マクシミリアン その1
戦い始めたら分かるが、自らの思いと、戦闘は切って離されている。
復讐に目がくらむこともあった。
だが、今の俺は冷静になっている。
ただ、冷静に。
目の前の男を倒すことだけを考えている。
しかし、マクシミリアンという男。
弱いな。
いや、強いことは強い。
俺の攻撃は、軽くいなされている。
それに、奴も、黒い波動のようなものを絶えずこちらへと送ってくる。
それは、触れたらまずい気がして、何度も避け続けるのだが、触れた床や、壁がどうこうなることはない。
もしや、触れても問題ないのではないかと、頭の端をよぎるが、本能が、黒いそれを嫌っていた。
「ほう。 上手に避けるじゃないか」
「ちっ、黙れよ」
敵の言葉に、苛立ちを隠せない。
俺の攻撃は、簡単に避けられてしまうようなものなのか。
効いてるのか? それとも、俺はこいつには勝てないのか?
そんなことを考えつつも、この男に、期待していた強さに届かないでいた。
この男は、強いといっても、人間レベルだ。
おそらく、強くても、俺より強い程度だろう。
だったら、ヘイローンを倒したのは誰だ。
本当に、この男が、ヘイローンを。
信じられない。
だが、こんな程度の男がヘイローンを倒さないというわけでもないだろう。
ヘイローンは、意外に隙だらけだった。
虚をつけば、汚い手を使えば。
「聞く。 ヘイローンを……黒い龍を、殺さなかったか?」
震えるだろう声を、小声で出そうとしたが、大きな声と自然となってしまう。
その声が男に届いた時、彼の表情が緩む。
「それはね。 シリュウ。 私が殺したんだよ」
「どうやって?」
戦いの途中だというのに、彼はこちらに背を向ける。
俺がその隙を逃すまいと、義腕を伸ばすが、黒い波動に打ち消された。
その波動が、義腕に沿ってこちらに伸びてくる。
義腕を断ち切る。
そうすると、空中で波動が消えた。
「乗っ取ったな……俺の腕を」
「いや、そうする前に消えてしまった。 君の呪術は弱いね」
「くそっ。 質問に答えろよ」
こちらに背を向けたまま、壁へとマクシミリアンは歩いていく。
彼は壁に触れ、俯いた。
そして、口を開く。
「……街に行くと、1人の少年を見つけたんだ。 戯れに、彼を後からつけると、龍と楽しそうにしているじゃないか」
「なんの話だ?」
「あの龍に、君の話をしてあげたんだよ。 彼の父親は、私だと言ったら……くくくっ。 驚いた。 龍にも表情というものがあるものだ」
大きな笑いだった。
耳に届くたび、逆鱗に触るような、不快感。
こいつは、必ず殺す。
そう決意した。
「お前は殺す」
そう叫ぶと同時に、俺は飛び出す。
義腕とともに、覚えた数々の魔法を放つ。
触れたものは、鼓動で破壊する。
心臓は、まるでハーレーのエンジン部のように、唸りを上げる。
砕けた壁の破片の落下速度が遅くなっていく。
マクシミリアンの動きとともに。
「ここからは……俺の時間だ」
完全に静止した、男の首元に腕を伸ばしていく。
あとは、唸る鼓動に合わせて、破壊するだけ。
その瞬間だった。
マクシミリアンは、動き出す。
静止した時の中を、難なく動く。
俺の腕をはねのけると、距離をとって自然体で構えた。
「おいおい。 時間停止するやつを部下に持つ男だぞ? これくらい対策が取れてないとでも思ったのかい」
「……いや、計算通りだ」
男が距離をとったその場所は、すでに俺の予測の範囲だった。
あらかじめ、設置されていた義腕が、男に触れる。
と、同時に、それに気がついた男は波動を纏うが、時すでに遅い。
男の腕が、枯れる。
男は、その腕を切り離す。
男の体を、俺は蹴飛ばし、波動に触れると、その波動は、俺の身体に取り込まれる。
「貴様っ!!」
「これで一本とったな。 次は、どこの部位がいい?」
波動と、義腕は同じものだった。
ただ、込められた魔力が多い方が綱引きに勝ち、取り込むことができる。
そして、多くの魔力をそれに込めると、本体が無防備になっていく。
なるほど、アセディアが言っていたのはこの事か。
「……腕の一本くらい。 くれてやるよ」
彼が懐から取り出したものは、注射器だ。
それを、無くなった方の腕に差し込む。
気持ち悪い方の、生え方をしている。
腕が、もとどうりに生えた。
「……腕の分、魔力で有利になったと思ったんだが」
「ふふふ。 これも研究の賜物だね」
だが、魔力の総量では、俺が勝っている。
依然有利にかわりない。
「さて、その注射器は何本使える? あるいは、パワーアップする道具はまだあるのか? 出し惜しみするなよ。 全部使わせてやる」
「いいや、今研究しているものは、そういうのじゃなくてね。 それに、君にはドーピングなしで勝てそうだ」
俺が、波動を掴み奪うと、波動は、こちらを喰らう。
しばらく、その繰り返しで、場は硬直する。
仕方ない、これ以上やると、オーバーヒートしかねないが、あれをやるしかないか。




