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君と僕の捕縛世界  作者: 宝来來
試練編
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β=ファング

 禁書庫からでて、すぐに翼を広げ全速力で飛ぶ。これから先の未来を、知っているから動きやすくはあるが…………落ち着かない。禁書庫に入った時からずっと鼓動が速くなっている気がする。


 ともかく、無事でいてほしい。大切な親友を宝物を……奪われたくはないから。


「おおっびっくりした!?どしたー、ラグ?」


 勢いよく扉を開けた先には机に腰を掛けるザドキエルと腕を組んでいるレミエルがいた。無事で、そこにいた。少し荒い呼吸も深呼吸して落ち着かせる。不思議そうに二人は顔を見合わせ、にやりと不敵に笑った。


「そんなに慌てて来て、私達によほど会いたかったのかしら?」


「………そうだよ、会いたかった。安心、したよ」


 本音を、素直に微笑めば、二人ともキョトンとした顔をしていた。まあ、こんなに珍しい僕もいないからな。


『さて主よ、ここからどうするのじゃ?』


 心の中に話しかけるファトの疑問は最もである。ここからが、本番。近寄ってくるザドキエルとレミエルを余所にそんなふうに思っていると教室内に設備されたスピーカーから聞き慣れた声が発せられた。


『あーあー、聞こえていますです皆さん?』


 特徴的な不思議な語尾のーーーーウリエルさんの、声。校内中の生徒がその言葉に耳を傾ける。滅多にお目にかかれないあのウリエル様の言葉だと。


『現在より緊急避難訓練を始めるのです。尚、訓練だからといって手抜きは一切無しなのです。油断しては終わりです。一分一秒が命取りとなります。来る戦争の為にも真剣に取り組んでくださいなのです。避難場所については学園中にある、白の扉に限られるのです。他言無用、全身全霊で頑張ってくださいなのです』


 息するまもなく、それでいてわかりやすい。混乱を招かない為の配慮………と捉えてよいのだろう。こうなれば話は別、僕達も避難しなければ。


「避難訓練ねぇ……なんの為に、だ?」


「そんなこと言ったら負けだわ。ほらさっさと行きましょう、ウリエル様のご命令だわ」


 二人も乗り気……ではないが避難してくれるようだった。


「えーと、白い扉だよな?ここからちけーじゃん、楽勝だぜ!」


調子良さげなザドキエルにレミエルは呆れ、水をさそうとする。これで長くなっては困ると、僕が諌めに入ろうとしたその時、だった。


ーーーーーーーーーーーーブワリ。


 悪寒が走った。背筋が凍りつき、全身が最悪を告げる予感がした。悍しい魔力をオーラを感じ取る。あの、魔獣の異様な手を持つアイツの仕業だろうか?


『主よ、魔法を掛けられたようじゃ。この教室のみに』


 一体何の意図があって………ともかく早く避難しなければ………二人は異変に気づいてないみたいだし今のうちに……


「ちょっ、何そんなに急いでるんだよラグ」


「なんか焦ってない?ウリエル様からの命令とはいえ」


二人の言葉さえ気にしない。手を無理やり引き、扉を開け、出ようとした。だがーーーーーーザドキエルとレミエルだけが弾き出された。見えない透明な壁に阻まれたように。


「ーーーーーーえ?」


 振り返れば、二人も不抜けた顔で……………途端に見えぬ壁をガンガンと叩き、口パクで、おそらく叫んでいる?恐る恐る二人の視線の先を見る。


 それは緊張感なんぞなく、棒読み。ただ当然の如くそこにだらしなくそこにいる。服もダボッとした黒のタンクトップに深緑のコートも着崩して。


空色の髪をした少年は不思議そうに首を傾げる。


「あれれーおかしいんだよん?魔法から出た?除外、排除?異物?……まあ、いっか」


ぽつりぽつりと漏れるワードからは何らかの魔法をかけられたことが分かった。それと、最後の異物というワード。


そう、僕は混じりもの。だから弾かれたのか。


『自分で納得するでない』


だって、本当のことだからね。


『それも主の記憶の欠片、というわけか』


そうだね、と言っている場合でもないよね今は。


『こやつをどうするか、じゃろ?』


魔法の術者本人はこいつなんだろ?ならば、倒すことができたら…………二人も逃がせられる。


『わしの力は必要か?』


要らない。ピンチになったら頼む。


『了解じゃ、主人よ』


 少しずつ距離を詰める少年、否敵に注意を払いつつ魔法を放つ。詠唱省略して。


 出現『翳影喰』。


 僕は自身の影を踏む。すると、影は肥大化し物理化し手と形を変えて敵に絡みつこうとする。ブカブカの服を着ていることからよほどの細身だと考えたのですぐにひねり潰せると思った。


 ところが、『翳影喰』は消失した。否、サリエルとは違い、根本を喰われたのだ。干渉し分析分解するのでなく、魔法を喰われた。捕食魔法?そんなの聞いたこともない。それに魔法を発動させた気配すらも感じられなかった。魔法、ではない?


