久しい邂逅
が、僕は花より男子。ロリよりご馳走である。
魔法で姿を隠蔽しようと思ったら、手を掴まれる。
「逃げようとしてたのでしょう?でも、フルの家系能力の隠密は誰かに触られてると発動出来ないんでしょう?絶対に、逃がさないわ」
二度とね、とロリの言葉は重く響いた。自信満々な声が一瞬、低く重く訴えかけるような震えた声に。相変わらずの態度のギャップに懐かしく思い、観念する。
「…………………………………何の用だレミエル」
僕が名前を呼んでやるとぱっと笑顔が咲く。高貴な笑みでなく、純粋な喜びに満ちた。
「覚えててくれたのね。嬉しいわ」
「さいですか」
このロリこそ、レミエル=ハギト。
ハギト家の次女で僕の幼馴染だ。
幼少期こそよく遊んでいたものの、140年ほど疎遠になり、ここで久しい再会を果たしたのだ。レミエルはあの時から変わらずの、意地っ張りでプライドが高くて、寂しがり屋なレミエルだった。
「あんた140年と2ヶ月どこで何をしてたのよ?」
「……………………………」
一変した態度と心配と怒りの混じった声質。不安にかられたその瞳に見つめられて、思わずそらしてしまう。やましいことが………あるわけではない。だけどそれは言いたくない。矛盾しているとは思う。けど………レミエルの事だ、その辺は調べたであろう。それでも情報は手に入らないが、大雑把な所では知られているだろう。
沈黙を選ぶ僕にレミエルはため息を着く。
「言いたくないってことだわよね?知ってるわよ、そのくらい。お母様やお父様に聞いても教えてくれなかったもの」
少し俯き、でも直ぐに僕を真っ直ぐに見つめてくる。
「いいわ。あんたが言いたくなった時に言ってよ。私はあんたを信用してる。それは140年間ずっと、変わらない」
真っ直ぐに僕を見る視線は、苦しかった。
「そう言えば知ってると思うけど来てるわよ、アイツも」
「知ってる。さっき見たよ」
金髪ウルフカットのヤンキー野郎だ。アイツというのはそいつで間違いないだろう。まあ当の本人は巨大な体躯をもつ筋肉野郎と話していたけど。気づかれてないといいけど………………あ。
僕とレミエルの視線の先。噂をすればと、ヤンキー野郎が現れてしまった。
「ようよう、ラグ!レミ!久しいぶりだな」
僕の幼馴染その2。ザドキエル=べトールである。
ヤンキーみたいな見た目に反して内面は面倒見がよく、周りが良く見えている。幼少期の僕とレミエルの喧嘩(レミエルが一方的)の仲介として役立ち、良い奴だった。
「何年ぶりだ?100年、200年?覚えてねーや。ガッハッハッ!」
自然に肩を組んでくるザドキエル。な、なんかテンション高い。ついていけない。しれーとまた逃げようかと思ったら、レミエルに掴まれている右手とは逆の左をザドキエルに掴まれた。
「逃がさねーよ」
デジャヴを感じつつも、嬉しく思った。幼馴染と長年ぶりの邂逅。一度逃げた身なのに二人はこんな僕をまだ、好いていてくれた。それが何より嬉しい。
けど、それと同時に罪悪感、自己嫌悪、後悔、懺悔。負の感情に溺れてしまう。
あの時逃げて縋った自分への嫌悪、
手を差し伸べてくれた友人からも逃げて。
そして家族の期待に応えられず、
消えてしまった懺悔。
しかし今そんなことを考えてはダメだ。今は再会を喜ぶべきだ。昔の僕ならきっとそうだ。それだけは確かだ。
「俺と」
ザドキエルが。
「私が」
レミエルが。
「僕が」
ラグエルが。
「揃って三人衆!スーパーさいきょー英雄達」
幼き頃に決めたおまじないのような言葉。幼稚で単純、それでいて永遠の絆の合言葉。三人で笑いあった。その場のピリッとした緊張感に合わぬ、小さな微笑と豪快な笑い。懐かしき過去を思い出しながら時を待った。
「レミがおもらしした時あっただろ?あの時は俺とラグが知恵を振り絞って誤魔化したよな!今思いましても………くくっ、笑える」
「あっ、あれは仕方がないじゃない!私だって小さかったんだし……」
確か、僕とザドキエルがなかなか起きないレミエルに水をぶっかけて起こしたと言って、本当に水をぶっかけに行ったのがザドキエル。結局、連鎖的被害でレミエルの部屋も水浸しになり、結果怒られてしまった。
「今でも小さいしな(笑)」
レミエルは怒り、グーパンをみぞおちに入れようしたらザドキエルは軽々と避ける。
