3. お泊り
その日の夜。
約束通り19時に案内所に向かうと、案内所の扉の前で少女は待っていた。
「やっほー!朝ぶりだね!」
「ふふ、そうですね」
こんな風に軽い挨拶をして、二人並んで家の方に向かう。
といっても案内所のお隣さんなので、そもそも歩くと言える距離ではない。
案内所から10歩程度で我が家に到着。
「着いたよー!」
「着きましたね」
「でも失敗したなぁ。昨日私の家に来てくれてた訳だし、家を集合場所にしておくべきだった…」
「大丈夫ですよ。私は案内所の店長さんとお話があったので」
「店長と?どんな話だったの?」
「街の外の話です」
どうやら流石に朝少し話しただけでは、店長は全然足りなかったらしい。少女は多分、また話にきます、とか言って場を収めたんだろう。賢い。
そして二人で家を眺める。
「では、改めまして…私の家にようこそ!」
「お邪魔します」
「どうぞどうぞー!」
家に入ると、母が笑顔で迎えてくれた。
「いらっしゃいー、ようこそー。夕飯はもう食べたー?」
「いえ、まだです」
「そっかー、それは良かったー。よければ一緒に食べないー?」
「いいんですか?」
「大丈夫よー、ささ、どうぞー」
母の呑気な声を聞いて二人でリビングに入る。
机には私が作った料理がズラっと並んでいる。いるのだが…少し量が減っている気がする。
「……食べた?」
「んー?食べたけどー?」
「………そっか………」
確信犯は堂々としていた。
それはさて置き、椅子に3人で座る。
全員座ったのを確認して手を合わせる。
「それでは、いただきます!」
「いただきます」
「いただきますー」
もぐもぐもぐもぐと、母は食べていく。一番よく食べるので、ご飯の量もかなり多い。私と少女は普通ぐらい。
チラッと少女の方を見ると、無表情で食べていた。もしかしたら私の料理、失敗したのかもしれない。
「もしかして……美味しくなかった?」
「いえ、そんな事は。ただ、私はいつも味付けが濃い方なので…物足りない感があるんです」
割とハッキリ言われた。
そう言えば、昨日も晩ご飯は無表情で食べてたなぁ。
んでその後……
「という事で今日もこれ、かけさせてください」
出た、謎の粉。
昨日いきなり食材にかけ始めた時にはびっくりした。少し舐めさせて貰ったが、どんな味だったか覚えてない。一つ言えるのは、粉、めっちゃ危険。命危ない。
少女がさっさと粉をかけてるのを見て、母が目を輝かせて言う。
「あらー、その粉、美味しそうー、
舐めさせて貰ってもいいー?」
「それはダメーーー!!!」
ー数十分後ー
「ごちそうさまでしたー」
「ごちそうさまでした」
「はぁ、はぁ、ごちそうさまでした…」
母を止めるのにこんなに疲れてしまった。
本当にマイペース過ぎる…。
食器を洗いながら、そんな事を考える。
隣には、手伝いを買って出てくれた少女が食器を拭いていた。
「そういえば、今日はお父様と弟さんはいらっしゃらないんですね?」
「ああ、たまに二人で外に食べにいくんだよ。何でも部活を効率よく続ける為にはがっつり食べる事だ!
みたいな感じでお父さんがたまに弟を連れ出すんだよね」
「家で用意したのは、食べないんですか?」
「家で食べるとお母さんにほぼ食べられちゃうからなぁ。育ち盛りの弟には中々きついみたい」
「そういえば、お母様が八割ぐらい食べていましたね…」
「よく食べるんだよー、本当に。どんだけ作っても八割食べられるんだよね…」
「お父様は?」
「お父さんは私と同じく普通くらいかな?」
「そうですか」
みたいな会話をした。
リビングにある大きなソファには、母が寝ていた。
物音がかなりするはずのだが、一切起きる様子はない。
家にはベッドが4つしかない為、必然的に誰かがソファに寝る事になったのだが、至っての希望でソファに寝る人は、母にあっさり決まった。
珍しく母がマイペースを崩すとは、少女の事がよっぽど気に入ったのだろう。
割ときちんと寝床を整えると、
「じゃあ二人とも、おやすみなさいー」
と言って寝た。
母は物凄く早く寝たが、私たちもこれから特にする事はない。
皿を片付けて、のんびり二人で話した後、お風呂に入った。
そして後は寝るだけだ。
二つのベットに入って、少しだけ話す。
「なんだかんだであっという間だったね」
「はい、すごく楽しかったです」
「ね……」
そうしてしばらくの間、黙ったまま天井を見上げた。
振り返ってみると、今日は一段と濃い一日だったと思う。大変な事もあったがかなり楽しかった。
「……さて、そろそろ寝よっか!」
「そうですね」
「おやすみなさい!」
「おやすみなさい」
こうして二人でぐっすりと眠ったのだった。
ーーそして、"真実"の一日が訪れるーー
文字数少なくてごめんなさい