしても故郷の近くにいるのだ。
医務室。
クリスの目が覚める。
リックが心配そうに「大丈夫?姉ちゃん」
「うん。もう平気」
「映像見たよ。間違いない・”あいつ”だ」
メインブリッジ。
「大銀河帝国艦隊が動きます。シェプーラ星に向かっています」
クリスに代わってメインレーダーを担当しているカレン索敵情報副長が報告する。
「艦長。どうしますか?」
ロイの質問に、流啓三は静かに答える。
「侵攻を阻止する。シェプーラ族の戦闘力は高い。彼らを敵にまわしたくない」
<スペースインパルス>はシェプーラ星へ向かう。