オリンピアの天使
「!?」
ツインテ少女は硬直する僕に顔を急接近させて、純粋無垢な笑顔をこちらに向ける。急加速する思考は疑問と焦燥感がよぎる。見つけた?僕を探していた?残念ながら、僕の知り合いにこんな少女はいない。誤解を解かなければ。
「人、違いです」
少女から距離を取り、警戒態勢に。フードを深く被り、顔を隠そうとするもにそのフードがない。違和感に気づく。頭に被っていたフードを取られている。ここで僕の容姿が目視される。
白髪に真紅のジト目。一般的に見れば容姿は整っている方だが、僕自身はこの容姿を嫌悪している。そもそも人様に見せられるものではないと勝手に思っているから。
それに僕には四翼の翼がある。
通常なら二翼、上位階級に上がる特典の魔力の増築に伴う進化の際に増える場合が多いケース。僕はその例外なのだ。生まれつき……と言われればそうなのかもしれないが幼い頃の記憶は鮮明には覚えていないのだ。
ともかく、翼は力の証明となる。若輩天使なぼくにとって、この翼に期待されての失望を何度も体験したことか。幸いにも翼はしまっているとはいえ、上位階級者にはオーラや魔力でわかるだとか耳に挟んだことがあるので警戒していた。
「やだなぁ、そんな警戒しないでほしいっすよ。それに、自分が探してたのは自分の姿が見える子っス。間違いないっすから!」
話関係なく、軽薄な口調と態度のツインテ少女に疑心は拭いきれない。目を合わせなければとか後悔が募るばかり。
「そうですか……じゃあ行かなきゃなんで」
「違うっス、違うっス!自分は試験官なので、見つけた方に〘グリゴリ〙への案内を君にしようかと思ってたっす!ーーってそんな疑心暗鬼にならないでほしいっす!自分は軽薄そうに見えて真面目っすよ?」
僕は益々眉をひそめる。その桁違いの強さも、試験官だからかとそう簡単には納得できず半信半疑だった。まあそれだけでなく、何か見覚えがあるのだ。上位階級のものは役割を担う、表面にはあまり登場せず、名だけが知られている場合が多いのだ。オリンピアのパーティーで
「試験官ガブリエル・シルヴェっス!一応、権天使なので敬語必須っスからね!」
ツインテ少女こと権天使ガブリエル。
彼女こそ、その美声で敵味方関係なしに癒し、騙し、殺す『歌姫』であった。
ガブリエルに案内され、〘グリゴリ〙へと到着した。あのレンガ通りを直線に行けば着くのかと思いきや、騙されていた。
経典五章『純潔』四節『光霧に惑いし不落の城、楽観し俯瞰し、嘲り騙せ』――――変化『日城』。
経典『神の盃』に載る中級魔法。日の属性、光迷彩により幻影を写し出す魔法だ。詰まりは試験管を見つけだし、案内してもらえばいいだけだったのだ。影を薄いこと、そしてそれに特化した家系であるからかあっさり見つけられたが、強者にはそれも関係なく見つけられるのだろう。
では〘グリゴリ〙の本体は何処なのだろうという疑問が来るのは当然。そして答えは寮裏にある井戸。その井戸のそこに魔法陣があり、それがゲートとなり〘グリゴリ〙へと繋がっていたのだ。こりゃ、たどり着けないわけだ。
ちなみに飛行で行くこともできるらしいが滅茶苦茶時間がかかると言っていた。ガブリエル曰く、二時間。あの攻撃してきた上級生も、この井戸に落ち魔法陣から登校するらしい。
想像するとかなりシュールである。
しかも以外にもかなり深さがある。覗き込んでもそれらしきものは確認時無かった。
「でもどうして井戸なんですか?」
「知らないっす」
「え?」
権天使なのに?試験官なのに?
