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君と僕の捕縛世界  作者: 宝来來
試練編
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独りよがり

 「プルゥドよ、って!?…………なにもそんなに驚かなくてもよくてよ?」


「……………ぷいっ」


 気配を殺し、声をかけるなりサリエルは体を大きく跳ね上げて猫みたいにこちらを鋭く睨む。屋根の上にいるため、見下されているが気にするまい。相手はまだ子供同然なのだから。

 坊やのように物静かよりはまだこちらのほうが愛らしい。思ったことを感じたことを全部ぶつけて吐き出せて、分かりやすいほうが断然、苦労はしない。昔に思いを老け、改めてサリエルと向き合う。


「…………妾のプルゥドへの気持ちの配慮が足りなかったわ。親愛なる友人に変わり謝罪しましょう」


「………………」


「プルゥドは優しき心を持っておるわ。その心が傷つくのも仕方がない、親愛なる友人はそうゆう人だと割り切ってほしいのよ」


「…………ますたーやせんせーがわるいわけじゃない」


「なら、なにをそうして拗ねておる」


 呆れながら扇で口元を隠す。特に意味はないが、癖である。すると、サリエルは警戒しこわばっていた体から力を抜かせ、屋根から降りてきた。そしてジョフィエルのお腹あたりのドレスの布地を握り唇をかみ、言葉を振り絞る。


「………………………………すてられたくない」


 ジョフィエルは口を出さない。ただ見守り待つ。サリエルの言葉をちゃんと聞くために。


「みんなよりも、もっともっと、ますたーのためにうまくやりたい。だからあのときまけたらいけなかった。まけたらとられる、あきられる。そんなのはいやだ。いちばんがいい」


 サリエルは次第に声は震え大きく、感情を抑えきれなくなる。普段澄まして、感情をはっきりと示す。上がり下がりの区切りがある。単純で、思考が偏りがちだ。だから今までのストレス、不満が溜まった結果がこのざまである。己の弱さを蔑み、恐怖を抱く。自分に自信がなくなる。


 ジョフィエルはそのきっかけを作った出来事を思い出す。

 ラグエルとの約束を拒絶され、エノクと会話をした。その際、サリエルが口論?の末にどこかへいってしまった。話が終わり、エノクとともに追うことになるーーーーーーが、サリエルはすぐに見つかった。


 てっきり、第五研究室へといったのかと思っていたらその途中の部屋、第二研究室で棒立ちしていたのだ。エノクが被験体の研究をする部屋である。ちなみに、先程までいた駆動音が騒がしいコードだらけの部屋はまた別の研究をする第一研究室である。まあ、どちらの研究も禁忌魔法に属するものであることは確かなのだ。


 そんな第二研究室、ガラス越しにサリエルが見つめるのは桃色の長髪をした愛らしい少女ーーーーーーだが、台の上に裸に寝かされ手足首腰を鎖で固定されていた。唯一外されている右手はきれいに切断されており、鮮やかな断面が見えた。止血のためか焼かれた跡がある。


 台のそばにはメスと血液袋、刃の欠けたナイフがあった。痙攣している桃髪の少女の酒庵色の瞳がこちらへとむく。サリエルに向けてか、その背後のエノクにむけてか疲れた、けど満足した笑みを浮かべた。


「あ、ああ…………あぁ、あ……」


 部屋の隅っこには空色の片目を隠した少年が体操座りをしていた。少年も類して裸で、体中に縫合跡があり、痛々しい見た目だ。

 しかし、空髪の少年には恐怖心といったものが見受けられず、虚無というわけではないみたいだ。ただ、心地の良さそうに眠っているだけだった。


「…………………ますたー」


「なんだい、サリエル」


 沈黙していたサリエルが淡々とした声で背後のエノクに聞く。


「………なに、してたの?」


「何ってなんのことだい?前にも説明したじゃなかいか。ここ、第二研究室は新兵器を製造してるってね。この子たちは協力してくれてるんだ」


「……いたそう、だね」


「痛くて辛いに決まってるよ。が、私が愛してやまないこの子達ならば耐えられる。なにより、せまる大戦に新兵器をもったこの子達ならば必ず役に立つさ。その為に痛みは伴うものだよ。強さには代償がいるのだからね」


 サリエルに、この光景を見せるべきではなかったかもしれない。そうジョフィエルは思う。


 痛みに耐えて力を得る、愛する師の為に我が身を犠牲にする天使の子供ーーーーーー勿論、サリエルも同類だ。そこに恐怖も心配もない。だが、サリエルが思うのは他のことなのだ。ただでさえやばいのが重症化してしまう。


 自己犠牲は許せる。

 けど他人が傷つくのは許せない。


 これは善意からじゃない。ただ、ますたーのために傷つき尽くせるのは自分だけがいいと思ってるからだ。ただでさえ、クイ(ラグエル=フル)がますたーの中で一番なのに、他にラグエルやサリエル以外の成功例が出たならば……………自分以上に愛が向いてしまうのかもしれない、と。独占欲が強いのだ、サリエルは。


 一番に愛されたい、愛され続けたい。

 飽きられたくない、盗られたくない。

 大好きで大好きでたまらなくて、理解されなくてもいい。


 そうゆう自己中心的な愛のカタチ。サリエルの生まれゆえに生まれたものだ。全く持ってジョフィエルには理解し難い。


「……………………ぼくはなにをすればいい、ますたー」


 サリエルは捨てられない、飽きられたくない努力を問う。あの強く歪んだ深紅の瞳をエノクに向けて。エノクはにやりと広角をあげた。ああまた、エノクの予想通りの展開か。


「ーーーーーーならば、一番厄介な相手をしてもらおうかな」


「やっかい………?」


「そうさ。君の先生、ガブリエル=シルヴェさ。まあ、ああゆう偽善者ヅラしたバケモノに邪魔されては困るからね」


「バケモノ、ねぇ…………」


 嘆息するジョフィエル。呆れるというかいっそ清々しいというか。自ら、バケモノを作り出しているというのに。


「ん、どうかしたのかいジョフィエル君」


「なんでもないわ」


 でも、ジョフィエルにはエノクを止められない。満たされぬ探究心と好奇心、子供心を忘れない、欲求不満な狂気研究者は。どんなに長い付き合いでも理解はできないし、理解することを諦めた。


 が、唯一の抑止力となる可能性の人物もいる。可能性は可能性でかなり低いのだが。まあ私には知ったことはない、けれども『坊や』だけは心配である。平穏から、困難な試練というか理不尽に当てられて………。

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