魔法試験
筆記試験。
いわばテストとしてテンプレートなもの。内容としてはあまり難しくはなかった。羽根ペンを握り、スラスラと迷いなく書き進めていく。両親に叩き込まれた知識を引き出して。
神と魔王が〘神魔の盟約〙を結んで、約1800年の年が流れた。
残り少ない年月に、神―――――――――最上位天使熾天使は天使育成機関〘グリゴリ〙により一層力を入れるようになった。試験の実技の方を主に厳しく見るようになり、合格してからの訓練や卒業課題も年々挙がっているみたいだった。
所詮世の中すべて強さなのだろうか。
強き者が生き残り、弱き者が去る。まさに弱肉強食だけれども。
けど、たしかに力があれば大体のことは出来る。困っても荒事で解決できるし、弱者より優位に立てる。
が、その強さの形にも色々あるのだ。
地位や権力、意思とか。
そんゆうやふやなものでも貫けられれば強さとなり、自らの糧となるのだ。けど、強いばかりじゃ生きられない。
力がいくら強くても、役に立てる場所がなかったり、知恵があっても学校に行くお金はなかったりする。要は運も必要なのだ。
強いとか弱いとか関係ないのだ、この戦争には。
運が良ければ生き残る、それだけだ。
例えば、運良く名家に生まれて、類まれない才能をもって育てられた人がいるとする。そして弱者を貶し、善者を騙し悪事を働いたとする。そんな人が迎える最後の結末は、金で雇った信頼できない仲間のせいで裏切られて死ぬ。僕はそうゆう人を見てきた。
強さを持って生まれても、運がなければ生き残れない。そうゆう人はただ相手にした不幸が帰ってきただけかもしれないけど。けどこれだけは明確だ。
僕は弱くても、今でも滑稽に生きながられえてる。
なんともまあ、
「無様だよな……………」
自虐論。精神論。終わり。ようは人間(天使だけど)運なのだ。
僕は家族には恵まれなかったけど、信頼出来る仲間にも恵まれた。唯一の不運といえば、家族は僕を所詮便利な道具だと思っていたことだ。
僕が何しようと構わないし、無視をする。道端の小石みたいなちっぽけな存在の癖に、そっちが困れば僕に頼る。弱く滑稽な家族に飽き飽きするばかりだ。けれども家族が居なければ僕は生き長らえていない。
そんなこんなでネガティブになっている所、ガブリエルと目が合った。ガブリエルはウィンクで返して、それをガン無視する。
そしてとある問題にめがつく。
―――問、白天楼はどのような特性を持っているでしょう?』
勿論答えは、不純なものが混ざれば枯れ、純粋であれば真っ白な花を咲かせる、だ。悪魔侵入防止のために埋められていることが多くて、【天界】ではよく見られる。
でも、不純なものの定義がよく分からない。科学的にも、不純なものと言えば悪魔となるのだが、この場合僕はどうなるのだろう。
僕は混じりものだから。
そんなことを考えている間にも筆記試験は終わりを告げた。ガブリエルのハイなテンションによって。
「はいはーい。お疲れ様っす!」
カブリエルが人差し指をクルクルと回せば、選別者の答案用紙が浮き上がり、ガブリエルの元へと集まる。集まった答案用紙をざっくりと見て、納得したような表情だった。筆記はみんな合格かもしれないな。
「うんうん。皆さん、筆記は全員合格ぽいっすね!」
言っちゃうのか…………。
多分ほとんどの人が同じ気持ちだったと思う。左右に座るザドキエル、レミエルも呆れた顔で言っていた。
「言ってやがる、本当はこうゆうのはあとから聞くもんじゃねーのかよ」
「まあ、筆記は確認事項みたいなもんだからね。問題は実技だわ」
その通りだ。実技では魔法や剣技も勿論なこと。その上、一体一の決闘もするかもしれないと今回の試験は騒がれていた。これは〘グレゴリ〙に着く前に<神牢>を訪れた際に噂で耳にした程度のものだけど……。
