自己完結
「ぶっころすーーーーーー威勢がいいのははじめだけっすか、サリっち」
「う……うる、さい」
「ジョフっちもサポート係じゃ一生自分には勝てないっすよ」
「……………生憎にも妾の魔法は魔法向きではないのよ。妾達のセンセイならそれくらい分かるでしょう」
「そうっすね。なら自分に敵わないってこともオリンピアの家系ならわかるんじゃないっすか?」
薔薇色のロングヘアを一つにまとめたジョフィエル=オフィエルは皮肉で返されて眉を少し顰める。足取りがおぼつかず、立ち眩むサリエルのちいさな体躯を支えた。
疲労困憊なジョフィエルとサリエルに対し、紫紺のツインテールに八重歯を出す『権天使』ガブリエル=シルヴェは平然と立ちずさんている。
「伊達に『権天使』を名乗ってないっすよ!」
敵とし、避難妨害した生徒ーーーいわば裏切者に対してむける笑みではない。ガブリエルは平然といつものおちゃらけた笑みを浮かべるばかりだった。
「さて、どう処罰するっすかね……」と勝利を前提とした発言をこぼすほどに余裕のようだった。サリエルは唇を噛み、魔法を構築しようとした。
「駄目っすよ、サリっち。もう諦めてくださいっす」
魔法構築をさらなる魔料の上乗せにより、破壊された。サリエルは益々顔を歪ませて、舌を噛む。口元からは微かに流血を、ますたーの為一時間も時間を稼げずに、弱さを噛み締める。
「とりま、ラフっちに救援要請を……と」
ガブリエルは右手を頭に添え、緋と蒼の濁った空を見上げ、通信を取る。サリエルやジョフィエルに魔法で生成した拘束具を装着して、だ。ジョフィエルは静かに気を伺っているが、サリエルは暴れ睨むばかり。ガブリエルは気にする様子もなく、通信の方に意識を傾けた。
「そうっす………魔術ではないっすけど限りなく近い魔法を再現、発動したのだと思われるっす。はい……戦争の時程の効力はないっす。オリンピアの子供達でめ結構きつそうっす。早急な応援をーーーーミカっち」
報告と懇願、ガブリエルの声から訴えられる声にはこの場にいるだけでも十分な恭順できるというのに、ミカっちーーーーミカエル=オクからの返答は予想外のものであった。
「え?どうゆうことっすか?……………無理って、宿命って、運命って……関係ないじゃないっすか!ピンチなんっすよ!?」
そこで、通信が切断されたのか呆然と立ち尽くすガブリエル。一部始終を見届けたサリエルとジョフィエルは目撃した。
希少ーーーーその背後に揺蕩う憤怒の静かでいてドス黒い怨念のような、絞り出すように履いた言葉を。
「ハニエル=ベトール……」
いつもの愛称で呼ばれなかった、ガブリエルが唯一嫌悪する天使。その名は確か、『力天使』狡猾の役目を背負う上級天使の名であった。
ガブリエルはなにかに気づいたのか、笑顔は決死の表情へと急変する。サリエルやジョフィエルのことなんて視界に映っていないのだろう、魔力のこもった大声で通信先を変え口を開いた。
「ラフっち、無事っすか!?」
『そ…れより、落ち、着いて……ね?』
「ハニエル=ベトール、そこにいるんっすよね?!聞こえてるっすよね!?」
『だいじょ、ぶ…だ…ら落ち、つ』
「自分の大事なラフっちに危害は加えてないっすよね?脅迫してても同じっすけど!」
『がぶ、さんっ……お、ちつ』
「嘘ついてもわかるんっすから!言葉にして!お願いっす!でないと」
『ーーーーー』
「自分は殺しますっす。むしろ死んで下さいと」
序盤から終止に向け、声はドス黒いものに。その二文字は酷く胸に響いた。
ーーーーー死ね。
「と呪いの歌を歌いますっす」
『ーーー呪い歌のほうが嬉しいですけど、面倒ですね』
「!?」
