最後の戦い 終わり
相手の動きは遅いので、攻撃は簡単に避けることができる。
逆に、こちらの攻撃は面白いように当たる。
俺は強くなりすぎたようで、1回、ただ殴っただけで、レオンは膝をつく。
しかし、倒れない。
何度でも、立ち上がってはこちらにむかってくる。
勝算が少しでもあるのか。
その目から希望の光がみてとれる。
立ち上がりむかってくるのは、何故だか嬉しくて、つい笑みが漏れそうになるのを我慢しながら、俺は義腕を取り出した。
「これで終わらせる」
そう、一言伝えて、義腕をレオンに触れさせようとする。
その時、彼は笑った。 わかりやすく。
「この時、この瞬間を待っていた!!」
アロンダイトが、俺の義腕を防ぐと、その闇の力を刀身に吸収させていく。
「ほう、面白い……だが」
このまま力を奪われていくのも面白くないので、俺は逆に力を吸収しようとするが、もう一振りの剣が俺の義腕を切断した。
「こんな……程度か」
闇の力を繋げれば、綱引きとなるのだが、彼はその綱を切断することで一方的に力を得た。
これが、レオンの勝算か。
それを可能にするのが、魔剣と聖剣の双刀をなのか。
しかし、深みに達した俺の闇。
レオンに、扱えるものだろうか。
「無理をするな。 その力、お前には扱えきれまい」
「扱いきるしか、貴様を止める術がないのだ。 俺たちの世界を、終わらせるわけにはいかない」
「……それを、誰から聞いた?」
「アセディアだ。 全部話してくれたよ」
奴め、口を漏らしたな。
となると、アセディアがここへたどり着くことはないか。
夢の再現なら、俺1人でも出来なくはない……が。
少々邪魔ものがいるようだ。
「今のお前たちは死ぬかもしれないが、もう一度生まれることができる。 だから、我慢してくれないか?」
「ふざけろ。 少しでもその話になると思っているのなら、お前を殺すぞ」
「だな。 いいぜ諦めても」
「……簡単すぎるな」
「ただし、俺に勝てたらな」
「そうだと思ったよ」
俺は、あえて義腕を展開しながら、力の奪い合いによる決着を選んだ。
理由は、呪術を……闇の力を扱えるものが、もうレオン1人で、こいつの力を奪いきれば、邪魔者がいなくなるから。
と、自分を無理やり納得させるが、もしかしたら別のところに理由があるのかもしれない。
そんなモヤモヤを心の奥に仕舞い込み、レオンを見る。
義腕を確実に避け、魔力量の少ないものを選んで、アロンダイトで吸収する。
俺が引っ張り返そうとすれば、エクスカリバーで切断し、離脱する。
俺を倒せる唯一の方法を、愚直に繰り返す。
なるほど、強いし厄介だ。
最初、こいつと出会ったときには、何も感じなかった。
世界最強と言われていると聞いて、心躍ったものだが、弱くてセコくて、どうあがいても小物だった。
だが、神と呼ばれる力を得た俺相手に、抗っている。
今のレオンになら、世界最強を名乗る権利をやってもいいだろう。
「ほら、どうしたレオン。 また力を奪われたぞ」
「黙れっ!!」
力を奪われ、倒れるが、激昂しながら立ち上がる。
また、俺の力を奪い返してくる。
手加減しているわけじゃない。
この男を舐めているわけじゃない。
ただ、この男が立ち上がる様を見続けていたいのだ。
世界最強の称号。
与えても、彼はきっと捨てるのだろうな。
俺の力が、奪われ続けたとき、義腕をしまう。
「どうした? もう終わりか」
「なあ、その刀。 片方貸してくれよ」
「何を言って……」
「この戦いだと、おまえが負ける」
「そんなもの、わからないだろう」
俺は、レオンにわかってもらうため、深淵に渦を作り出す。
その渦をそっとレオンに近づけると、レオンは魔剣の刃で受けた。
高密度の魔力が、レオンの中へと入っていき、煙が湧く。
彼は、目をチカチカさせながら、倒れることを拒否する。
「この深淵、全てが俺の魔力で出来ている。 さて、これ全部お前は耐えられるのかな」
「……やって、やるよ」
「やめとけ。 それより、別の方法で決着をつけよう」
俺は、手を伸ばす。
レオンにむかって。
彼は、少し悩んだ後、魔剣をこちらへ向けて投げた。
円運動をしながら飛んでくる剣を、俺は掴むと、一度適当に振ってから構える。
「いいの、アロンダイトを手放して」
「闇に迷ったお前を救うには、こちらの方が適任なんでな」
「そうか。 負ける気は無いけど、頑張れよレオン」
「上からっ!!」
剣と剣がぶつかると、金属ともちがう不思議な音がなる。
やけに鈍い音と共に、体制を崩したレオンの首を落とそうとするが、済んでで前転され避けられた。
背中から斬られそうになるも、振り返ることもなく、剣を背に回して受ける。
そのまま受け流し振り返ると、もう1度、剣同士をぶつけあった。
「ほーら。 俺や世界を、みんなを守りたいんだろ」
はっきり言って、余裕だった。
もちろん、剣の戦いでは、闇の綱引きと違い負ける可能性がある。
だが、実力差が酷すぎる。
このままでは、負ける理由がない。
「そうだ。 お前を含む全てを……」
真剣な眼差しで、笑うことなく言い切られると、心を少しはうたれるものだ。
負けるつもりは毛頭ない。