「それでは実技の試験会場に案内するっすね!」
「それじゃあ早速始めるっす!まずは…………カマっちから!」
「ボク一番乗りだ!行ってくる、カシエル!」
「行ってらっしゃい、お兄ちゃん」
大斧少女が琥珀のサイドテールを揺らし元気よく挙手、小走りでガブリエルの元へ。魔法練習コートで二十メートル先に的がある。的に魔法を当てれば良いのだ。コートの右端にみんなは並び、1人ずつという形になる。
ガブリエルさんは大斧少女より少し離れた隣で紙とペンを持って準備完了と言ったところだ。
「お名前を言ってから始めてくださいっす!」
「カマエル=ファレグ」
カマエルと名乗った大斧少女は堂々と言い放ち、背中にたずさえる斧を構える。低く構えるとともに斧に手をかざす。家紋が浮き上がり、刃先から空気がゆらぎぼやけ始め、やがて炎を纏った。
大ぶりに対して攻撃は静か。刹那、炎は斬撃となり的を焼却していた。その迫力と熱気が遠く離れたここでも感じた。
「さすがファレグ家ね。業火魔法は強力だわ」
「レミこそ、雷電魔法はお得意だろ?」
「そうだけどね………」
レミエルは複雑な顔をする。
「あら?でも、あのカマエルって子ともう一人は双子なんでしょ?」
「多分だけどね」
確信が持てない以上、暫定はできない。けどあんなそっくりで歳も近そうだし。
「もう一人の子も、業火魔法の使い手なのかしら?あんまりイメージ無いわ」
「それは見ればわかるだろ」
ザドキエルの目線の先には、噂の双子の片割れが入れ替わりで的の正面へと移動していた。
「カシエル=ファレグです」
カシエルと名乗った真面目少女は丁寧にいい、窓辺と標準を合わせた手をかざす。
すると、手から青く静かに揺らぐ小さな炎が現れる。その炎から蝶が無限に湧き出て、的へとぶつかり燃え盛る。炎系統でもこちらはまた別の方向性のようだった。
そしてどんどん魔法を披露していく。
ムッキムキなキン肉マンの身体強化魔法の殴打。
知的な眼鏡をかけた委員長の彗龍魔法等など。
その中で特に気になったのが黒フードで顔を隠した男女だった。
「………メタトロン=ワイト」
銀髪の長い髪を持ち、真っ白な肌を持つ人形少女。彼女が手をがざすと背後に無数の水晶が現れた。水晶から光線を描いたかと思えば、一瞬にして的を射抜いていた。光のビームが。
「サンダルフォン=ラック」
金髪のキャラそうな顔をしたチャラ男。彼も人形少女同様に手をかざすと、黒い球体が現れた。そしてブラックホールと化して的を吸い込んだのだった。
幼馴染二人もそれらに影響されてかいつもより格段やる気に取り組んでいた。
「レミエル=ハギトですわ」
お得意の醍醐味。的に向かって銃の形にした手を向ける。そこから光速の雷弾が放たれる。しかも連発。瞬き一回で10発ほど的に当てていた(実は5発ほど外していた)。後にドヤ顔でどうよとザドキエルに挑発していた。
「ザドキエル=べトールだぜ」
レミエルに対抗し、ザドキエルの家系魔法としては戦闘向きではない。の為、ガブリエルさんにこう言っていた。
「俺の家系魔法じゃあ、あまり向かねぇからな。そこの壊れた的を使わせてもらうぜ」
レミエルが穴開けた的へと魔法陣が浮び上がる。複雑で三重に重ねがけで。すると、魔法陣が回転し空いた穴がなくなっていた。むしろ、古びていた的が新しくなっていた。まるで時が戻ったかのように。
「流石だね、ザドキエル」
「あったりめぇだ。期待してるぜ、ラグ」
僕はザドキエルとハイタッチする。
ザドキエルは帰ってくるなり、レミエルに「残念だったなぁ。レミがせっかく開けた穴戻しちまったなぁ?」と返し挑発。またいがみ合っていたけど面倒くさいので放置。
「それじゃあ、最後にラグっちっす!」