異変
当たれば致命傷。下手すれば即死である。それでも容赦なくメタトロンは光線を無数に発射。
(………………どうせ避けられる。錯乱させるだけ)
光線は槍のごとくザドキエルの両肘と両膝につきささろうとするが、スレスレで躱す。体を捻らせ、髪の毛に少しかすれるも無傷だ。そんなザドキエルに追撃を喰らわせようと、接近して拳を鳩尾に喰らわせようとするもそれも避けられる。
まぐれかと思ったけど、あの虚無な目を見せてから格段と動きが違ったように見える。
『未来視』とは別の何かを使ったのだろう。未来を読みながら、相手を観察しながら……………でも、これじゃあ勝利は決まったか。
「決まったわね。嫌だけど、ザドキエルの勝利だわ」
「いいや、違う」
「どうゆうことよ、ラグエル。残り時間も少ないし、このまま粘ればザドキエルの勝ちじゃないの」
残り時間は一分。確かに粘れば勝てる。けど、レミエルもこの場にいる僕だけがわかる。
「『未来視』とその何かには必ずリスクがあるんだ。例えば、時間とか」
「ても『未来視』は体力を削られだけで問題はないって言ったわよ」
「もうひとつの何かを忘れてるぞ。『未来視』と何かは同時に代償を払ってるはずだぞ。だからすごく燃費が悪い」
だから今まで隠してたやらしてたんだろ、とつけ加えておく。『未来視』はただでさえ情報処理が大変なのだ。それを補助するのが、その何かなのだろうと僕は思っている。
よし、これで恩は売っといたぞザドキエル。レミエルに負けた理由を聞かれて半殺しにされなくてよかったな(力を隠してたことも含めてだ)。
レミエルなら負けたザドキエルを攻めたてる。けどこのことを聞けばちょっとはましになるはずだぞー。
お詫びと言っては、質問に答えてもらうことにしよう。
「あと十秒っす!」
ザドキエルの勝利かと思えば、異変が起きた。メタトロンは右手を振り上げる。無数の水晶が中から消えて、直径2メートルほどの水晶となって現れたのだ。
「マジかよ……………」
巨大な光の光線ーーーーーーーー光砲がザドキエルに向かって放たれる。結界内は光に包まれ、眩しく輝く。思わず目をつぶり、光の消えた結界内を恐る恐る見る。
そこにはザドキエルが地に伏せ、気絶していた。威風堂々とメタトロンはザドキエルの前に立っていた。
「勝者、メタっちっす!!!」
ザドキエルはガブリエルさんに担がれて僕達の元へ。しばらくは起きなさそうだ。メタトロンの方は無言でフィールドから出て、チャラ男の隣へと行っていた。
「奥の手残してたみたいだったな」
「そうね。しかも、この馬鹿は避けられない魔弾ならうち消せばいいものの魔力が足りなかったみたいだしね」
「馬鹿は言い過ぎだ………ろ………」
僕は服の上から心臓の上をちぎれんとばかりにぎゅっと握り、唇を噛む。嫌な予感がしたのだ。
「どうしたの?」
レミエルはキョトンとして首を傾げて聞いてくる。心配かけないように、追いかけられないようにここから離れようと策を練る。
「………ちょっと、レミエルの出番まで外出てくる。追いかけてこなくていいから、絶対レミエルの試合は見るから、じゃあ」
「え?ちょっ……………消えちゃった」
僕は陰影魔法を即座に使って、試合会場の外へとバレないように小走りででた。その時、レミエルは少し悲しげな顔をして何かを呟いていたのを僕は知る由もなかった。
「…………………馬鹿」
外へ出るなり、魔法を解除してその場に踞る。
いつからか知らないけど、僕の中で異変が起きていいるのだ。魔力が脹れあがったり、誰かも知らない記憶が流れ込んできたり、今は顔さえ忘れた両親と『エノク』という人物の幻影幻聴が見えたり。
その幻影幻聴は、今でも見えている。蹲る僕を興味津々に『エノク』が
『面白い、君は成功するかもしれない』
と体のありとあらゆるところを弄るのだ。臓器を脳を手足を爪を、心臓を。
『お前は我が家の誇りだ!』『はやく戦争が来ないかしら!』
両親は嬉嬉として、僕を見つめる。
僕の両親はそんなんじゃなかった。落ちこぼれな僕を見下して、追い出したんだ!これは嘘だ、夢だ。
だって、こんな呪われた子に向ける声は嬉々じゃない、好奇心でみちるわけがかい。
罵ってくれた方がましだ。
これ以上、僕を苦しくさせないで。
胸騒ぎがするんだ。じわじわと迫り来る何かに脅えて、閉じて封じた蓋が開けられてしまうような。
こんな状況を嬉しく思う僕がいることが。
とてつもなく恐ろしい。小さい嗚咽をこぼして、誰にも届かない叫びを心の中でし続けた。
青く澄んだこの空の下で。