共存
「……お主、しばらく見ぬ内にやつれたの。何があったのじゃ?」
「お前が昼過ぎでも来ないからだ…………超身体だるい、吐きそう」
最も、カマエルのせいともいえる。
あれから、食事後、ザドキエルに「いつだ!?いつだ!?」と鬼の形相で責立てられるわ、それに油を注ぐレミエルの「もしかして恋じゃないの?」との発言もザドキエルの激しさを肥やすばかりだった。服の袖を掴まれて体を揺らされた為、服のしわが付き意識も余計にくらくらしていた。
「もうわしが来たからには安心せい。ほれっ、手を出せ」
言われるがまま右手をファトの前に出す。ファトは僕の右手を両手で包み込むようにそっと握り、口づけをした。口づけした肌からは蒼にかすかに発光した。
「…………なにした?」
「仮契約じゃ。仮契約は一日経過すると自動解除されるのでな。こうして魔力を口づけで与えることで仮契約が完了するわけじゃ」
ん?なら僕が気絶した三日間もそうしてたのか?
「そうじゃな。悪戯しても起きぬので唇に一度してみたが、微動だにしなかったぞ?」
「……………災厄だ」
まさかこんな幼女に初キスを奪われるとは……………この悪魔め!
「なんじゃと!この美貌を持つこのわしをに接吻されて嫌なやつなぞおらん!」
ファトはわずかに膨らむ胸を前に強調し、自信満々に言い放った。大声で言ったが、僕以外には聞こえない。もし聞こえたのなら大騒ぎである。
「自分でいうなよ……僕にとってお前は悪魔で、幼女で、ロリな野郎だよ」
「何を言う、お主にとってわしは命の恩人で、最強の相棒じゃぞ?」
「死にぞこなったのはもとはといえばお前のせいだぞ」
「反抗魔法なんぞするほうが悪いのじゃ。それならば苦しまずに開放することができたのじゃぞ?」
「思い出したくなんかなかったよ。いまも反抗魔法使ってるよ……………これ以上思い出したら、僕が僕じゃなくなる気がする」
両親のこと、自身の出自のこと、宝物のこと、『エノク』のこと………………………全部が全部僕を壊し歪めるわけではないが、最近は心が奇怪にざわつくのだ。
いずれくる災厄を知らせるような、全身に染付く恐怖感、閉塞感。僕をじわじわと蝕むのだ。
思い出したくなんてなかった。けど、宝物が「思い出して欲しい」といえば、今すぐにでも無理やり思い出してみせるけれども。あんな顔をされたら………迷ってしまった。
沈黙する僕をファトは淡々と言った。
「……………ただつまらんやつは嫌いで、存在する記憶をなかったように忘れようと無碍にするのは許せないからじゃ。それに記憶とは人生じゃぞ。自分の生きた記憶をなくしてわしらは存在できるのじゃろうか?」
「………………僕たちが死ぬのはきっと、世界中の誰にも存在を認識されないことだよ。少なくとも、僕には宝物がある。ファトには僕がいるようにね」
自然と言葉がスラスラと出た。隣を歩くファトは顔を逸し、何かしら一人で悶絶しているようだった。
「やはり、お主は不思議じゃ。それ素手やっとるののなら危険じゃぞ」
悶絶の果ての答えは興味深そうに僕を見る濁ったファとの蒼の瞳だ。
「どうゆうことだよ……」
不満げに僕が頬を膨らませると、ファトは無邪気に笑った。僕をからかうように。




