小さな救済者
「で、妹ちゃんが不服にも勝ってしまった事が分かったわけだか………………………あの超絶美人さん、見たことあるか?オリンピアのパーティーで会ってそうなのにな。あんな美人さん見逃すわけないからな」
レミエルの元へと戻る。あのままずっと腕を組んだまま試合を観戦していたようだ。物好きなもんだ。
カマエルちゃんは巨人男の攻撃を避け続けていた。隙を伺い、俺と同じように傷を少しでもつけようと思っているのだろう。
(ありゃあ、バケモンだったからな……………見てても避けれねぇよ。未来が見えても、な)
おっと、レミエルに話を無視されていた。
どうにもならジョフィエル=オフィエルが気に入らないみたいだ。特にこいつは自身の色気の無さを気にしているようだしな。
「失礼なこと考えたでしょ、今」
「いやぁ、まさか」
怖い怖い。妹ちゃんもこいつも、タイプが似てるわけか心まで読まれちまうぜ。女の勘って奴か?
レミエルはまたもや不機嫌そうな顔をして、苦言を吐く。
「私も、その阿婆擦れは見たことないわ。オフィエルってことは参加しててもおかしくはないけど…………………まあ、色々あるんじゃないの」
「そうゆうもんかね…………」
さりげなく、レミエルの隣を確保。多分気づかれてるけど、何もしてこなかったので安心した。
「そういえば、ラグはどこ行ったんだ?さっきから姿が見えねぇんだよ。反抗魔法を広げてもいない見てぇだし」
「今更だわ。それに、反抗魔法ごときでラグエルが見えるはずないもの。それにラグエルは外よ、多分もうすぐ戻ってくると思うけど」
反抗魔法は魔法解除の希少なものである。でも、それはフル――――――――――――ラグの家庭が得意とする魔法のひとつなのだ。昔、ラグから教えてもらったことがある。
(まあそれでも、俺は誰かいるなーとか大雑把にしかわかんねーけど)
でもラグはなんで外に?もうすぐ帰ってくるというのは、レミの試合があるからだろうけど…………。
「絶対に離さないって言ったばっかなのになぁ。啖呵切っといて早速破ってんじゃねぇか」
あの時、離してしまった手を。
とても後悔した。あのまま、ずっと会えなくてやっと会えた。だから離さないと決めたのだが……
「仕方ないじゃない。一人になりたい時だってあるわよ……………………それに、ラグエル体調悪そうだったし」
「なんで早く言わねぇんだよ!」
「だって、言って欲しくないって顔に書いてあったんだもん!」
獣の喧嘩のごとく睨み合う。すると、制裁の声が上がる。
「やめろ、二人とも」
そこにはレミエルとザドキエルの大事な親友がいた。二人の仲介として真ん中にたっていて、数秒が驚きのあまり声も出せず固まっていた。
「ラグ!?」
「ラグエル!?」
やっと声が出た。
「うるさい。今試験中なんだろ?迷惑かけちゃだめだ」
「そうっすよ、また喧嘩してるっすか?」
またもや真打登場。ガブリエルさんが僕の隣へと立ちずさんでいた。またもや2人はキョトンとする。
「あれっ?どうしたっすか?」
「なんで………ガブリエル様がここに?試合はいいんですか?」
「それは決着がついたからっす」
ガブリエルさんは結界内を指さす。2人がその先を見るに、勝者は―――――大斧少女だった。巨人男は悔しそにその場に大剣を叩きつけていた。ドゴンドゴンと騒音が煩く響く。今までなんで気づかなかったんだろうな、レミエルとザドキエルは。
「勝った!勝った!カシエル、勝ったよ!!」
大斧少女はすぐさま妹である真面目少女の元へ抱きつきに行く。なんとも微笑ましい光景だろう。
羨ましい。僕は家族にあんなふうに抱きしめてもらったことは無いから。
すると、空いた両手に再び温もりを感じた。方からもだ。レミエルとザドキエルの仕業だった。レミエルは両手を贅沢に強く握り、ザドキエルは肩を組んで来ていた。
「大丈夫?顔色悪いわよ?」
「少しは休めたか?まあ、お前の試合は最後の方だしな!」
少しもどかしく、久しく再会した親友にこうも何度も助けられるとは。僕はまだ、気持ちが悪いままここに来てしまった。まだ吐き気もするし、頭は釘で打たれているかのようにガンガンと痛む。正直たってるだけでも精一杯だ。
でも、この二人には心配かけたくないから、強がってるだけだ。
僕は我慢するのは得意だ。
「大丈夫だから。ほら、レミエルは試合でしょ。勝てよ」
少し名残惜しそうにレミエルは手を離し、ガブリエルについて行く。そして振り返って、自信満々に言葉を放った。
「ふんっ、ザドキエルのように無様を晒したりはしないわよ」
一呼吸おいて、
「見てなさい」
その背中は小さくも、たくましくも見えた。