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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

社会人二人の百合生活

仕事が忙しいときほどいちゃいちゃしたくなる社会人百合

作者: ピッチョン

【登場人物】

永瀬香緒里(ながせかおり):28歳社会人。大学卒業後、同期の結美とルームシェアをしていたが一年ほど前に恋人になった。会社では頼れる先輩だが、家に帰ると結美に甘えがち。

御園結美(みそのゆみ):香緒里と大学時代からの同期。言葉が鋭いときもあるが思いやりがあり尽くすタイプ。料理担当。


 社会人として働いている以上、仕事が生活の基礎になるのも当然のことだ。

 仕事に行くために就寝して、仕事に行くために起床する。仕事に行かなければお金をもらえないのだから、ほとんどの人はそうやって生きることになる。そして休日や空いた時間に自分を癒し、英気を養うのだ。

「ただいまー……はぁ、やっと我が家だぁ……」

 永瀬香緒里(ながせかおり)は疲労を全身で表しながら玄関を上がると、洗面所の方から御園結美(みそのゆみ)がひょっこりと顔を出した。服装は香緒里と同じくスーツのままだった。

「おかえり。帰りちょうどだったね。私も今帰ってきたとこ」

「結美ぃ~」

 香緒里が吸い込まれるように結美に抱き着いた。結美が慣れた様子でそれをあしらう。

「はいはい、先に手洗いうがいしてからね」

「このままでやっていい?」

「……手は洗えるだろうけど、うがいするときどうするの?」

「結美が背中を思いっきり後ろに反らせばなんとか」

「背骨折れるわ」

「じゃあうがいの代わりにキスする」

「なんで代わりになるって思ったの……?」

「結美の愛があればなんとかなるかなって」

「もしなんとかなったらその成分検査して売りに行けば大もうけ出来そう」

「いいねぇー、お金持ちになったら仕事しなくてすむもんね……うぇへへ」

「現実逃避しないの」

「もう仕事やだぁ……」

 顔を首に押し付けてぐりぐりしてくる香緒里の頭を結美が優しく撫でる。

「よしよし。ご飯は食べてきたんだよね。今日は何か飲む?」

「……チューハイ一本だけ」

「おつまみは?」

「……太るからやめとく」

「オッケー。じゃあ私は買い物してきたやつを仕舞ってるから香緒里は先にシャワー浴びちゃって」

「りょーかーい」

 結美を解放して消えていく腕の中のぬくもりに名残惜しさを感じながら、とりあえず香緒里は手洗いうがいをすることにした。



「今日もお疲れ様でした」

「お疲れ様でした」

 交互にシャワーを済まし寝間着に着替えた香緒里と結美は、リビングのテーブルで向かい合って缶チューハイを軽くぶつけた。そのまま一気に缶をあおる。

「んぐ、んぐ――ぷはぁっ!」

 香緒里が勢いよく缶をテーブルに置き、口元を濡らしたまま声を出す。

「あ゛~」

「香緒里、声がおっさんになってるよ」

「失礼。でもこんな声も出るよー。毎日毎日残業でさぁ」

 時刻はそろそろ夜の10時半を過ぎようとしていた。結美が静かに缶を傾けながら同意する。

「まぁ気持ちは分かるけどね。こっちも他の部署の手伝いで駆り出されたりして大変だし」

「それよそれ。まさか結美も同時期に忙しくなるなんてねぇ。いつもだったらどっちかが遅くなってももう一人が先に帰って家のことやってたじゃん? というかだいたい結美がやってくれてたんだけど、ホント恵まれてたんだなぁって実感してるよ」

「晩ごはん用意出来なくてごめんね」

「なんで結美が謝んの。二人とも忙しいあいだは夜は自分たちでなんとかしようって言ったのは私の方でしょ。結美にばっかり負担かけさせられないから」

「その気遣いは嬉しいし実際助かるんだけど、ご飯作れないのは作れないでストレスなんだよね」

「料理作るのホント好きだね~」

 香緒里がチューハイの残りを飲み干しにかかった。結美は両手で缶を挟み手のひらで弄ぶ。

「作るのも好きだけどそれを美味しそうに食べる香緒里を見るのが一番好き」

「……そういうこと言われると」

 香緒里が空いた缶をそっとテーブルに置き結美の手に指先で触れ、艶然と微笑む。

「してあげたくなる気分になっちゃう」

 結美もその指に自身の指を絡ませる。

「最近全然だったし私も、って言いたいんだけど、出来れば休みの前日がいいな」

「先週そう言ってたらいきなりの休出になってナシになったの覚えてないの?」

「覚えてるよ。でもそれはもうしょうがないし、せめて残業がなくならないと」

「はぁ――結局そこなんだよね。ただでさえ二人とも疲れが溜まってるから、早く寝ときたいってのはある。けどやっぱり、結美といちゃいちゃしないと精神が回復しないしさぁ」

