一般クエストに初めてまじめに取り組んでみた
「シリュウ、あなたにきてもらったのには訳があります」
「フェロー、どうした?」
「いえね。 会計の無駄を省くため色々と団長に抗議させていただいていたんですが」
「うんうん」
「ひとつだけ、明らかな無駄がありまして」
「へぇー。 そんなのがあるのか」
「どうも原因はあなたにあるそうじゃないですか」
「はぁ!? なんのことだよ。 無駄遣いはしてないぞ俺は」
「この奴隷解放費という名目の費用なんですが」
「あぁ……俺だな。 いやいや、無駄じゃないだろ」
「無駄ですよ。 今や人員が足りないわけでもないのに奴隷を購入してどうするつもりなんですか?」
「別に人員のためだけにやってるわけじゃないが……足りてないってことはないだろう」
「奴隷を購入して、そのままギルドメンバーに入れる。 なるほど、僕が簡単に受け入れられた理由がよく分かります。 でもですよ、でしたらもっと戦闘が得意だとか、頭がいいだとか……そういう奴隷に限定しましょうよ」
「嫌だね。 お前が言ってることはストちゃんみたいな子は解放するなってことだよな?」
ストちゃんがなんでしょうかと首を傾げている。
「そういうことですよ。 それとも、何か解放する理由があるんですか?」
「あぁ、ある」
「ほほう。 一体それはなんでしょうか?」
「可哀想だろうがっ!!」
「は?」
「お前、奴隷がどんなことさせられてるか分かるのか? 人間扱いをされず、日夜馬車馬のように働かされて……それを全部解放してやるのが、俺の夢のひとつだ」
「……理想論にもほどがあります。 不可能ですよ」
「だからやらないってのはないだろう。 俺は、手が届く範囲でやっていきたいんだよ」
「はぁっ。 僕を仲間にしようなんて人は考えが違いますね。 その甘さが命取りにならなければいいですが」
「ふん。 俺を殺せる奴がいるなら連れてきてほしいね」
「だから街で化け物なんて噂されるんですよ」
「はっ? どういうことだよ」
「みんな言ってますよー。 シリュウは化け物だから敵に回すなよ……とか」
「お前それ、なんでいうんだよ。 街を歩きづらいじゃないか」
「いや……あなたが言えって言ったんでしょう」
そんなこんなを話していると、ストちゃんがトコトコと歩み寄ってきた。
「あのー」
「ん? どうしたストちゃん」
「シリュウ様、もしかして暇ですか?」
「うぐっ……暇だけど」
「良かったら、私のクエスト手伝ってもらえませんか? パーティのみんなは、今日は忙しいみたいで」
「ストちゃんのクエスト? そうだな。 たまにはそういうのもありかもな」
「えぇ。 行ってきなさい。 奴隷解放のためにあなたには稼いでもらわないといけないのでね」
「あれ? 結局無くさないでくれるの?」
「あなたの甘さは悪いところばかりではないのでね」
「ふーん。 ありがとな、フェロー」
「はいはい。 さっさと行ってきなさい」
「よし行くか、ストちゃん」
「はいです!!」
俺はストちゃんに案内され、それについていった。
ストちゃんみたいな子も、働かせてるんだよな。
ん。
この世界に学校とかってあるのか?
ストちゃんもそういうのに通わせたほうがいいのかな?
「どうしました? シリュウ様」
「いや、ストちゃんって学校って知ってるか?」
「それ、バカにしてます? 学校ぐらい知ってますよ」
「そっか、ストちゃんも通いたいとかあるのかなって」
「私……今年で15ですよ。 なので学校に行く必要はありません」
「え!? 15って15歳ってこと?」
「やっぱり、私にそんな魅力はないですかね」
胸のあたりをペタペタと触りながら、ストちゃんは答えた。
「いや、そんなことないけど」
「ふふっ。 それじゃロリコンになっちゃいますよ」
「お、こりゃ一本取られたな。 てことは、ストちゃん学校には行ってたんだ」
「いや、私のいた村はそういうのなくて……この国は奴隷も学校に通わせる法律があるみたいなのですが、私、その時10歳過ぎてたので」
「そうか。 まぁ、気にするな。 俺も学校行ってないし」
「えぇ!? そうなんですか? なのに教養がすごいと思うんですけど」
「そうか? ほら、俺山で龍に育てられたから……」
「なるほど。 その龍の方は素晴らしい方だったんですね」
「…………そうだな」
「あ、着きましたよ」
「ん、ここは……洞窟?」
「はいっ!! 今回はスライムを倒していきますよ」
「スライム……装備だけを溶かす……ストちゃんが?」
「なーにエロいこと考えてるんですか。 そういう展開はありませんよ。 じゃ、行ってきます」
