バーサス アワリティア
今日のクエストボードには、多種多様なクエストが貼られていた。
しかし、CやDランクと言った、いわば大したことないクエストばかりだ。
「もっと危なさそうなものはないのか」
「なーにを言ってるのよ?」
「ん? なんだ、団長か」
「なんだとは何よ……ほら、こういうのが欲しいんでしょう?」
「これは……不定クエスト。 ランクB以上対象?」
「ランクがつけられないクエストのこと。 状況が変わりやすいか、よく分かってないか」
「ふーん。 で、これはどうすればいい?」
「最近、この国に怪しい人影が見られるから、それを確認し、もし闇ギルドが関係していたら退治か捕縛をする」
「面倒臭そうだな」
「報酬がいいから行って来なさい」
「気分が乗らねえ」
「なんでよ。 相手は闇ギルドかもしれないのよ?」
「うーん。 俺、その闇ギルドってのが悪い奴らなのかよく分かってないんだよな」
「はぁ? 闇っていうぐらいだから悪い奴らなのよ」
「なんだよ……それ」
「聞きなさい。 闇ギルドは、各国間同盟の非加盟国のギルドを中心にできてるわ。 まぁ、略奪とか、殺しとか悪事を働くのよあいつら」
「そうか。 悪い奴らなのか」
「そんなに言われると流石に傷つきますね」
振り返ると、アワリティアが椅子に座っていた。
いつ入って来たのかわからないが、全くの気配を感じさせなかった。
「アワリティア、どうやって入ってきた?」
「手の内を見せ切ってないのはお互い様でしょう? ほら、前の約束の話。 持ってきましたよ」
「約束?」
「えぇ。 龍を倒したことのある人ですね。 リストにしてみました」
「これは……なるほど、意外に多いな」
「それでは……」
「まてっ」
「なんでしょう?」
「お前ら、悪い奴らなんだってな」
「ひどい言われですね。 まぁ、否定はできませんが」
「なら、ここで倒してやろうか」
「いいえ。 逃げますよ?」
「逃げれるかな」
俺はアワリティアに手を伸ばす。
そして、胸ぐらをつかもうとした瞬間、アワリティアの姿が消えた。
しかし、奴はすぐさま俺の近くに姿をあらわす。
「なんで逃れないかわからないって顔だな?」
「お前、僕に何をした?」
アワリティアが指を鳴らすと、周囲の物が一斉に浮き回り始める。
「探し物はこいつか?」
俺は、手の中にあるそれを握力で壊し、手のひらを開いてそれを見せた。
それは、小さな石のような者で、中には複雑な魔力機構が備わっていた。
「やってくれましたねえ。 これで帰る手段を失ったわけですか」
「なんだ。 怒ったか?」
「えぇ。 本気で怒りましたよ!!」
周囲の物が一斉に俺を襲った。
俺は横目で周りの状況を確認する。
ギルドのみんなはもう外へ避難は終わっている。
なら、存分に暴れられる。
「お前の強さは認めてやってるんだ。 生け捕りがベストらしいんで……死んでくれるなよ?」
俺は、周囲を凍らせていく。
氷の障害物ができたため、物はそれ以上自由に動くことはできず、空中で凍って止まった。
「くそっ。 相性が悪すぎるっ!!」
そう言ってアワリティアが外へ逃げようとした。
俺はすかさず出入り口を凍らせて塞ぐ。
その頃には壁や天井も凍りつき、奴の退路を完全に断つことができた。
「相性? 違うねえ。 確かにお前は強いよ……だが、俺はもっと強い」
「調子にのるなぁぁあああっ!!」
アワリティアの拳が黒く光り、それを俺へ向けて撃ち出してきた。
俺は、それを払いのけ、腕を掴む。
そのまま、鼓動で、腕を破壊した。
「どうだ? まだ抵抗するか?」
「ぐっ、ぐぅうううう。 僕は……僕は強欲のっっ!! アワリティアだぞっっっ!!!!」
まだ、アワリティアは諦めていなかった。
俺へ、もうただの物となった自分の肉片を飛ばし、攻撃してくる。
そして、無くなった方の右腕で、俺を攻撃した。