唐突にとぎれとぎれの頼りない声より、自尊心に満ち溢れた退屈そうに言葉を放ったのはラファエルではないことは確かであった。
「ハニエル=ベトール……ラフっちは?」
その言葉よりだいぶ遅れて、ハニエルと思しき人物の返答が来る。
『それよりも、だ。根暗醜女は言いたいことがあるそうだ。面倒ですが、聞いてあげてください』
お前の声の方が面倒で一生耳にしたくない、という皮肉を飲みこんで言葉を待つ。
『君臨『終焉の業』が発動、する…ね?だか、らね?いま、す、ぐ、ウリっちに、伝えて!!ね!』
ガブリエルはとある魔法発動を感知する。遠隔よりの後方支援、戦争を味わった古くから生まれ戦った天使だからこそ、ラファエルの親友であることから。
『みん…な。た、す…けて』
口を無理やり防がれたような、押さえつけられたような妙な物音と声。
「ラフっち!?」
通信は無理やり切断された。恐らくラファエルは脅迫状態にあり、ガブリエルらを守る魔法を発動させ、ハニエル=ベトールに……。そう思えば思うほど、ハニエルへと怒りと恨み、ラファエルへの心配と優しさに胸を締め付けられる。気持ちを切り替えようと深呼吸する。来ると、大声で助けを求められていた。
否、元より叫ばれ止めてと言われていたのだろう。聞こえないほどに目の前の、自分のことしか目に入っていなかったのだ。
「落ち着いて、プルゥドよ!プルゥドの自傷行為を止めて!誰か!このままじゃ、死んでしまうわっ!!」
自らの首を両の手で締める。サリエルの自殺行為を止めようと、その手を抑えるも、次には下を噛み千切らんとする。ガブリエルの歌唱魔法は込めた感情で命令を聞かせることができる。先程、ハニエルに向けた死ねていう呪いの歌を聞いてしまったが故に、こうなったのだろう。
「止めろ」
そのワンフレーズでサリエルの全身に回っていた摩訶不思議は脱力した。ガブリエルは申し訳無さそうにそれでいて真摯に、サリエルを抱きとめた。
「ごめんなさいっす。自分の一生の不覚っすね。サリっち、ジョフっちも情けないところを見られてしまったっす」
抱きとめたまま、サリエルは何が起きているのかと混乱状態で呆然としていた。
「精神が未熟で、精神的に弱っている今のサリっちには歌唱魔法に影響されてしまったっす。本当にごめんなさいっす」
「ば……ばかにするな、このくらいへいき、だ」
なんだかわからなくなった。ますたーの為、根本的なものは変わらない。ただ、ガブリエルと戦うことの意義が見つけられなかった。ますたーの為、時間稼ぎをする。それだけなのに、全然できなくて、悔しくて負けなくなくて。
けどこうゆう状況で。ますたーやジョフィエルに触られること以外嫌ってきたはずなのに。
ますたー、ますたー、ますたー………教えてよ。
サリエル=プルゥドはこの世をとっくに去ったもっとま尊敬し敬意し両親のようなかけがえのない大切な存在の名を何度も呼称した。
すると、返ってきた。
ーーーーーもう要らないよ、我が愛しの子。
ーーーーー君は自由だ。どこへでも行って。
それは幻聴なのか、でもサリエルがますたーの声を忘れるはずがなかった。
ーーーーー今まで束縛して申し訳ないね。
ーーーーー私に固執してばかりじゃ、君は一生成長できない。
ーーーーー広い世界を見せてやれない、だからさ。
でもこんなますたーはしらない。
わたしのためにがんばってっておねがいしてくれて、なでてほめて。えがおをうかべてあいしてくれる。
ぼくをつきはなしたりしない。みすてたりなんかしない。
しらない、しらない。
こんなますたーはしらない。
ぼくをひとりにするますたーなんて、いなく、なっちゃえ。