「弱い弱い。俺とレミじゃ、体格差がありすぎるぅぎゃぁあぁ!?!?」
「ふふん。けど、私の方が魔法の腕は上よ」
避けられてすぐ、レミエルは雷撃をザドキエルに。そう言えば、こんなやり取りを小さな頃からやってたなぁ。でもあの頃とは威力の火が違う。
結構痛いはず……………巻き込まれなくてよかった。
「この野郎…」
「ふふーん!私ってすごいん……ふぎゃぁ?!」
「油断大敵!」
地面に伏せるザドキエルはレミエルの足を掴んで転けさす。
怒り、油断し、やり返しの二人の賑やかな喧嘩。それを遠目に見守りながら、僕は机に並べられたショートケーキを黙々と食べる。
そしてしばらくして決着が着いたようだった。
「今回は……私の勝ち逃げってことにしてあげるわ。この寛大な、私がね!」
「はっ、負けて逃げただけだろーが」
あー、まだ着いてなかったのか。また一触即発しそうな雰囲気。そろそろ止めるか。
「やめよう、二人とも」
「黙ってなさいゴミ!」
「黙ってろ地味野郎!」
喧嘩になると目先のことしか見えない、口が誰にでも悪くなる、それは承知していたことだが傷つくことは傷つく。
「………………………」
スーッと僕は消える。家系魔法を使い、大講堂の影の端に移動して、体操座りで落ち込む。
二人はその間も口論していたが、僕が居ないことに気づいて大講堂を探し迷っていた。先程まで喧嘩していたふたりが協力して探してくれているのだ。
それでも僕は気づかず、えぐられた心を持ち直すべくネガティブ思考に。
そうか。僕はゴミで地味野郎なんだな…。
分かってたさ。
とっくの昔にそれは実感していたことだったんだよ。
何をするにも不器用で失敗してばっか。
僕はフルの次男という微妙な立場に生まれ、家を継ぐわけでもない。それでも努力しろと言われて、兄を目標として頑張ってきた。この四つの翼に期待を抱く人も多くはいた。
けどそれは初めだけ。僕は人一倍努力しなければ、魔法も剣技もなかなか身につかず無性に努力した。それでも限界はあって、期待していた人達は勝手に離れていった。
いつしか一人に。
でもそれでも。努力は惜しまなかった。もしかしたらと万が一の可能性にかけて。が、全部無駄だった。
「僕なんかが………………できるわけが無いのに」
勝手に期待して、勝手に失望される。だから、僕の両親は禁忌を冒したのだ。
もっと深く、深く潜ろうと、溺れようとしたところで意識を引き戻された。両手の温かさで。
「みつけたわよ!」
「みつけたぜ!」
二人とも焦ったような表情で僕を必死に慰めていた。
「さっきはごめんなさい。ちょっと頭に血が登っちゃって」
「あれは本心じゃない!本当っにすまん!!」
今のメンタル上、言い訳にしか聞こえないし……………疑ってしまう。
けど、ちぐはぐな二人が息を揃えて言うのだ。
「ラグエルはそんな人じゃないから!」
「ラグはそんなやつじゃねぇからな!」
そして、罵倒の次は褒め言葉を必死に言う。こんなさわがしくしてまわりにうっとうしくおもわれてないだろか…………
「いいって。別に…………」
「喧嘩は良くないっす!ラグっち、レミっち、ザドっち」
レミエルとザドキエル、二人の背後より唐突に現れたガブリエルさん。うぎゃぁとか情けない悲鳴を聞いた矢先、体格差のある二人の肩を叩いたガブリエルさんが当の本人を交互に見比べ笑顔で言った。
「小さくて可愛いっすね、レミっち!」
笑顔で地雷を踏んだガブリエルさん。レミエルも立場上、ガブリエルさんのほうが上なため下手に言葉を吐けない。静かな怒りをたぎらせ、引きつった笑みをするのだった。その隣で笑いをこらえるザドキエルもどうかと思うが。
「ともかく仲良くするッスよ、御三方!」
僕とザドキエル、レミエルの手を握手させる。こんな空気でなぁと思ったけど、でもなんだかおかしくって3人揃って笑みを溢した。
それにご満悦したようで、総勢20名の選別者を一瞥するガブリエルさん。増えた二人はあの双子だ。
「さあさあ、メンツは揃ったすよ!長らくお待たせしたっす。始めるっすよ!」
手を叩き両手を広げる。候補生を一瞥し、大きく笑った。
「試験は二つっっす!筆記と実技っすね。まずは筆記!移動するっすから着いてきてくださいっす!」