瞬間の思い
「ん………」
ぼやけた視界とあやふやな意識、かすかな吐息。帰宅後カーテンを締めてなかったからなのか朝日が差し込み、えらく明るくなっていた。
だから起きてしまったのか。
朝で回らぬ思考をかんたんに体操させて、ベットから体を起こした。ファトの手は繋がれたままで心地よさそうに寝るファトには申し訳ないがそっと離した。今何時くらいだろうと机の上にある水晶を見る。水晶は黄色に輝いていた、まだ明け方のようだ。
「……………だる、ご飯は……いっか」
まだ拭いきれぬ疲労と混沌とした記憶の整理に追いつかず、正直二度寝したい気分である。
僕は別にサボり症なわけではないけれども今日に限って言えばズル休みをしたいのだが…………それは無理そうだった。なぜなら、僕の目線の玄関扉の前にはザドキエルとレミエルがいるのだ。待ち伏せされてるし、二人揃って僕から来るまで動く気はなさそうであった。
明け方といったが学園への登校時間も間近であったので、こちらに入ってくることも予想した。僕的にまそれはまずい。なぜなら、いくらファトの姿が見えなくてもファトが使ったものとかは見えるのだ。ファトがベットで寝ていたことはすなわち、僕が誰かと寝ていた(健全である)風に見えるのでファトを急ぎ起こすこととした。
「………ファト、ファト。起きろよ、ファト」
体を揺さぶるも小さく唸るばかり。
「はやく、学園行く時間だ。朝だ」
無反応。
「…………出現『痛幸』」
詠唱無しで僕とファトとの感覚を共有させて、僕が自分自身のほっぺを思いっきりつねった。もちろん僕も痛かったけど、ファトも同様。
「……むにゃ、……!?痛っいのじゃ!なっ、何をするのかの、主よ!!」
ほっぺを片手で抑え、一気に瞳孔を開き攻め立てるファト。僕はその予想以上の反応に驚いた。思わず一歩後退ってしまった。
「起こしただけだけど」
「はぁ!?この和紙の眠りを妨げおるとは良い覚悟じゃな!人の心地の良い睡眠を、快楽を!邪魔するとは悪魔じゃな!ぬしよ!」
びしっと指を指し続け攻め立てるファトは寝起きが悪そうには見えない(原因は僕だけども)。僕は冷静に答える。というか急いでほしかったので会話を切って早々に準備に取り掛かりたい。
「お前が悪魔だろ」
「む、そうだったのじゃ」
大丈夫か、こいつ?ま、ファトも起きたことだし支度に取り掛かろうか。こうして僕がファトから視界をそらした途端、聞き馴染みのある声が聞こえた。
「ラグー!もう出ねぇと遅れるぞ!!!」
「早くしなさいラグエル!私を待たせるじゃないわよ!」
「わかったー!」
その大声に張り合って返すと二人が満足げにしてるのを感じた。さて、経典は燃やしてしまったけれどレミエル逃してもらうことにしよっと。着替えたしそろそろ出る、か………………
「って、ファト……………」
ベットに座っていたファトがあの一瞬で目をつぶり吐息を立てていた。僕は呆れ、仕方なくもう一度無言でさっき同様の作業を繰り返し、同じような会話をし、眠気眼なファトをつれ、レミエルとザドキエルと共に学園に向かった。
「なあ、ファト」
「ふむ、なんじゃ?」
「今日って何日じゃ?」
「口調を真似するでない。ていう交わしは時に無頓着じゃから明確には言えぬぞー」
「いいからー」
「む……千年くらいかの?」
「嘘つくんじゃない。〘神魔の盟約〙過ぎてんじゃないか………僕にだってそのくらいわかる」
「むむむむ…………確か、一ヶ月かの?」
「もうそんなに経ったのか……あっというまだったな」
「そうじゃなぁ」
なんて呑気な会話を繰り返すのは僕とファトである。寮の自室に二人揃って寝転がり仰向けに。ファトの藍鉄色の長髪が花に当たり少しくすぐったい。僕は鼻を鳴らして、体をゆっくりと起こした。
そうかぁ、もう一ヶ月か…………。
哀愁にひたり、また仰向けになって目を瞑る。そしてこの一ヶ月を思い返す。
「………………ファトの言うとおりだったよ。入学初日が色々ありすぎて疲れて長く感じただけで、そうやって過ごしていく内に自然と、慣れていったんだね」
「古来より息とし生けるものは環境に適応し続けているのじゃからな。変わらないなぞ、生きることを諦めてるも当然じゃ。まあ、不変が悪いこととは言わんがの。誰しも変わらなければならぬ時が絶対にあるはずじゃからな」
ファトとの暮らしも会話も慣れてしまったからね。それもそうかも知らないけど…………………僕は不変がいいよ。そっと思いを馳せておく。ファトも追求はしない。僕の心情を理解しているからだろうか、単純に興味がないのか。どっちでもいいが。
「主は…………今の暮らしをどう思うのじゃ?」
「………特に、平和だし普通だし。うん、楽しいよ」
まあそんな感じの会話を数時間交わし、眠りについた。これがファトとの日課となっていた。




