人形少女は動じない
さて、僕は迷子だ。
上へと行けばいいだけなのに、だ。階段を探しては上りを繰り返していたらなぜだか行き止まりに。ファトにもすっかり呆れられ、僕の心の中でくつろいでいる。
時間を結構消費した為、近道をすることにした。要は上に行けばいいのだから、空を飛べば問題ない。翼を見せるのは嫌だけれども、授業中なので人もいない。
油断しきって4翼を広げて空を飛んだ。飛行は得意な方でこの大翼は少ない羽ばたきで突風を巻き起こすので速度は申し分ないほどある。5階分の高さを乗り越えるのは一瞬である。
そして屋上につくと……………人形少女がいた。すっかり目線があい、バレたと言っても過言でない。が一応聞いた見た。焦りは隠せなかったけども。
「………………………………………………見た?」
「見てない」
目線をそらされた。僕はすぐさま心の中でファトを呼ぶ。
おい、ファト!起きろ!
『なんじゃそんな大声だしおって……優雅に寝て追ったのに』
この人形少女の記憶を封じろ!今すぐ!
『対価なしでは動けぬな………わしは眠いのじゃ』
なんでもするから!
『………………まじかの?』
はやく!
『任せるのじゃ!このわしの力にとうとう自ら頼ってくれたか!わしの偉大さに、強力さに気がついたか!感謝せよ!』
いいから早く!
『わかったのじゃ!!!!記憶封緘なのじゃ!』
ちなみにこのやり取りは二人の意識で行われた為、二分の一の時間で現実では経っている。
こうしてメタトロンの記憶は封緘されたのだが。
意識を失ってしまったのが盲点である。空いた記憶の穴を上書きしなければと僕は頭を回す。すると、ファトがいつの間にやら出てきて空を見上げていた。
「主人よ、見るのじゃ!」
「……………綺麗、だ」
つられて見る空は視界が蒼に染まった。心地よく吹く風にどこまでも広がる蒼天の空。蒼は蒼でも深かったり鮮やかったり。雲一つない、晴天。思わず見惚れていた。
「この蒼は、ファトの瞳みたいだ」
「なっ!?ななな、何を言うておるっ!?」
ポロッとこぼれた言葉にファトは驚愕してすごく動揺していた。心なしか耳がちょっと赤い気が………
「わしの瞳は濁っておる!!こんな澄んだ蒼ではないのじゃ!」
「自虐すんなよ……出会ったときはそうだったけど、今ではそんなに濁ってないよ。むしろ宝石みたいだと思うんだけど………気のせい、かな?」
「意図がなくそれを言っておるのなら将来お主は天然タラシになるぞ」
そんな会話をしてしまったせいか、僕は人形少女の存在を忘れそうになっていた。これって僕こそ忘れっぽいのか、ただの酷いやつなのか。それが仇となり、壁偽をかけ眠っていた人形少女の姿はいなくなっていた。そしてそれに気づいた時はもう遅かった。
「ところで主よ。あの小娘いなくなっておるぞ?」
「え?」
「主様!うしろじゃ!」
僕の背後におそらくいるのだろう。後ろを振り向くことができなかった。首筋にぞわりとした何か。
僕はすぐさま対応すべく、ファトとの視界共有をする。ファトの目線から見た僕の後ろ。予想通り、僕の首筋に純白に発光する光剣が添えられていた。人形少女ーーーーーーメタトロン=ワイトによって。
「私に、なにをした?」
「何もしてない」
「ここで何をしている?」
「空を見てただけだ」
「一人で喋ってたのは?」
「……………………」
こればかりは弁解の余地もない。僕にしか認識できない悪魔の幼女と話してたんですーとでも言うのか?ただの変人だ。
「一人で喋ってたのは?」
「……………コミュ力ないので練習してました」
苦し紛れの言い訳。が、レミエルとザドキエルに言われてることなので本当でもある。
「女を口説く練習の間違い?」
もしかしてと思ったけど、やはり全て聞かれていたか。ていうかいつから意識かあった?そんなことを思うのこの状況を打破するほうが先だ。
「ち、違う。ただのサボりでもある。飛行訓練苦手なんだ」
「………………………………本当?」
「本当だ」
次こそ目をそらさず睨む人形少女は冷たい感じだ。殺意は感じられないので、脅し程度で済むならと思い力を抜いていた。が、予想外にもあっさりと光剣を解除し離れてくれた。そしてまた、立ったまま壁に背をかける人形少女。
「私も、悪かった。サボり、だし。あなたの気配に気づかなかった。不覚………」
第一印象は人形少女で、頑なで冷たそう。だが少しの会話でわかるように、話がよくわかる聡明な人物。それでもひとつ、気になる点があった。
「あの、同じ黒フードかぶった金髪の………サンダルフォン=ラックは?」
名前が出なくて必死に思い出す。まだ、レミエルとの戦いの記憶がありどうにか思い出せた。
「あいつも一緒に休むって………だから無理やり、いかせた。頑なだったけど…………………なんで?」
「なんで?って……………えと、どうゆうことかな」
「なんで、あの馬鹿と私が一緒にいるって分かったの?」
ああ、そうゆうことか。
「そりゃあ、おそろいのフードしてたらわかるでしょ?」
そう言うと、人形少女は自身のフードを両手で抑え黙る。なんか妙に間が開く子だ。
「……………………………………………………」
「……………………………………………………」
二人の間を風が音を立てて通り抜ける。
「……………………………………………………」
「……………………………………………………」
再び、二人の間を風が音を立てて通り抜ける。
「……………………………………………………」
「………………………………………………?」
あれ?間が開きすぎでは……?しかも微動だにしない。おそるおそる僕は口を開く。
「あの、どうしたの?」
「……………喋るのに、疲れた。寝る」
「そ、そっか………」
もとは無口なだけか。確かに他人と会話してるところを見たことない。ところが気配すらほとんど。意識しなければ、僕でも見失いそうなほどに。
人形少女は同様に壁に背をかけて目を閉じる。寝てるのかなーと思い、一歩近づくと睨まれた。近づくなということか。
どうしようか、ファト。
『そうじゃの……そこの小娘同様にお昼寝してはどうじゃ?時間つぶしには良いじゃろ』
僕は心の中で受講し、人形少女から5メートルほど離れた場所に大の字で転がってみた。蒼く広がる空には雲一つもない。鮮やかに日差しが目を細めさせる。強すぎず、暑すぎずと程度の良い場所、裏庭より香る彼岸花の匂いが花をかすめて、眠気を誘う。屋上は昼寝にとっておきかもしれないな……。
「少し離れてもよいか、主よ?」
いつの間にか具現化したファトが僕の顔を覗き込んでいた。曖昧な意識下で思考が鈍っていたのか、僕は考えなしに頷いてしまった。
「感謝するのじゃ。行ってくるのじゃ!」
そういって、体を浮遊させ下降していった。腰まである灰色の髪をなびかせて。その数秒後に僕も眠りについた。