だが、勝ってしまうのもいやだ。
そんな迷いをつかれたのか。
意識の外から、刃が向かってきた。
間一髪避けるが、頬を傷つけられる。
「今のは……」
「わかるまい。 能力と体力に頼ってきた天才には」
俺は、二度と同じ失態を犯さないよう、注意しながら攻撃を丁寧に受ける。
動きはあくびが出るほど遅いし、妙な点もない。
よし、受け切れる。
そう思った瞬間。
俺の腕に、切り傷がつく。
「この傷のつき方……北の勇者」
「お前はまだ、この技術の種あかしが終わってないようだな」
「そうか。 ただ、剣を借りてきましたというわけではないのか」
「俺が託されたものは、そんなに安くない」
致命傷は避けている。
どう攻撃されているのか、不安に思う必要はなさそうだ。
ゆっくりと、解明していけばいい。
その時、白い玉が深淵へと混じってきた。
いくつもの玉が浮いている。
「これは、もうきたのか」
「なんだそれは」
玉に触れると、反発して飛んでいく。
吸着刺さることもできるようだが、危ないので脇に寄せておく。
1つだけ、1人だけは、胸に忍ばせながら。
「魂。 死んだ生物の」
「魂……みんなのか?」
「いや、これは別世界の魂が、まだ世界として生まれていないここへ迷い込んだんだろう。 この魂なんて、見覚えがある」
説明してやると、困惑混じりのまま、黙って剣を構え直される。
やる気満々なのは、彼だけではないが。
「まぁ、時間も少なくなってきたようだし。 さっさと終わらせるか」
俺は、剣を構えると、闇の力を刀身に集める。
それに対して、レオンも同じことを行った。
光と闇の力が反発し合う。
それを俺たちはぶつけると、対消滅し、そのまま剣をぶつけ合う。
隙あらば互いの急所を狙う。
単純な力では俺が押しているが、キズが増えていくのは俺の方だ。
しかし、その時間もすぐに終わる。
剣ばかりに集中するレオンの足を払ってやると、簡単に転んだ。
この見えない剣筋の技術に、彼はまだ慣れていないのだろう。
足元がお留守というやつだ。
その首に剣を向けると、刀身をレオンは握る。
刃で手を傷つけたようで、そこから血が滴るのが見えた。
「もう、終わりだ」
「お前には、この世界に未練がないのか?」
「別に……ないな」
「嘘だな」
「いやに即答するな。 何が言いたい?」
「おまえが、俺との勝負を受けたのは、止めて欲しかったんじゃないのか?」
「……そうだとして、おまえの実力不足で、俺を止めることができなかった」
「それは……そう、だが」
レオンはうつむく。
しかし、剣を離しはしない。
「もう、いいだろう? 無駄に傷つく必要はない。 その手を離せ」
言いながら、俺は彼の魔力を奪っていく。
闇の力を失えば、彼はこの場に居られなくなる。
そうすれば、悲嘆が達成されるだろう。
「いいや、お前は未練がある」
彼は、顔を上げ、そう言った。
「未練など……」
「意外に律儀な男だからな。 返してない恩なんかあったら、たまらないんじゃないのか?」
「返してない恩……だと?」
俺は、聞き返しながらも、魔力を奪うのをやめない。
だんだんと体が透けていき、存在感を失わせていく。
「そうだ。 お前は、まだやるべきことをやり終えていない」
「そんな……こと」
もうほとんど消えかかったレオンは、最後の一言を言い切った。
「俺たちは、彼女は、お前を信じているからな」
レオンが消失した後、俺は、1人で深淵に取り残された。
1人で、立ちすくみながら、考える。
「やり残したこと……彼女か」
「そんなの、あるに決まってるだろ」
「お前は否定するかもしれないが、世界最強は、お前だよレオン」
「そんなお前がいる限り、俺たちのギルドは、世界最高のギルドには、なれないな」
「なら、約束を守ったことにならないな」
俺は、深淵を解除する。
見慣れた光景が、帰ってきた。
「……ほらな。 お前は帰ってくる」
そこに横になって倒れていたレオンに、俺はそう言われた。
「勘違いするな。 約束は守らなければならないし」
「ん? ならないし……なんだ?」
「俺を追い出したギルドの奴らに、後悔させてやらないとな」
俺は、手を差し出して、レオンを抱えると、歩き出す。
そこには、懐かしのギルドのメンバーたち。
そして、マスターのアイが、迎えてくれている。
俺は、忍ばせておいた1つの魂を、深淵の残りカスへと送り出す。
次は、うまく生まれなおせよ。 俺。
別の世界で死んだ魂を、この世界の、どこかの時間軸へと送り出し、みんなの元へとたどり着いた。
そして、ギルドへは、みんなで帰る。
「そうだ。 お前、うちにこいよ」
「いやだな。 お前とは、いつまでも敵でいたいから」
「だってよ。 マスター」
「ほらほら、サボろうとしないの。 シリュウ、あなたには期待しているんだから」
あーあ、楽はさせてもらえなさそうだ。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
いったん、最終話とさせてもらいます。
面白い話が書けそうなら、続きを書きます。
2度目になりますがありがとうございました