 結美は香緒里の手を取ったまま立ち上がると、近づいてその膝の上に横向きで座った。腕を後ろに回して抱き締めながらキスをする。

「毎日のハグとキスだけじゃ足りない?」

「足りないこともないけど、もっと欲しい」

「時間に余裕ができたらいっぱいあげるから」

「余裕なくても欲しいんだよぉ~」

 ぎゅうと力を込められて結美が苦笑する。

「どうしたの? 今日はいつになく甘えてるけど」

「……むこうのミスで書類全部作り直しが二回あった」

「それはまた……なんとかなったの?」

「頑張ってなんとかした」

 結美が香緒里の頭をぽんぽんと叩く。

「えらいえらい。じゃあ頑張ったご褒美にうんと甘えていいよ」

「そうする」

 香緒里の唇が結美の唇に重なり、味わうようにゆっくり開閉する。互いに相手の唇を挟み、離し、感触を堪能し合う。熱い吐息が唇の隙間から漏れ、口の周りを唾液が徐々に濡らしていく。

「ん……」

 鼻にかかった甘い声はどちらが発したものだったか。その声を合図に香緒里が舌を伸ばすと、すぐに結美の舌が出迎えた。舌先同士でくすぐり、表と裏を交互になめ合い、舌全体で絡み付き、あふれる唾液をすする。数千回以上している行為なだけに相手がどう動くのか、こちらがどう動けば喜んでくれるかを熟知していた。

 香緒里の手が結美の服の裾を持ち上げる。

「っん……ねぇ結美……」

「――ダメだって。キスで我慢して」

「えぇー」

「えぇーじゃないの。あとでまたシャワー浴びなきゃいけなくなるでしょ」

「浴びればいいじゃん」

「寝るのが遅くなる」

「うぅ……これが噂のレスってやつなのか……」

「レスとかよくこの口が言えるな」

 結美が香緒里のほっぺをつまんで引っ張った。

「いひゃいいひゃい」

「言っとくけど、香緒里のためでもあるんだからね」

「なにが?」

「疲れて裸のまま眠って早朝にぶるぶる体震えさせるのが目に見えてる」

「あー、まぁ、そういうこともあったかなぁ」

「ったくもう、体調崩してからじゃ遅いんだよ」

「でもそうならないように結美が色々してくれてるから平気」

 眠い香緒里を引きずって風呂場に連れていったり、すぐに暖房をつけて部屋をあたたかくしてくれたり。結美の愛情と気遣いを感じているからこそ香緒里は笑う。

「だからどれだけ甘えても大丈夫だよ。ね、結美?」

「……ちょっと甘やかし過ぎたかな」

「もっと甘やかしてくれてもいいんだよ?」

「はいはい」

 呆れたように結美は息を吐きながら、香緒里が服を捲り上げようとするのを今度は止めなかった。




「おぉ~、すごい華やかだね~」

 金曜の夜、テーブルに並んだ品々を前に香緒里が目を輝かせた。

「お互いの仕事が一段落したお祝いってことで」

 香緒里たちの仕事も山場を越え、帰宅時間もいつも通りに戻った。それを労う意味もこめて結美が用意したのだ。

「こっちのポットに入ってるのが赤ワインのサングリア。イチゴとブルーベリーとラズベリーとブラックベリー、だったかな、冷凍のミックスのやつを入れてみた。はちみつも入ってるからちょっと甘め。それでこっちが白ワインね。みかんとパイナップルとライムが入ってて、サイダーで割ってるから飲みやすいと思う」

