表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

企画参加作品

願かけ花火

作者: 架け橋 なな

 中学三年生の(はな)美咲(みさき)由利(ゆり)は、小学校からの友達で、大の仲良し。


 今日は夏休み一発目の土曜日。


 その夕方、三人は町内で毎年行われる夏祭りに来ていた。花はアサガオ、由利はキキョウ柄の浴衣を着ている。美咲だけは紺の甚平姿だった。



「はなもゆりも、浴衣、超かわいい~っ!!」



 美咲が短い茶髪を揺らし、にこにこしている。大人しい顔つきの花は、照れて束ねた黒髪をいじった。



「みっちゃんも浴衣着てきたら良かったのに」


「でもそれ動きにくいでしょ。だから兄貴の甚平を借りたのよ」


「それ着てると、みっちゃん、どう見ても男だね」



 黒髪ツインテールの美少女、由利は鋭く指摘する。



「ちょっと!あたしのどこが男だって言うのよ!ほんと、ゆりったら失礼しちゃう!」


「しかもその喋り方だったら、完全オネェだよね」


「くっ!もう、どう思われてもいいわ!あたしが居たら、酔っぱらいとナンパ野郎も寄ってこないでしょ!」


「みっちゃん、ボディーガードみたいだね!カッコいい!」


「魔除けとも言うね」


「ゆりさん!?さっきからあたしのガラスのハートが、ごりごり削られていってるんだけど!?」


「気のせいじゃない?さ、そろそろ食べ物でも買いに行こっか!」



 美咲は抗議するも、華麗に流されてしまい、ガックリ肩を落としている。花は彼女らの軽快なやり取りに、思わず吹き出してしまった。



 三人は人混みの中を歩き始める。昼間、強い日差しを浴びた地面からは、もわっとした空気が上がってきていて、蒸し暑い。赤いちょうちんのぶら下がった屋台が、広場の手前から奥まで、ずらりと並んでいた。



「違うクラスの子もいっぱい来てるね!」


「はなちゃん、みっちゃん、何食べたい?」


「あたし、かき氷食べたい!あと焼きそばと、たこ焼きと、唐揚げと、ポテトとりんご飴と」


「いや、並んでる間に、花火が終わるから!」


「みっちゃん、どれかに絞ろう!?」



 由利と花が的確な突っ込みをしたので、美咲はしぶしぶ了承した。だが、「花火より屋台制覇がメインなのに」とかなり不満げだ。どうも彼女は『花より団子』の精神らしい。



 結局三人はかき氷と焼きそばを買って、花火が始まる三十分前にベンチに座った。早めに場所取りをしておかないと、立ったまま観ないといけないからだ。


 腹ごしらえをしつつ、楽しくお喋りをする。空はオレンジ色から、藍色へと変化していった。ふと、左端に座る由利が二人に視線をやり、真面目に尋ねた。



「ねぇ。みんなはさ、高校どこにするか、もう決めた?」


「あたしはまだ。でも柔道部の強いところに行きたいから、緑川高がいいかなぁ」



 真ん中に座る美咲が答える。花も右端から返事をした。



「私は白山高だよ」


「え!?あそこ偏差値ヤバいんでしょ?はなちゃん、お医者さんになりたいんだもんね。すごいなぁ……」


「ゆりちゃんはどうするの?」


「わたしは青林女子。あそこが家から一番近いんだよね」


「うわ。あたしたち、見事にバラバラじゃん」


「ほんとだね」



 うなずいてから、花は言い知れぬ淋しさを感じた。あと半年ちょっとで卒業式がやってくる。そうしたら、仲良しの二人と離ればなれになってしまうのだ。



「あのさ。みっちゃん、ゆりちゃん。高校が別々になっても、私たち、友達だよね?」


「は?何言ってんの!当たり前じゃん!はなってば、心配性だね!」


「でも、今みたいに学校でしょっちゅう会わないんだよ?疎遠になっちゃわないかな?」



 由利も不安そうに眉をひそめた。



「うーん。確かにあんまり出会えなくなるよね。てかさ、会う回数とか、別にどうでも良くない?離れて忘れちゃうような関係なら、それ最初から友達って言わないでしょ!」



 花はどきりとして、美咲を見据えた。由利も彼女を驚いた顔で眺めている。



「……みっちゃんって、時々、ものすごく核心を突いてくるよね」


「頭の中、食べることばっかりなのにね」


「ゆりさん?今さらっと酷いこと言わなかった?」


「ええー?言ってない言ってない」


「ほんとかなぁ」


「あー。でもわたし、やっぱり淋しいからさ。みっちゃんや、はなちゃんに、ちょくちょくメッセージ送るよ。既読無視とかしないでね?」


「ごめん。あたし、基本スマホは放置だから、用があったら家電にかけてくれる?」


「みっちゃんのスマホの意味とは……」


「だってメンドイんだもん」


「連絡来なかったら、独り言いってるみたくなっちゃうじゃん。それ悲しいよ」


「ううーん、そっかー。仕方ないなぁ。あんまり返信は期待しないでよ?あたし、マメじゃないんだからさ」


「オッケー。期待せず待ってる」


「私もー」



 他愛のない会話が終わった頃、ぴゅるるるるる、と音が鳴り、光が尾を引いて高く高く昇る。


 二・三秒後、紫の大きな花が夜空に咲いた。


 次にどんっと身体中に響くほどの振動が伝わる。



 ボタンやキク、ヤシ、土星、笑顔マークや羽ばたく蝶。


 次から次へと綺麗な模様が夜空を彩る。



「わー!」


「すごーい!」


「超キレー!」



 三人は花火に見とれ、弾けるような笑顔をこぼした。花は煌めく景色に胸を高鳴らせながら、さっきの話を思い返していた。



 仲良しでも、ずっと一緒には居られない。私たちの進む道は、これから別々の方向に分かれてく。違う環境で、違う友達が出来て、なかなか会えなくなってしまう。


 でも。毎日、同じ場所に居られなくても、例え遠くに離れていても。



 私はずっと二人を応援してる。困った時は、いつだって力になるから──



「大人になっても、親友で居ようね」



 花は二人の横顔に向かって呟き、それから再び夜空を見上げた。



 花火はクライマックスに突入だ。連続して笛のような音が鳴り響く。二度のまばたきの後、真っ白に輝く柳の木が夜空いっぱいに広がった。三人は口を閉ざし、じっとそれを凝視していた。



【来年も、またみんなでお祭りに来られますように】



 きらきらと流れ落ちる花火は、三人のひそかな願いなどお構い無しに、美しく儚く、暗闇へと消えていった。

あなたには、ずっと友達でありたいと思える人が居ますか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] こんにちは!! 花火よりも屋台……。分かりますwww('ω')花火はその時の一瞬なのに、何故か屋台全制覇に夢中になる。不思議な魅力がありますよね。 高校の時、友達とまさにこんな話をしてい…
[一言] なんか、あの歌思い出したな…… きみっとなっつのおわっりっ しょうっらいっのゆめっ おおっきなっきぼうっわっすれない
[良い点] 綺麗な花火でしたね。3人が並んで夜空を見上げる顔が目に浮かぶようでした(´∀`*) 1人だけ甚平だったりw、女子トークが可愛らしかったり、さすがはななさんの物語。しっかし和みましたw こ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