魔法の相性
レミエル、ザドキエルに応援され的の前へと移動する。
さて、どう出るべきか…………選択肢としては二つある。一つは陰影魔法で自らの姿を消し、的に近づき武器及び魔法にて破壊。もう一つは魔法そのものを陰影魔法で隠して、的の破壊。
アピールするには後者が有効だけれども、生憎家系魔法以外の魔法はあまり得意では無いのだ。速さも威力も平均並み、下手したらそれ以下であるのだ。辛うじて、月光魔法が中の上といったところだ。
「どうしたっすか?早くしてくださいっす」
「…………………」
悩んでる暇はないか。一か八かだ。成功率は低いし、評価するのも難しくても、そこはガブリエルさんを信じるしかないか。覚悟を決め深呼吸。心臓の鼓動を収まらせて、目閉じる。
空間がぐにゃりと歪んむ。揺らんだ視界は形を変えて、空間は消失したように見えた。
真っ広いドームの試験会場は真の真っ白な空間と化した。
壁も床も、
全部が全部白。
そこに立っているはずなのに感覚がない。
色虚しく質素で簡易な空間。
愕然とした浮遊感だけがその場の全員に残る。壁や床はある。ただ、見えないだけで。
「壊しましたよ、ガブリエルさん」
「分かってるっす。凄いっすね、流石っす。自分、フルの陰影魔法は初めて見たっすから感服したっす……………」
「光栄の至りですよ」
僕はそうして、二人の元へと帰る。他の選別者の視線は気にせず、ただ進む。けど一つ問題。戻るなり、二人には質問攻めである。ザドキエルは興味津々に、レミエルは血相変えて。レミエルの方は背伸びし柄胸ぐらを捕まれ、グラグラと揺らす。
「今のって、何が起こったのよ!!教えなさい、ラグエル!」
「おいおいすげーな!どうやったんだ?」
鬼気迫る二人にわかりやすく説明する。
「…………………このドーム自体に陰影魔法をかけたんだよ。それで、打った魔法にも陰影かけて的を狙っただけだ」
実際、数十秒ほどかかってしまった。大規模で広範囲な魔法と同時に繊細なコントロールをしつつの二重魔法。試したことはあったけど、広範囲では初めてだった。しかも、自分でも成功率は低いと思っていた。
「成功率は一割だったのにな………」
「おお!なら運が良かったんだな、ラグ」
背中を加減なしにガンガンと叩いてくるザドキエルを睨む。けど、運が良かっただけなのだろうか。実際、平然を装っているけど内心はすごく驚いている。
魔力量が足りたのも、技量が足りたのも不思議だ。ただ魔法を発動している時はなんだか心地が良かった。体が軽くなり、力が溢れ出る感じだ。暴走しそうなくらいに、調子が良かった。
なぜ、 違和感だらけだったのに、成功した。
「…………………」
「あ?どした、ラグ?魔力使いすぎたか?」
急に大人しくなり、表情を曇らせる僕にザドキエルとレミエルは心配そうな顔を見せる。僕の表情は細部まで見ないと区別は難しい。慌てて気持ちを落ち着かせてどうにか誤魔化す。
「ん、ええーっと……うん、大丈夫。それより次は実技ですよね、ガブリエルさん」
二人の圧に耐えかねて、ガブリエルさんはへと助けを求めて視線を移せば、なんと寝ていた。立ったまま。
「…………………………」
「あの、ガブリエルさん?」
「ん………あ……………あっ、あれ?ご飯………試験中だったっす!?」
これ、誤魔化す気ないな。ていうかよく寝れたな、あの間で。
みんなからジト目で見られてガブリエルさんは大慌て。あわあわと焦ってしまい、帽子を落としてしまう。
「ごめんなさいっす!さっ、早速実技へと映るっすね!」
冷や汗を垂らしながら、ガブリエルさんは言った。なんだか動きがぎこちない。『権天使』としての威厳は無さそうだな…………どちらかと言うと、階級所持者がみんなこうだったら接しやすいのも接しやすいんだけど……………曲者ばっかだろうな。
続いて隣のコートに移動し、実技試験へと入る。対戦用のコートだ。線引きがされた長方形の枠の中で戦うようで、強力な結界が貼られていた。観戦では結界越しとなるようだった。
「この結界もウリエル様ですの?」