「はやく飲も飲も!」

「はいはい、ちょっと待って」

 すぐにでも飛びつきそうな香緒里に苦笑して、結美がグラスにワインを注ぐ。着席し、手元にグラスを持ってから突き合わせた。

「「かんぱ~い!」」

 白ワインを一口飲み、香緒里が目を丸くする。

「え、めっちゃ美味しい! 果物の香りとワインの香りがマッチしてサイダーの甘さと炭酸がいい感じで――まぁとにかく美味しい」

「うん、初めて作ってみたけど美味しいね」

「酔えればなんでもいい派だったけど、こんな美味しいの知っちゃったら考えを改めちゃいそう」

「そんなに喜んでくれたなら用意した甲斐あったかな」

「え、毎日作ってくれるって?」

「誰もそうは言ってない。どうしても飲みたいなら香緒里が果物買って帰ってきてくれたら作ってあげる」

「は~い。あ、今日のうちにたくさん作って明日の朝から飲まない?」

「そうしたいのもやまやまなんだけど、度数が低いお酒を漬け込んだりしたら酒税法違反になっちゃうからダメなんだよね」

「マジで?」

「うん。だからサングリアを作るのは飲む直前」

「へ~」

「その顔、どうせ作るの私だから関係ないって思ってるでしょ?」

「あはは、そんなことあったりなかったり」

「まぁいいけどね。作るの楽しいし」

「結美は作って楽しい、私は飲んで嬉しい。完全なWin-Winだね!」

「そっちのWinの方が大きい気がするなぁ」

「あ、結美さん、飲み物減ってますね! お注ぎしましょうか!」

「そうねぇ、飲み比べたいから新しいグラス持ってきていただける?」

「はい、ただいま!」

 二人ともくすくすと笑いながらお酒と料理を楽しんだ。


 しばらくして料理もほとんどなくなり、ほどよく酔いが回ってきたころ。

「いや~、これでようやく結美といちゃいちゃ出来るね~」

「そこそこな頻度でいちゃいちゃしてた気はするけど」

「時間を気にせずっていうのはなかったでしょー? 明日は土曜! 朝からずぅっといちゃいちゃ仕放題! 結美だって待ち侘びてたんじゃないの~?」

「……当たり前でしょ。疲れてる香緒里をさんざん甘えさせてあげたんだから、今度は私が甘える番だからね」

「結美も甘えたかったんならそう言ってくれればいいのに。いつでも腕の中ウェルカムだよ?」

「私が言ったら香緒里が気を遣うかもしれないと思ったの。ほら、どっちかっていうと私が家で香緒里を出迎える方だし、受け止めてあげる立場でいたいというか……」

「…………」

 香緒里がグラスを持って立ち上がり、結美の横の席へと移動した。きょとんとする結美に、腕を広げてみせる。

「ん」

「えっと」

「ん」

「わかったって」

 結美は観念して香緒里の方に体を倒した。その肩を香緒里が抱き寄せ、頭を傾かせてくっつける。

「私は結美に甘えたいし、甘えてもらいたいの。もし私が負担になるようならちゃんと言ってよ。私には結美が一番大事なんだから」

「別に香緒里が負担だったとかじゃなくて私だって甘えてもらうのは嬉しいし――」

「ほらほらそういうのいいから。今やりたいことは?」

「……香緒里に甘えること」

「よろしい」

 結美は体を密着させるようにして香緒里にキスをした。小さく揺れる結美の頭を香緒里が優しく撫でる。前に結美がしてあげたのと同じように。

 絆を確かめるようなキスを終えて、肩を寄せ合ったまま二人はグラスを傾けた。

「そういや結美」

「ん?」

「ずっと前にさ、1分に1回キスするって縛りで一日過ごしてたの覚えてる?」

「覚えてるよ。色々と忘れられない一日だったし」

「結局あれからやらなかったけど、せっかくだから明日やらない?」

「うーん、やるにしてももっと難易度簡単にしないとしんどいかな」

「時間の猶予を延ばす?」

「タイミングを決められるのがきついから、その辺をなんとかしたい」

「ん~……あ、じゃあ『目が合ったらキスしなきゃいけない』っていうのは? これなら自分たちでキスするタイミング計れるでしょ?」

「まぁ、確かに」

「試しに今からやってみよ」

「え、ほんとにやるの?」

「試し試し~。それじゃスタート!」

 香緒里が強制的に始めたせいで、結美は反応が遅れてしまった。気付いたときにはばっちりと目が合っていた。

(しまっ――)

