目覚め、ザドキエルの
意識が混濁する。シャットアウトされた視界、それ以前の記憶は純白の光を浴びたことしか覚えていない。あやふやな記憶を甦らせながら、意識が覚醒する。
「―――――――――――あ?」
腑抜けた一声を呟くザドキエル。冷たく硬い感触の床に大の字でころがっていた。しかも、右隣にはどこかを見つめるレミエルの腕を組んで立つ姿が。
「水色、しましま…………」
一言目と同じようにつぶやくとこちらに気がついたレミエルと目が合い、また視界が黒に染る。レミエルに蹴られたのだ。
「どこみてんのよっ!」
床にぐりぐりと擦り付けられ、頭がじんじんする。
痛みを我慢しながら、ゆっくりと体を起こし胡座をかく。そいで、まだ痛む頭を抑えてレミエルの視線の先に目をやる。
「あれは………………双子の姉の方か?」
「カマエル=ファレグよ。あんたが一目惚れしたっていう子。丁度、始まったの」
ということは、妹ちゃんの方の試合は終わったのか。
「で、その妹…………カシエルちゃんだっけ?」
「ちゃん付けキモイ」
レミエルに罵倒されるも(表情一つ変えなかった)顔をしかめるだけで収めて問う。ちゃん付けを否定された為、名前でなく呼称で。
「妹ちゃんの試合はどうなったんだ?相手は…………………美人だっただろ?」
「名前くらい覚えなさいよ。ジョフィエルっていう阿婆擦れよ」
「阿婆擦れ?ババアなのか?」
追求しようにもレミエルはそれ以上答えてくれない。心底嫌げにこれ以上聞くなオーラが出てる。
(これは本人に聞いた方が良さそうだぜ)
ザドキエルは姉であるカマエルちゃんを熱心に見つめていた妹ちゃんの方へ歩きよる。その目には尊敬と心配が籠っていて、姉思いであることが伝わる。
(俺のライバルになりそうだぜ……………シスコンだったらの話だけどな)
妹ちゃんへ手を軽くあげて「よう!」と話しかける。妹ちゃんは目が合うと、軽くお辞儀をする。きっかり45度、3秒礼も忘れない礼儀正しく、清楚な感じがした。
「こんにちは、お兄ちゃんに一目惚れした変態さん」
「……………………その呼び方やめろってなんで変態さんになるんだよ!」
こいつもレミエルと同じタイプかと思ったら面倒くさくなってきた。だが、同じタイプならツンケンしてる割にもデレはあるはずだ(信じたいぜ)。
「だってお兄ちゃんみたいな貧相な体つきのを好きになる人なんてロリコンですから」
「なんだとぉ!?おい、カシエル!また貧乳って言ったな!」
ここからでもカマエルちゃんは大斧片手に、巨人男の大剣を華麗に避けながら怒っていた。
巨人男はあんな巨大なのに大剣を棒切れのように軽々と素早く動かす上に、投げ技を入れようとしているようだった。
それを余裕もってかわすカマエルちゃんも余程だが…………。
「凄い………………やっぱり、お兄ちゃんは凄い」
妹ちゃんも見とれているみたいだ。思わず頬が緩み、仏頂面が溶けて微かな笑みが…………………と思うと睨まれた。怖い怖い。
「で、本題はなんですか?」
「いやぁ、どっちが勝ったのか気になってねぇ…………教えてくれるか?」
こちらもレミエル同様に顔を逸らして、けど不服そうに言った。
「あの人」
そう言って妹ちゃんが指を指した先には、絶世の美女がいた。人形のような真っ白な肌に、シンクの目と口、薔薇色のロングヘアは絹のように細かく甘美で、また純白のスレンダードレスがくびれたラインを美しく写す。何よりその巨乳である。ありゃあ、メロン………スイカ…………ダメだ、あの大きさは………。
「ジョフィエル=オフィエルっていいます。その人、試合開始してすぐに降伏したんです」
「は?そりゃあ、どうゆう事だ?」
「………………『妾は美しい。故に、汝のような醜女とは戦いたくないわ』って言われました」
淡々と妹ちゃんは言った。表情一つ変えずに言うので、レミとはまた違うタイプのようだ。レミならば顔を顰め心底嫌げな顔をするからな。というと、妹ちゃんは感情がない訳ではなく、出にくいのだろう。
妹ちゃんは醜女と言われたことは気にしてないのか?
「気にしてませんよ、どちらかと言うとお兄ちゃんの方がいかってました」
それで私は怒ったりはしませんでした、と付け加える妹ちゃん。って言うか心読まれたぜ。侮れない。
(でもなるほどな。レミは阿婆擦れと言ったのもよくわかる。あいつの大嫌いゾーンのひとりだな…………………が、引っかかるな。俺が噂に聞くジョフィエル様は高貴でお優しいと好評だ。決して傲慢では無いとの事…………………思い違いだったか?)
それでも裏を返せば、妹ちゃんがジョフィエル様の力によって傷つくことを考慮してのことと考えると嘘ではないのかもしれないが。無理やりすぎるか。
オフィエルといえば、最近新規の専属世話係が就任したって聞いたな………オリンピアの家系の専属世話係と言えば余程の腕を持たぬと出来ないからな。でもそれくらいしかオフィエルに関する特殊な情報はないからな。まあ、その専属世話係の教育で人が変わったという話なら可能性はあるならあるか。調べてみる価値はありそうだ。
「ありがとな、妹ちゃん」
「構いませんよ、変態さん」
その後、その呼び方は改名されはせんかと少し揉めても、妹ちゃんはそれを辞めようとはしなかった。