「そうっすよ、レミっち」
先程からレミエルは結界を気にしているようだった。試験会場に入る前でもそうだった。魔法特訓のためか、ウリエルさんに関係があるのか。踏み入るべきか少し迷う。
「その結界がどうかしたのか?」
だか、ザドキエルはたまらわず聞く。こいつのこうゆう所は長所であり短所でもあるので、この場合は長所であってほしい。レミエルは表情をくもらせず怒ることも無く、平坦な口調で言った。素直に感心するように。
「流石だわ………………魔力が年密に込められてるの。一見、目が荒そうな結界だけどよく見るとすごく丈夫。魔力が糸みたいに何重にも縫われてるの」
結界に触れながら、レミエルは言葉を繋ぐ。普段から毒を吐くことが多いが、それはザドキエルにだけ。レミエルは尊敬なら感嘆、好意なら愛を、嫌悪なら罵倒をと物事がはっきりしている。ウリエルかんが作った結界から学んでいるのだろう。レミエルの家名は金星を司るハギト家に当たる。すなわち光。
「私は雷電魔法を磨いてきたわ。回復とかそうゆうのは向いてなかったからよ。けど、結界魔法はハギトと相性がいいのよ」
「覚えればいいんじゃね?」
気軽に言うザドキエルに呆れるレミエル。
「だから私は攻撃特化だから。防御とか補助には向いてないのよ」
「諦めんのかよ、お前らしくねーな」
「だってできないことを努力するより、できることを磨いた方がいいでしょう?」
「でも」
「口出ししないでよ、部外者。私は私のやり方を貫くわ」
「………ちっ、わかったよ」
珍しいなと思った。二人は元々意見がぶつかりやすいけど、レミエルはここまでかたくなでは無い。彼女はプライドが高いが努力家だ。今まで、結界魔法にはチャレンジしたようでたぶん、数え切れないほどの失敗を重ねたのだろう。
一つ一つは小さな失敗。けど、その失敗が重ねれば重なるほど自信を失っていくものなのだ。
だから、手遅れになる前に別の手法をとったのだろうレミエルは。
僕から見て彼女らしい、賢明な判断。でも、ここはひとつアドバイスをしておいた方が良さそうだ。この小さな喧嘩を止めるためにも。
「レミエル」
「なによ、ラグエル」
不機嫌そうなレミエル。やはり気に触ったのだろうか?まあそこは気にする事はない。大事なのは……
「向いてないことを諦めるのは一つの策だとは思う」
「ラグもレミの方に着くのかよ」
「黙ってろよ、ザドキエル」
他言無用。僕はレミエルを真っ直ぐに見て真摯に伝える。
「けど、やれないことをどうやろうとするかが大事なんだ。レミエルには何が出来る?レミエルは何を持ち、何を力としてきた?」
「私は………」
「その力を使ってできることはあるのか、考えてみなよ」
丁度、実技試験のガブリエルさんの説明が終わった。ガブリエルさんは僕ら三人を見て「聞いてたっすか?」と疑いの眼差しを向けてきたので「聞いてた」と返しておいた。
「実技は二人組の対人戦だって」
「おお。俺は誰とだ、ラグ?」
各々にガブリエルさんは紙を配る。そこには二人組のペアが書いてあった。
【第一戦】メタトロンVSザドキエル
【第二戦】カシエルVSジョフィエル
【第三戦】カマエルVSアズラエル
【第四戦】レミエルVSサンダルフォン
【第五戦】ツァフィエルSチャミュエル
【第六戦】トゥビエルVSアンダレル
【第七戦】スプグリグエルVSカラカサ
【第八戦】トルクアレトVSアンバエル
【第九戦】ラグエルVSサリエル
【第十戦】アタリブVSタルクアム
「メタトロン=ワイト…………異様な感じがしてたやつだな。絶対強いから気をつけろよ」
「しかも初戦からなんて………ふふふっ、運悪いのねアンタ」
ザドキエルは僕とレミエルの激励?をうけながら、長方形の枠うちに。そういえばザドキエルはあれからどれほど強くなったのだろうか。見ものだ。
「ではでは自分が審判になるっす。簡単なルール説明をするっす!」
ガブリエルさんが定めたルールは以下三つ。
一つ、制限時間は10分。
二つ、勝ち条件は相手が戦闘不能の状態になるか、場外アウト。尚、参ったと云わせても勝ち。