疑いの眼差しでガブリエルを僕は睨む。
「そんな眼差しされても本当に知らないっすよ。自分、基本はサボ……………忙しいっす。それに引きこ………在宅業務が多いっすから。ちゃーんと、真面目っすよ!」
コイツ、サボりって言おうとしたか?それプラス引きこもりと。
なるほどなるほど。『歌姫』も不真面目なんだな。さっきの発言も嘘つき認定ということで。
さらなる疑いの眼差しで目で圧をかける。
「……階級がら、嘘つくこと多いっすけど本当っす。ちゃんと真面目にしてるっすよ?」
「………」
圧から逃げるように話の話題を逸らし、爆弾発言をした。
「ちなみにすごーっく深い上にそこは石畳なので着地直前に翼を軽く小さく軽く広げての調節が必要っす。新入生の方には特別に自分に抱きかかえてもらって降りることも可能っすけど…どうするっすか?」
疑い迷いも無く、答えは決まっていた。
ガブリエル曰く、今のところの選別者は僕も合わせ、18名。意外と居たようだった。
魔法陣からでると、そこは想像通りというかなんというか。
下の幻術通りの協会のような白を主体としたデザインの本校舎、正面入口までの道脇には針葉樹の並木道。本校者が見える正面の後ろは崖っぷちで浮遊島に〘グリゴリ〙はそびえ立っていた。
校舎への白天楼の並木道。
白天楼は純粋な魔力で満たれた時に純白の花を咲かせ、不純なものが入り込めばたちまち枯れてしまうのだ。その為、悪魔侵入防止にこの【天界】に多く埋められているのだ。
そんな並木道を通り、正面玄関に。石畳の長い廊下をガブリエルについて歩く。
「あと1時間ほど待ってて欲しいっす。制限時間がそれっすから。なので、待ち時間は馴れ合うも自由っすよ!!無口な方もいらっしゃったので」
そう言ってガブリエルは無駄に大きな(5メートルくらい?)扉を開ける。そこは開けた大講堂。パーティー会場のように盛り付けられていて、食事もあった。スタンドグラスから光がキラキラと差し込み、大理石の床となってより豪華に。
「あ、お名前きいてなかったっすね!この紙に書いてくださいっす!」
ガブリエルが空間に手をかざすと羊皮紙と羽根ペンとインクが出てきた。そのセットを手に持ち、各準備をした。
「僕の名前は……………ラグエル」
「家名も教えて欲しいっす!」
「ラグエル=フル」
「OKっす!フルってことはオリンピアの方っすよね?ラグっちの他にもオリンピアの人いったすよ?というかヒャクパーこの場の天使はオリンピアの血筋の方っすけど」
ラグっち?あ、僕のことか。
「もしかしたら知り合いがいるかもっすね!それでは、お待ちくださいっす!」
変わらぬ楽しげに笑顔をうかべ、大講堂に取り残される。試験官というか、口調に起因しているのか後輩感が否めない。先輩なはずなのに。
そんなガブリエルを見送り、大講堂を一瞥する。
ガブリエルの言う通り17名がそこにいた。やはりここに来たものは強者ばかり。男女比率は女子がやや高めな気がするが、金髪のウルフカットの野郎(知り合いなんぞではない、絶対に)もいた。
嫌な思い出しかないぞ、ここ。
既視感を覚えたとおりに、ここは過去にオリンピアのパーティーの会場となった場所だったのだ。
そもそもオリンピアは神が初代に作った天使の子孫と呼ばれる八つの家系の事だ。天体をモチーフとした、『アラトロン』『べトール』『ファレグ』『オク』『ハギト』『オフィエル』『フル』となる。
オリンピアの生まれのものは強力な力と知力、家系能力を生まれ持っていて、オリンピアの天使は直結の血筋、上位階級を持っていることが多い。
が、ガブリエルさんは例外。イレギュラーだ。
ガブリエル=シルヴェは今の階級者の中で唯一無二のハギト分家の天使だ。そもそもハギトの家系魔法は神雷魔法、対して分家のシルヴェは声帯魔法を得意とする。似たような薄い血筋とはいえあまり関連がなさ気な魔法である。
大して僕は『フル』の家系のもの。僕の家系は隠密を所業とする、裏稼業。天使の裏の汚れ役。地味なもので、オリンピアの中であまり知られぬ立場なのだ。だからこうゆう場所に知り合いは少数ととも言える。
「御機嫌よう、ラグエル=フル。お久しぶりだね」
一瞥した僕の目の前には琥珀色のショートヘアなロリががに股でたっていた。小さな背で背伸びして、精一杯僕を見下すような態度(全然出来てないけど)で僕を睨んでいた。