 すかさず香緒里が結美にキスをする。

「ん――」

 キスをされて反射的に結美は目を閉じた。すると唇は離れていった。おそるおそる目を開ける。そこには満面の笑みで結美を見つめる香緒里がいた。当然目と目が合う。

「あ、ちょっとま――」

 再びのキス。また目を閉じると唇は離れていった。

 このループはまずいと思った結美は、目を閉じたままストップをかける。

「いったんやめ! 終了ー!」

「えー、まだ始まったばっかりだしもうちょっとやろうよー」

「ルールに重大な欠陥があると思う」

「どんな?」

「目を開けた瞬間に目が合ってたら一生何も出来ないでしょうが」

「違う違う、それは結美の勘違い」

「なんでよ」

「私はずっと結美を見てるから、結美が私から視線を外せばいいだけだよ。だから、結美はキスをしたいと思ったときに私を見ればいい」

「…………」

 結美は顔を正面に向けてゆっくり目を開けた。テーブルの上には空いたお皿や飲みかけのグラスがある。そして、視界の端には結美の方に視線を向けている気配のする香緒里がいた。

「ほら、言った通りでしょ?」

「そうだけど……」

「甘えたくなったらいつでもこっちを見てね」

「…………」

 キスのタイミングが任意になることよりも、香緒里の顔を自由に見られないことの方がきついことに結美は気が付いた。

「香緒里、やっぱりその……」

 改めて中止を申し出ようとして結美は香緒里を窺い見てしまう。

「はいはーい、キスだね~」

「いや、そうじゃな――」

 キスをされ、舌を絡ませたのも束の間、唇はすぐに離れていく。どうしても結美はキスをすると無意識に目を閉じてしまうからだった。

 目を開ける。香緒里が顔を近づけてくるのですぐに目を閉じる。キスはされない。数秒経ってまた目を開けて、閉じる。開けて、閉じる。開けて閉じる。

「結美ぃ、それじゃキスできないよー」

「そうじゃなくて、ちょっとはおかしいと思え!」

 目を開けた結美は近づいてきた香緒里の両頬を手で挟んで受け止めた。

「おかひい?」

「香緒里の顔を見るにはキスしなきゃいけないとか、キスをずっとし続けるためには目を開けてなきゃいけないとか、難易度高すぎでしょ!」

「……たしかに」

 結美は頬から手を離して香緒里を解放する。

「私に甘えさせてくれるっていうならもっと自由に甘えさせてよ」

「どういう感じに?」

「…………」

 少し考えてから結美はそっと腕を伸ばし香緒里の手に触れた。指を絡ませ、手のひらを合わせ、ぬくもりを感じながらしっかりと握る。

「たとえば、手を握ってる間はキスしてくれる、とか」

 香緒里はニッと笑ってその手を握り返す。

「いいね。それなら結美が好きなときに好きなだけキスしてあげられる」

 二人は手を固く繋いだままキスをした。今度はキスを止める障害は何もない。望むままに、求めるままに唇と舌で相手と幸せを分かち合う。

 仕事の疲労やストレスなんて今の二人にはすでに無くなっていた。好きだから触れたい。好きだから繋がりたい。その想いでひたすらにキスをし続けた。

「……はぁ、っ……これ、欠陥を見つけたんだけど」

 息も荒く香緒里が発言した。手は繋いだままなので唇が当たるほど近い。

「どんな欠陥?」

「このままだとキスしながら服を脱がせられない」

「脱いだあとにまたキスすればいいんじゃない?」

「それだ。じゃあさっそく――」

「まだダーメ。もうちょっとキスして、テーブルの上のもの片付けて、一緒にお風呂入って、それからね」

「うぅ、生殺しだぁ……」

「でもそのあとは、寝るまでずっと手を繋ぐつもりだから覚悟しといてよ」

 結美がおどけて言うと、香緒里の表情が明るくなった。

「それは楽しみだね。いっそ寝てる間も手を繋いどく?」

「寝ながらどうやってキスするって?」

 おかしそうに笑い合ってから、二人は再び唇を重ねた。





〈おまけ〉


好きなところしりとり


 久しぶりにゆっくりと過ごせる休日。香緒里と結美は朝起きてからもベッドの上でくっついたままごろごろしていた。

 香緒里が手慰みに結美の耳たぶを指でくにくにしながら話しかける。

「しりとりしない?」

「なんで急に」

「いや、なんとなく。ぼーっとするだけなのもアレかなぁって」

「だからってしりとりは安直すぎない?」

「じゃあなんか縛り入れよう。三文字とか食べ物だけとか」

「香緒里ってそういうの好きだよね。……お互いの好きなところ、とかは?」

「お、いいじゃーん。外見だけ? 性格とかもありでいいよね?」

「もちろん」

「よし、せっかく勝負するんだから罰ゲームも考えよう」

「えぇ……」

「負けたら本気で好きって告白してキス」

「ガチではずいやつきたし……」

「そんじゃ私からいくよ。『優しいところ』」

「ところって付けると語尾が一緒になるから省略で」

「じゃあ『優しい』だから『い』だね」

「い……『いつも私を気遣ってくれる』」

「それ私も言おうと思ってたのにー」

「私が先に言ったからもう気遣いは無しね。違う言葉で言い換えるのはあり」

「了解。えっと、次は『る』か……『ルックス』」

「そんなに私の見た目好き?」

「好きだよ。大学で会ったときから綺麗な子だなってのは思ってたけど、付き合い始めてからはなんというかこう、見てるだけで抱き締めたくなるような愛おしい感じがして――」