三つ、魔法剣技自由に使っても良い
補足として、制限時間がすぎても決着がつかない場合は最もダメージの少なかったものが勝利となる。
限られた時間と己の力を効率よく使わなければならない。相手が強者であればあるほどだ。
制限をすぎる前に魔力体力切れになってしまえば元も子もないし、全力を出し切れなければ勿体ない。かと言って、膠着状態になれば体力温存、防御に徹しなければならない。面倒だな………。
が、対人戦は難しくて、面白いなどと思っているのがザドキエルなのだが。ザドキエルは人形少女に嬉嬉として話しかけていた。気楽だなぁ………。
「俺はザドキエル=べトールだぜ。お前は、メタトロン=ワイトだったな。どこの分家だ?」
「………………オク」
人形少女こと、メタトロンはそう答えた。相変わらず、表情は見えないが、面倒くさげに答える。
オクの分家……………太陽を司るオク家は月を司るフルとは真逆。言わば天敵。オクのことはよく両親に叩き込まれている。オクの分家は熱とかそうゆう魔法なはず。
「おっ、ならラグとは真反対だな!」
大声で僕の名前を叫ばれる。やめろ。匿名しろ。
「………………」
が、メタトロンはそんなザドキエルを無視。ガブリエルさんは二人を見返して、試合開始の合図をかけた。手を天へと掲げ、勢いよく手を振り下ろす。
「では、スタートっす!」
手が振り下ろされると同時に、メタトロンはザドキエルへと急接近。メタトロンは近距離戦も得意なようで手馴れた様子で迷わず顎を狙い、拳を入れようとする。ザドキエルはそれを難なく避ける。予想出来ていた、と言った感じでこの余裕っぷり。観戦する僕とレミエルにてをふるくらいに。
人形少女さん、こいつをぶちのめしてください。
「アイツ、余裕ぶってるわね」
「羨ましいよ。ザドキエルの能力はある意味卑怯だからね」
メタトロンは続けに、技を織り成す。
脳を狙おうとしたかと思うとフェイント。足を蹴り、転けかそうと思ったようだがジャンプしてザドキエルは回避。瞬間瞬間の駆け引きが年密に行われていた。
武術ばかりの戦闘の拳は風を切って、そのスピード感に圧倒される。僕は目で追うのが精一杯だ。肉体強化魔法を使っているのだろうか?
(さて、と。こいつまだ魔法使ってない見てぇなんだよな………………近接で攻めてくるが、遠距離では無い。でも、距離取ればあの光線みてぇなやつが来るんだろ。あれは勘弁だ)
「あんなもん予測できても避けれねぇよ、とか思ってんだろうね、ザドキエルは」
ザドキエルは『未来視』をもっている。
二秒先の未来が見えるのだ。たった二秒、されど二秒。その二秒の未来がザドキエルの強さの根本なのだ。『未来視』はザドキエルは生まれ持ってのもの。あの頃は一秒以下の未来しか見れなかったが、一秒も伸びたのか。
「ザドキエルは見えてても、知ってても、良けれない時もあるわよね。あれはどうしてなの?」
「未来が見えて、対処しようとするだろ?その対処しようとする動きが相手によっては弱点になりうるんだよ」
「……………………ああ、そう言うことなの」
少し考えてレミエルは真剣な表情で言った。
「相手が近接に特化していて、相手が良く見えていたら。その対処しようとする動きを対処されてしまうのよね」
今のところはザドキエル優勢。防戦ばかりだか、制限時間まで粘ればザドキエルの勝利となるだろう。その油断さえ崩さなければ、確実だ。
そして、五分ほど均衡状態続き変化が訪れた。武術ばかりのメタトロンが本領を発揮したのだ。
拳の連打は終わり、距離を置かれたかと思うとメタトロンの背後にあの水晶が現れる。が、それだけではなかった。嫌な予感がしてザドキエルは周りを見渡す。結界内には無数の水晶が浮遊していた。
「面白いぜ!そうでなくっちゃな」
負けじとザドキエルは深呼吸し、目をゆっくりと閉じて、開ける。その目には色彩が失われて、虚無がつのるばかり。メタトロンは少し不思議そうにするもきにせず、水晶から光線を反射させる。無数の水晶に反射し、スピードは上がるばかり。同時に温度も上がっているようだった。