俺は、そのまま右手で心臓辺りを触り、鼓動で心臓を破裂させた。
「なかなかの気迫だ。 余裕をなくして殺してしまったぜ」
当然ながら、返事は返ってこない。
俺は、アワリティアに背を向け、周りの惨状を見渡した。
「あーあ。 こりゃ怒られるだろうなぁ」
そんなことを考えていたが、しっかりと後ろへの警戒は忘れない。
こいつなら、死してもなお何か仕掛けてくるだろう。
そう期待してのことだ。
そして、後ろから攻撃はやってきた。
アワリティアが起きて俺を土のナイフで刺そうとする。
「分かってたぜ。 お前がそれくらいできると」
「くっ。 なぜ気がついた!!」
「あん? なんだ生きてんのか。 意外に化け物なんだな」
「くっ、それは……おまえのことだろうがぁああっ!!」
俺は、腕を払いのけ、首を掴む。
そして、鼓動を与え、臓器を破壊した。
しかし、こいつのバイタルは正常へと戻っていくのを感じる。
「お前、不死か?」
「不死な訳あるかっ!! 死ねる回数が決まってるだけだ」
「ふぅん。 ゲームの残機みたいな感じか……で? あと何回生き返る?」
「そんなこと。 言えるわけないだろっ!!」
「ふーん。 そうか、なら死ね」
俺は、何度も何度も鼓動でアワリティアを殺した。
俺が、こいつを掴んでいる以上、何度でも殺し続けられる。
こいつは、相性が悪いと言っていたが、今を考えると確かにその通りだな。
「くそっ。 うぐ……くそっ」
「おい、そろそろ死ぬんじゃねえの? 今ならまだ間に合うと思うけどな」
「なんで……こんなことになったんだよ。 僕は、ただ、この国を手に入れようと、欲しいものに手を伸ばしただけじゃないか」
「……お前がいると、安心できない奴がいるんだ。 お前ら、悪い奴なんだろ? 悪いこといっぱいしてきたんだろ? なら、仕方ねえよ」
「くそっ。 死から遠ざかっていたから、わからなかった。 忘れていた。 死が、こんなにも怖いなんて」
「……悪いが、もうお前が許されることはないよ」
俺は、こいつを殺す手を止めない。
アワリティアが涙を流し始めた。
「わかった。 あと2回だ……あと2回殺したらもうやめてくれ。 もちろん、なんでも話すから」
「そうか、いーちぃ。 にーいぃ」
「もう……僕は生き返れない」
「これで、普通の人間に戻れたわけだな……じゃあ、さーん!!」
俺は、もう一度だけ、こいつを殺した。
しかし、アワリティアは死ぬことなく、蘇った。
「……くそっ!!」
「残念ながら、おまえの言葉は信用を失った。 最後の言葉は聞いてやろうか?」
「お前みたいな化け物こそ死んでしまえ!! 僕は、まだ、何も手に入れて……」
「長いっ!! ほんとうに死んだみたいだな」
俺は、アワリティアを討伐した。
周囲の氷を溶かし、みんなを中に入れる。
「団長、とりあえずこいつの処理を頼むよ。 で、さっきのクエストだが、調査を誰かに頼んでおいてくれ。 多分、こいつのことだと思うけど」
「えぇ。 分かったわ。 討伐お疲れ様」
「ん? うん。 まぁこれぐらいなら大したことはなかったが」
「……バケモノ」
「は? なんでそんなこと言うんだよ」
「だって、7大罪って言ったら、各地で特に凶悪な罪を犯し続けてる奴らで……とっても強いから、心配したのよ」
「なら、もう2度と心配する必要はないな。 俺は強いだろ?」
「うん。 ほんとうにそうね。 信頼してやるわよ」
「あぁ、ありがとな」
ギルメン達からまで、化け物と囃されたり流石ですと言われ続けたりした。
とりあえず、強いと言われている7大罪がこの程度なら、闇ギルドのやつらを倒しきるのも時間の問題か。
俺は、リストを開く。
その中に、黒龍を倒したものの名前は1つしかなかった。
「闇ギルド、総司令官。 マクシミリアンか。 絶対に忘れん。 お前を殺すその日まで」
俺は、硬く胸に誓った。