α=ブラッド
ーーーーーーバタン!
扉勢いよく閉められ廊下に響く。ボクとカシエルは遠隔魔法で丁寧に着地させてもらえたけど、先生の方は乱雑に扱われ尻もちをついていた。
「つぅっ…………なんするんすか、ウリっち!しかもお願い事なんて音つけがまじいっすよ!だけど………それだけ異常事態なんっすよね」
先生が見つめた先には緋と蒼の濁った空がなびいていた。いつも青青とした澄んだ空なはずなのに。
「…………あの、ガブリエル先生。あれって大戦時の」
「おっ、さすが物知りっすねカシっち。大戦中に悪魔が張った対天使ようの結界魔術っす。天使の魔力を奪い貯め、悪魔の糧とするものっす」
ガブリエルの言葉にカシエルは黙り込む。ガブリエルは「さて、ウリっちのお願い聞いてあげないとっすね」と呑気そうにどこかへ行こうとする。
なんだか置いてけぼりなカマエルは焦り、カシエルとガブリエルを交互に狭しなく見る。
「えと、それってどうゆうこと………?」
「とりあえず、カシっちとカマっちは白く光る扉を見かけたらそこに入ってくださいっす。できるだけ早くっすね、約束っすよ!」
紫紺のツインテールを揺らし、立派な二翼を勢いよく広げる。端にかけて紫のグラデーションは反射し、絹のように柔らかい。見惚れて、立ち尽くしているとウリエルの機械越しからの声が響いた。
『現在より緊急避難訓練を始めるのです。尚、訓練だからといって手抜きは一切無しなのです。油断しては終わりです。一分一秒が命取りとなります。来る戦争の為にも真剣に取り組んでくださいなのです。避難場所については学園中にある、白の扉に限られるのです。他言無用、全身全霊で頑張ってくださいなのです』
長々と告げられたソレは繋がっていた。けど、この空のことは一切触れていない。
「なるほどぉ………とりあえず、避難しよカシエル!幸いにも白の扉は目の前だよ!」
「………………そうですね、お兄ちゃん」
「うん!もう突っ込まない!け、ど、も、難しい顔しないの!ボクと一緒じゃ…………や?」
頬を両手で挟み、ほぐしてやる。ついでに上目遣いで。カマエルは、カシエルが素直じゃないことは等の昔にわかりきっていることだからこうすれば大概お願いを聞いてくれる。実証済みだ。
「嫌っ、じゃないです。だからくるひいでふ。ほあく、へをほけてください」
耳をかすかに赤らめ、定期的にもちりとつまむのに声がおかしくなる。そんな双子の戯れは日常茶飯事。
カシエルがカマエルに毒づけば、ムキになって張り付くカマエルとそれを淡々とあしらうカシエル。もしくはカマエルがカシエルをからかい、愛のある毒をはき照れる。
本当に、この関係になれてよかったとカマエルは心の底から思う。
あの試練を乗り越えて、こうして手を取り笑いあえる。カマエルはカシエルの頬から手を離し、空いた右手に指を絡ませる。恋人つなぎ、というものだ。
「ふふふっ!ボク、カシエルだーい好き!こんなに可愛い妹がいて幸せ!」
口癖となったこの言葉を、素直に受け止めてくれるカシエルがもっと耳を赤く染める。そう、歩みを進もうとした時だった。首筋が凍る。咄嗟に繋いだばかりの手を離しカシエルを前に強く押しながら叫んだ。
「出現『業炎斧』!!!」
かざした左手で斧を力強く握りしめ、ソレへと斬りかかる。一瞬でも早くしなければ、カシエルが危ないのだ。ソレの左肩から右横腹にかけて凪いだ。血しぶきが舞う間もなく、追撃する。流れるように斧をさばき、右に持ち替え胴の上下を真っ二つにする。
火力もプラスされた斧の攻撃力は計り知れない。傷口は炎により燃え、肉の焼ける匂いがした。炎が揺らいだ視界の先には、ソレの目がはっきりと見えた。
こちらを見つめて、笑って、いた。
カマエルは嫌な予感がして、すぐに距離をとった。カシエルをつき飛ばしたすぐ横に、戦闘態勢のまま。カシエルも突き飛ばされてぼうっとしていたけど、どうにか戦闘態勢に持ち直す。
「カシエル、どんなやつだった?」
「桃髪のツインテール、深緑のコートを黒のドレスから羽織ってました、お兄ちゃん」
さっすが、カシエルと感心するカマエル。あの一瞬でよくぞ見たものだ。しかも炎の中で。
「…………えと、どうすればいいかな?カシエル」
双子揃って動かぬソレを見つめていた。広範囲に広がった血溜まりに埋もれる死体を見る。死んでるという認識でいいのかと疑問に持つ。
「妹に頼るんですね、どうしようもないお兄ちゃんです」
皮肉を言いながらもその頬は緩んでいる。それも一瞬だけで、すぐに通常運転に戻る。
「では、白い扉に入って避難しましょう。それが今の最善です」
「りょーかい!」
ウリエルの支持に愚直に従い、油断はしない。一秒たりとも、心ではそのつもりでもーーーーーーーーーーーーそんなことは不可能だった。
あの傷は致命傷、治癒魔法も間に合わない。ましては死者を蘇らせる魔法なんて存在しないのだ。似たような魔法は存在するかもしれないが。それでも過ごすだけ気が緩んでしまった双子はうがかぬそれに背を向けてしまう。
「お兄ちゃん!!」
迫る命の危機にいち早く気づいたのはカシエルだった。血溜まりから現れた真っ赤な刃がカシエルの心臓を一突きにしようとしていたのだ。カシエルはカマエルの手を引き、致命傷は避けさせる。カマエルは右肩に指し傷を覆い、手で抑えすぐさま治癒魔法をかける。このくらいなら第一段階のでいいと判断した。そして背後を振り向くと、世にも奇妙な光景が広がっていた。
「っ!!……………………………え……なに、あれ?」
分断された体が血溜まりへと溶け、全てが血へと変貌する。そして人の形を形成する。
歪み落ちて、固めて零す。そうして完成したのはもとの形となったソレだった。
桃髪のツインテールをふわりと揺らし、ソレは少女は、傷一つなく服も再生し再登場。
「こんにちは、アルファはα=ブラッドなの。ブラッドとよんでほしいなの」