 結美が香緒里の腕に顔を付けて表情を隠すのを見て、一旦言葉を区切る。

「いや、照れられると私も恥ずかしいし、普通にしてて欲しいんだけど」

「恥ずかしがってるんじゃなくて、嬉しくてニヤけそうだったから隠したの!」

「どっちでも変わんないよ。はい、次は『ス』ね」

「す……『スタイル』」

「お、普通に嬉しい」

「香緒里の方が背も高いし足も長いしでほんと羨ましい」

「でも胸は結美の方があるじゃん」

「そういうピンポイントな部分じゃなくて……次『ル』」

「また『る』かぁ……『ルンルンしてるときの表情』」

「なにそのルンルンしてるときって」

「喜んでるときのこと」

「まぁそういうのありにしないと難しいか。う……『腕でぎゅっとされたときの感覚』」

「あー、ハグっていいよね」

 言いながら香緒里が腕を回して結美を抱き締めた。その腕の中で結美が小さく頷く。

「こうしてるだけですごく落ち着く」

「うむ、同感。えっと『く』か……『クッキング』。日本語で言うと料理」

「なるほどそうきたか。……『ぐちぐち言い訳をしない』」

「言い訳そんなにしてない? わりと誤魔化してる気がするけど」

「どうでもいいことはね。でも本当に悪いと思ったことはいつも素直に謝ってくれるでしょ?」

「言われてみれば、そう、なのかな?」

「自分で意識してないとこが香緒里らしいよね。そういうところに惹かれたんだけど」

 ごく自然に言ってのけられて香緒里の頬が少し緩む

「……これは確かに照れちゃうわ」

「でしょ?」

「なんかもう一種の告白合戦になってるよね」

「これ罰ゲームいる?」

「いる。次は『い』? 『色っぽい』」

「あんまり自分で色っぽいって思ったことないなぁ」

「いやいや、お風呂のときとかめっちゃ色っぽいよ。いまだにドキッとする」

「あ、ありがと」

「やっぱり胸のせいかな」

「そこそんなに気にする?」

「コンプレックスとかじゃなくて、私のより揉み心地が断然いいしさ」

 香緒里が結美の胸に手を伸ばして鷲掴みにし、感触を確かめるように指を動かした。

「ん……そりゃ自分のよりはいいでしょ。私だって香緒里の胸の方がいいし」

 結美も同じように香緒里の胸を揉む。自分についてるものと同じであっても手のひらから伝わる感覚は全然違うもののように感じられる。それは何も胸だけに限った話ではなく、香緒里の全身のあらゆる場所が結美にとっては触れていて幸せな場所なのだ。

「結美、次『い』だよ」

「い……『いい形のおっぱい』」

「そういう繋げ方する!? じゃあ『いい形のおしり』」

 香緒里の手が結美のお尻へと移動した。

「『リップ』」

 負けじと結美も香緒里の唇を指でつついた。

「『ぷにぷにしたほっぺ』」

「『ペンギンみたいにつるつるの肌』」

「『抱き心地のいい体』」

「『抱き締めてくれたときの手の動き』」

「『キスしてくれたときの』――……」

 触ったり抱き締めたりと布団のなかでわちゃわちゃ動いたあと、最後の言葉を言い切る前に二人は見つめ合ってキスをした。


 しりとり勝負の結果は引き分けになった。



    終


山場とかオチとか考えず、二人がいちゃいちゃするところを書きたかったんです。

ベッドの上でごろごろいちゃいちゃする百合カップルはいいと思いませんか?

もっといちゃいちゃを……いちゃいちゃを書きたい……。


この二人の今までのお話はシリーズにまとめてありますのでよければ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] いちゃいちゃが書きたいならどうぞどうぞ。楽しみにしています!ピッチョンさんの投稿をまだかまだかと、待ちあびていたものですから投稿されているのを見たとき心踊らせました。社会人百合良いですよね…
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