『いや、魔法じゃよ。おそらくに他者に効果を及ぼすのでなく、自分のみにかけた結果が他に影響を及ぼしたのじゃろう』


 着々と足をすすめる的に対峙して、次は猫のように体をかがめしならせ、顔だけ向けて僕は狙いをさます。


 出現、変化ーーーーーー変貌『夢幻蜉蝣』。


 急ぎ魔法を構築、蜉蝣を飛ばし魔力を全部食わせる。身体に影響はないし、魔力さえ喰えれば無力化できる。蜉蝣を放つと同時に地面をける。低く構え、不意をつきたいところ。


 黒く小さな粒は無限に湧く。迫りくる小さな暴食の集団に敵の少年にもの多じることなく、その異様な獣の手を前にかざす。


「喰うのはべーたの領分だよん☆」


 黒に染まる異様な手が変形する。



 ばきりばきり、ごきぐぉごき、ぐしゃりごしゃり。



 肘から歪んだかと思えば骨の軋む不快な音が鳴る。そして、段々とそれは形を変え、大きな口となる。獰猛な刃が牙に、その小さな体躯に合わぬ大きな手の口。


 蜉蝣をすべて飲み込んだ。舌を出してベロリと、唾液を撒き散らしまだ足りないと言っているように見える。不気味だし正直気味が悪い。それと同時に察した。この口に自分は殺されたのだと。口に変形する前の異様な漆黒の爪は最後に見たものと同じだった。


「あ……………」


 突っ込んでしまった僕は案の定、敵の口の餌食になると覚悟した。スピードを重視しすぎていきなりは止まれない。迫りくる死に危機感もなく、ただ死ぬんだとぼうっとしていた。そんな時ーーーーーー


『主よ、上じゃ!』


ファトの大声が意識を覚醒させた。僕は瞬時に翼を広げ上へと羽ばたく。今回ばかりは羽を多少収縮して出す余裕もなく、僕の体躯に合わない4つの白翼を恥の外聞もなく晒してしまうわけだが。教室からの死角に僕と敵は退治していたので大丈夫である。


 敵は上へと飛んだ衝撃の暴風に飛ばされ受け身をとっていた。器用なものだ。よろけながら立ち上がった敵は変わらぬどこか力ない。だが、興味が湧いたのか目を嬉々として話しかけてきた。


「………べーた、強い人好きだよん。お名前を教えてほしいんだよん☆」


 態度一変した敵に戸惑いを隠せない僕は一旦翼を収め地上につく。


「んー、あっ!そういえば、人の名を聞くときは自分の名前を先に言うってベーた知ってるんだよん☆」


 人じゃないけどね☆、と付け加える。しかもピースをして。☆とか文面についてながら、ピースに対して声は淡々としている。カシエルとは違い本当に感情がないというか、ロボットみたいだ。言動すべてが噛み合っていない。矛盾だらけの人外。


「ベーたはね、β=ファング!ファングって呼んで欲しいんだよん♪ベーたのベーたはますたーだけのものだもん☆」


 また、ますたーか。サリエルと同じと捉えてよいのだろうか。ってかこれは僕も名乗らなきゃいけないのか?答えても迂闊だし、答えなくともいきなり殺されましたーなんて落ちは嫌だ。


 二度も殺されるなんて簡便だ。


「えーと、僕はラグエル=フルだ」


「ふぅん、ラグエル……ラグエル=フル。なら、くい兄って呼ぶんだよん☆」


 どっから来てんだろと突っ込みたかったが、確信がついた。ますたーはサリエルのいうますたーで間違いなさそう。それにしてもクイというのは、以前思い出した僕の(推定)被験体番号だったはず。それに、兄って…………僕よりあとの被験体番号だから?


『おい、考えてる暇はないのじゃ。気をつけろ、和紙が精神を探ってみたが入れなかったのじゃ。あれは主よりやばい部類のやつじゃ』


 それってどうゆうーーーーーー思案し俯いていると、僕の頬を何かがかすった。


「……………」


「余所見、だめ、だよん☆ベーたとあーそぼ?」


笑ってない、上目遣いで僕を見上げる。いつの間に、近づかれた?それに頬をかすめたのは………牙。大きな口からもとの姿に戻っていた。

 本当に言動全てが…………読めない。


「……………君にっ、……ファングにかまけている暇はないんだ」


 君というとファングが睨む。睨むと言っても深く見つめるだけ。ただそう呼べば嫌な予感がしたのだ。ファングとどうにか言い直し、この場を切り抜ける方法を考える。


「ほら、さっきの放送聞いただろ?僕らは避難しなちゃいけないんだ」


 目を合わせ、我儘な子供をあやすように優しく。冷や汗をぴとりとたらす。ファングは寸分狂わずの真顔。何やら考え、そして3歩リズミカルに前へとにはねた。僕の背後に立ちくるりと振り返る。僕も釣られて、背後を向くとーーーーーーその状況に唖然とした。


ファングの後ろの教室内、レミエルとザドキエルがいる。そして二人が血相変えて、壁を睨んでいるのだ。そういえば、さっきファトが魔法をかけたんだって言ってたよな?ああ、猛烈に嫌な予感がする。本当に最悪な事態になる気がする。


「ならべーたは人質とるんだよん。くい兄の宝物、食べちゃうよ?」


 悪寒がしてすぐ様ファトへと繋ぐ。


ファと……『分かっとるのじゃ!主は集中せいっ!』


呼称したがその時にはもうファトはもう教室内にいた。頼もしい。すぐに感覚共有するべく、片目を思いっきり閉じてみる。


「…………………………なにしたんだ、ファング?」


ファトのし覚悟しに見えるその光景はーーーーーー

「奪食『鯨豪』ーーーーーーだよん☆べーたの口をばらばらにしてギュッでして大きくして、じんわりじんわり飲み込むんだよん☆」


 知能定数の低い説明をどうも。でもファングの魔法は食べる飲み込むことに特化していると考えていいんだろう。それで僕は今、時間制限付きに人質を取られ遊びに誘われているわけだ。断れば、すぐに二人を殺すことも可能なのかもしれない。断ることはできなくなった。


「厄介なことになったよ、本当に。ファト、力を貸せ」


『勿論じゃ、主人よ』

 溜息混じりだが、覚悟を決めるしかない。敵は未知数、実力も不明。


「やる気満々?べーたといーっぱいあそぶんだよん☆」


 さあどう攻略しようか?


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