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影武者

 ぴちゃぴちゃと、足を運んでいく。

 陣を張る布をくぐって中へと入ると、たった1人、悠々と座っている。

 鎧と呼ぶには、軽装だが、その眼光は覚悟を思わせる。


「予想外だったよ。 まさかここまでやってくるとは」


「……誰だてめぇ」


 その言葉は無意識に出た。

 目の前の男は、倒すべき敵。

 将軍であるということは、頭ではわかっているのに。


「察しがいいのか悪いのか……」


 いうや否やそいつは、俺へ向けて早い速度で接近してきた。

 俺は、それに合わせて構えて狙い撃つ。

 しかし、それはダメだった。

 俺の伸ばされた腕に合わせて、彼がバックステップしたから。


「どういう……」


 その時、不思議なことが起こった。

 その男の姿が、大量に現れたのだ。


「ふふ、わかるまいて」


 その一体に触れると、まるで風船のようなゴム質で、弾むようにずれていく。

 そして、それを握ると、潰れて一枚の葉となった。


「変化の術……か。 面白い」


「ほう。 よくご存知で」


 その数ある分身の中から、1つ確実に俺を狙い動くものが現れる。

 俺は、それを見逃さず避けるが、その時後ろから、鋭い攻撃を受ける。

 そして、おれが本体だと思ったそいつは葉っぱと化した。

 振り向いた時には、もう敵の姿を認識できない。

 数の治療がいつもより遅い、敵の気配がわからない。


「……面倒だな」


 そう呟くと、早かった。

 俺の義腕は全ての分身体を掴むと、その魔力を奪っていく。


「なっ、なにぃ」


「影武者だな。 本体は……そこか」


 魔力を奪うことで、枯渇しかけていたが、回復することができた。

 それにより、意外に近くにいる将軍の居場所を突き止められる。


「き……さまぁ」


「そこで寝ているといい」


 気配のある方向を見つめると、近衛兵に囲まれた将軍を目視することができた。

 もちろん、そこへ向かっていこうとする。

 が、足を掴まれる。


「行かせる……わけには」


「サムライというのは……全く、いい忠誠心だな」


 俺は、無慈悲に、その腕を切り、心臓を穿つ。

 一度、黙祷したのち、将軍の方へと向かっていく。

 すぐにたどり着くと、義腕で近衛兵達を蹴散らす。

 血しぶきは上がらない。

 周りにいるもう動かない兵達に囲まれながら、将軍は剣を抜く。

 その顔は、赤く染まっている。


「シリュウ君。 君の器を見くびっていたようだ」


「それは……妖怪か」


「憑依という。 酒呑童子の憑き物だ。 とはいえ、君には勝てないんだろうな」


「あぁ、お前じゃ俺にすら勝てないだろうな」


 その言葉を聞いた後、彼は大きな声で笑う。

 誰からも受け入れられるような、綺麗な笑い声で。


「絶体絶命か。 あの人なら……こういうだろうな。 シリュウ、俺の元で働かないか?」


「この状況で、そう言えるのは素晴らしいな」


「……なら」


「残念だが、お前に魅力を感じない」


「そう……か」


「ほら、構えろよ」


 俺は、両手を開いて伸ばし、相手に促す。


「イエヤス。 推して参る。 ……どうした?」


「お前の相手は俺じゃない。 頼んだぞ」


 後ろを振り向くと、現れた男の肩に手を置く。


「イエヤス殿。 尋常に勝負でござる」


 かつてムサシと呼ばれた男。

 ベンが、その目の奥で、何を考えるのか。

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