そう言って、ストちゃんは一体のスライムに向かっていく。
スライムは、流動体の体ではあるが、プリンや簡単なように形はしっかりしていて、弾力がある。
それが、プニプニと跳ねながら移動している、
毒はないらしく、攻撃は体当たりをするのみ。
「てやぁっ!!」
その体当たりも、ストちゃんは大きく跳躍して避けている。
反撃もバッチリだ。
だが、簡単にはスライムは倒れない。
どうやら、衝撃を吸収しやすいらしく、防御力は十分みたいだな。
「攻撃が単純で避けやすく、かといって防御は硬い……初心者向けのモンスターと言ったところか」
そういえば、モンスターと戦うクエストは今のギルドに入ってこれが初だな。
報酬とかってどうなってるんだろうか。
やはり、スライムというぐらいだから安いんだろうな。
そんなことを考えてるうちに、ストちゃんが涙目になりながらこちらへ近づいてきた。
「シリュウ様ーー。 倒せないですーー」
「打撃は効かなさそうだから、斬撃に切り替えるとか」
「私、危ないからってこの木の棒しか装備させてもらえなくて」
「なら、スキルは?」
「スキルが貰えるのは20からですよー!!」
「なるほどな……よし、見ていろ。 俺がやってやる」
「おおっ!! お願いします」
俺は、スライムに近づく。
スライムも、こちらに気がついたようで、突進を始めてきた。
余談だが、こいつ、目がないのにどうやって俺のこと判断してるんだ?
俺は、せっかくなので適当に石を拾ってどこかへ投げてみる。
石が落ちた反響音が聞こえるが、スライムは見向きもせず、こちらへ向かってきた。
「ふぅん。 音で判断してるわけでもなさそうだ」
俺は、スライムの突進を片手で受け止める。
これなら、アイ団長のパンチの方が強いんじゃないか?
そんなことを考えながら、体温を上げ、スライムに炎を灯した。
その身体は溶けて蒸発していき、何も残らなかった。
「スライム討伐完了……だな」
「はいですっ!!」
ふーん。
大体の流れが把握できたな。
前のギルドでは、何がなんやらわからないままにクエストが終わってたし。
「あのスライムを一撃で倒すなんてさすがはご主人様です」
「いや、あんなの愛称を考えれば雑魚だよ。 ストちゃんだってすぐ倒せるようになるさ」
「Bランククエストのスライムを雑魚なんて、わたしには到底無理ですよ!!」
Bランククエスト……は?
「ちょっと待て、ストちゃん、君Bランクなんてやってたの?」
「私1人ではダメなので、シリュウ様を誘ってしまいました……やっぱりダメでしたよね」
「いや、しかしあんな弱いモンスターがBランクか」
「シリュウ様は片手で受けてましたが、あの突進は並みの冒険者なら一撃でやられてしまうレベルなんですよ」
「……ストちゃん。 それ本当か?」
「えぇ!! 本当です。 だからシリュウ様凄いんです」
「ストちゃん、それいつもやってるのか?」
「え、えぇ。 パーティのみんなに混ぜてもらって」
「あのな、ストちゃん。 聞いてくれ。 こんな危ないことは次からはなしだ。 もしものことがあったら危ないからな」
「でも、シリュウ様に恩返しをするには、少しでも高いランクのクエストをやらないと……」
「恩返しなんていいんだよ。 自己満足でやってることなんだから」
「でも……でもそれじゃ、私たちは……私は」
耳が垂れ、涙を流している。
「じゃあ、たまに、俺と遊んでくれ。 俺だけじゃなく、俺が新しく連れてくる仲間を……ほら、フェローなんて、実はお前に遊んで欲しくてたまらないんだぞ?」
「……え? そうなんですね。 フェローさんが、ふふっ」
「へぇ、泣いた顔がすぐ笑顔になったな」
「だって、あのフェローさんが遊びたがってるって……あの怖い顔で、可愛いですね」
「あぁ、そうだよな。 よし、それじゃ急いで帰って遊んでやるか」
「はいっ!! 走って帰りましょう」
「あれ? ストちゃん早い!! よーし、なら俺も本気出すか」
心拍数、脈圧をあげ、疲労を感じさせない身体を作り、同時に筋肉をバルクアップさせることで身体能力をあげる。
同時に、脳ではアドレナリンが分泌され、極度の興奮状態により、筋肉のリミッターを外した。
「え? シリュウ様、早すぎます。 早いよぉ」
「はははっ、俺は子供相手にも手加減はしないぜ」
「獣人族よりも早いなんて……さすがですね」
俺は、ストちゃんの少し前を走って、彼女が追いつくのを待った。
そして、ギルドに帰った後、フェローの仕事を邪魔し続け、最終的にフェローに遊んでもらった。
俺はもちろん後でフェローに怒られ仕事を手伝わされたが……