4.まっさら
次の朝。
ベットが何故かすごく硬いし布団も蹴飛ばしたのか、かかってなかった。寝相が悪い…
寝ぼけた頭でそう思いつつ起き上がると少女に挨拶をかける。
「んんー…おはようー!」
「おはようございます」
このほのぼのとした会話をした後、ようやく覚醒すると朝からとんでもない光景を見ることになる。
扉以外、何もなかった。
比喩でも冗談でもなく、何もないのだ。
街も建物も。そして人も。
「え………どういう……事…?」
「なんで………、なんで何もないの……?」
夢なのか。そうならさっさと目を覚さなければ。
そう思って頬を摘むが痛い。という事は、これは現実なのか。
本当にどうなってる?
昨日まで普通にあった街が寝たら消えた?
人はどこ行った?母は?父は?弟は?店長は?
信じられない。ありえない。本当になんで?
そればっかり考えていた。なんでなんでなんで…
そして、ただ目の前の光景を呆然と見ていた。
だから最初少女が話した言葉も理解できないものだった。
「ふーん、こうなったのか」
………え??なんて、何て言った?
"こうなったのか"ってどういう事?
まるで何か予想してたみたいな言い方して…
「な、何か、知ってるの?
知ってるなら教えて欲しいな…
さっきから訳分からない…なにがどうなったのか」
少女はゆっくりとこちらを見て
「ああ…、お姉さんは何も知らないのか。まあ、当事者と言っても分からないかもしれない。 」
当事者って何…何もやってないよ…
いつも通り生活していつも通り過ごしてただけなのに…
「ごめん…なんの事かさっぱりなの。
わかってる範囲で知ってる事を教えてほしい。
お願い……」
わけわからない環境。頼れるのは少女のみ。
そういうと、少女は考え込むようにした後にこう提案した。
「そうだ、二つ質問に答えて欲しい。
そうすれば知りたい事をある程度は教えてあげられると思う」
「本当?ありがとう…さっきから混乱しすぎて…」
私が安心したように話すと少女は少し苦笑していた。
「それは見ればわかるよ、お姉さん。まだ二日、三日程の出会いだが、元気のないところは未だ見てないから」
余程分かりやすく混乱してたらしい。
私は顔に出やすいタイプだから当然だろなぁと考えつつ少しだけ落ち着いてきていた。
「では、質問いいかな?」
「うん、大丈夫」
調子を少しだけ取り戻した私の顔を見て少女は少し微笑む。
「質問は分からなかったら分からない、で大丈夫。
では質問その一。お姉さんは街が一体どんな構造してるか話せる?」
なーんだ。質問と言うからもっとややこしいのかと思ってた。案内役の私には簡単な話だ。
「勿論!まずは観光名所から!えっと…………あれ?思い出せない……あれ?」
思い出せない。まさかの案内人である私が。
やばい、どうしよう。気が動転してたにしてもこれはひどい。これこそ案内人失格だ。
思い出せるのは家の様子と案内所だけ。
「観光名所分かんないや…。家と案内所の様子は思い出せるんだけど」
「なるほど。これは予想通り。では質問そのニ。」
え?予想通りなの?
そんな事を考えたのだが、ひとまず質問に答えていく。
「お姉さんは家族の名前、覚えてる?」
一瞬ふざけてるのかと思った。家族の??
こんなのわかって当然。
だが少女の顔は真剣なもんだから疑問に思いつつ答えていく。
「それこそ当たり前だよ!お母さんの名前は………」
分からなかった。
え??
いやいやいや、嘘でしょ。
おかしい。わかる筈だ。だってずっと一緒に過ごしてきた家族なんだから。でも思い出せない。
母の名前も。父の名前も。弟の名前も。
「…………分からない。」
「そう。では案内所の店長の名前は?街の人の名前は分かる?」
「…………。」
これも分からなかった。全く思い出せなかった。
流石にここまでくれば自分がどれだけおかしいか分かる。
家族の名前まで思い出せないのはおかしい。
少女は私の様子を見てふむふむと頷いた。
「うん。大体把握できた。
凄くびっくりしてるみたいだけど、もう一つびっくりさせてもいいかな?」
少女はそう発言し、微笑む。
これ以上に何かあるのだろうか。
だが、考える余裕もないし、
これから何を言われても驚かない自信がある。
ゆっくりと頷くと、少女は笑みを深くした。
まるで、同情してるように見えるその顔に
不信感を抱きながら発言を待った。
少女は私の顔を真正面に見据え言う。
「この街、1週間ほど前に滅んでいるんだよ。」
「……………」
言葉に詰まった。
そんなの出鱈目だって言えたらどんなに良かったか。
でも、この惨状を見ると、そう言われて納得できてしまう自分もいた。なんとなく理解できてしまう。
誰もいない。扉だけの寂しい場所。
「私がこの街の壊滅の噂を聞いたのは、3日ほど前だね。
暇つぶしがてら来てみたら、この通り。扉以外何もない。
それでその扉に触れたら、
お姉さんが住んでた街が広がってたんだよ。
曖昧で、ぼやけてて、
それでもお姉さんだけがはっきりといた街がね」
「…………………」
この感情をどこにぶつけたらいいのか分からなかった。
戸惑い、信じたくない気持ち、信じるしかない現状、何もない街。ポツンとある扉。
私の大切な家族は、もういない…?
店長も、街の人も、もういないの…?
私の大好きな街は、もうない…?
一言も話さなくなった私を少女は黙って見ている。
暫くの間、無言が続いた。
そして、この無言に耐えられず話したのは、爆弾発言を続けた少女だった。
少女は静かに話す。
「お姉さん、動揺するのも分かるよ。街がないんだから。
ただ、疑問も残ってる。
どうして扉はここにあるんだろうね。
街は跡形もなく壊滅してるはずなのに。」
どうやら、少女は扉の真相を知りたいようだった。
確かに疑問を持つべきだろうとは思う。
でも私にとってそんなことは今どうでもよかった。
頭の中がぐちゃぐちゃで、
心に見えないモヤモヤが渦巻いているのが分かる。
街がないと言う事実だけが、
ゆっくりと、私を絶望感に浸らせる。
私から返事がないことに、少女はため息をつく。
また、無言が続く。
続くと思われていた。
だから、扉から発せられた声に二人して
かなり驚いたんだ。
「あらー?静かねー。二人とも、どうかしたのー?」
設定を全部消してたので、思い出しながら書いてました。
伏線回収の回ですが、果たしてうまく纏まるのやら…。