江戸へ
敵の居城、江戸にはすぐにたどり着くことができた。
追ってはなく、罠も兵もいない。
まるで招かれているかのようだ。
「ここに奴がいるようだな」
唐突に、人口密度が高い場所が現れる。
実際に目視できる距離にはないが、気配でそれがわかった。
肌に伝わる感覚は、ツワモノを予感させる。
頬が紅潮していき、体温が上がっていく。
敵と接敵するのは、このままだと5秒後。
霧が晴れ、敵が見える。
敵が武器を構え、こちらに向けた。
俺は構わず直進を続ける。
10秒後、顔を、手をしたたる血液が、俺の体温を奪っていった。
「どけっ、俺が相手しよう」
兵士たちをかき分けて、他のものと同じように鎧に身を包む大男がくる。
手に持つは大薙刀。
武芸を見せびらかすように、それで空を切りながら、こちらはおずおずと近寄る。
俺はそれを見て嘲笑った。
「何がおかしい?」
「おかしいだって? お前今、おかしいって聞いたのか?」
俺が問いに問いで返すと、さらに顔を赤くしながら、そいつは言い返してくる。
「貴様、俺をコケにするのか?」
「口じゃなくその自慢のやつでかかってこいよ」
「……ええい」
大男がドスンと薙刀が地面に突き刺すと、それに合わせて地にひびが走る。
そして、拳をパキリとならす。
こちらへ向かってくる。
「なんだ? それは使わないのか」
「お前ごときに、必要ないからな」
「ふぅん。 後で泣きべそかかなきないいけど」
「……我が名は、オオミドウ、ミツクニ」
胸を張り、高らかに宣言しだす。
俺は、それをやれやれといった態度で見下しながら返答する。
「俺は、シリュウ。 よろしくな」
差し出した手を、握り返される。
相手は強く握ってくるので、戯れに強く握り返すと、表情が険しくなっていって面白い。
ついには、腕を振って抵抗しだすが、さらに握る力を強めてやる。
ふと、左腕がこちらへと向かって振るわれる。
俺は半身を逸らして避けると、蹴りを顔面に1発だけ触れさせた。
「ぐっ」
それだけなのに、大男は倒れ込んでしまう。
俺は、反射的に手を離すと、彼は転がっていく。
そして、顔を抑えながら立ち上がる。
その手に持たれたのは大薙刀。
彼は、武器をついに構えた。
「おいおい。 結局使うの?」
「俺にこいつを使わせたことを後悔するといい」
薙刀が空を切る音が耳だけでなく、肌で感じることができる。
それが俺に向かってくるのは、とてもゆっくりで、目で追うことができた。
刃がよく打たれていて、トンボが止まっただけで二つに割れそうなほど、鋭くきらめいている。
俺は、それを二本指で掴むと、薙刀を軸に大男を持ち上げてやる。
「へぇ、案外いい握力してるじゃん」
「貴様ぁ、離せぇっ!!」
「いいよ。 ほら」
俺が手を離すと、大男は着地に失敗する。
倒れた大男の手を踏み潰しながら、俺は聞いた。
「なあ。 将軍様はあそこ?」
「誰が……言うもんか」
「……そうか」
俺は、手のひらを踏みつける足を上げて、それを頭の上に置く。
「くっ……」
「もう一度聞こうか。 将軍様はどこ?」
「お前なんかに教えるくらいなら、死んだほうがマシだ」
俺は、その頭を踏み潰して、周りの兵に視線を送る。
そうすると、俺が何かを聞くまでもなく、兵下達は武器を捨て、陣が敷かれた方向を指差し始めた。
「ふぅん。 あそこか。 お前ら、もういいぞ」
俺は、無力化された兵士たちへの興味を完全に無くし、陣へと歩いていく。
その後には、地面が地に染まり始めていた。




