裏切り
一夜城を皮切りに、俺たちはシン国との戦闘に勝利し続けた。
ジパングの兵は精鋭が集められていて、地の利を得れば確実に勝利を得る。
無理な作戦もあったが、俺の力とムサシの援護、そしてハンゾウの暗躍にて、無敗のままシン国の首都まで侵攻することができた。
「……おかしい」
「どうしたのでござるか?」
「うまく行き過ぎている」
俺たちが見通す先には、すでにジパングの兵達に囲まれている城がある。
落ちるのは時間の問題だろう。
「本国から、本隊が到着した。 侵攻もほぼ終わりに近づいている。 何が問題なのでござるか?」
「八大龍王は、どこに潜んでいる。 ここまで侵攻したのに、なぜ出てこない?」
「まぁ待つでござる。 それについてはーー」
「ーー伝令。 八大龍王の行方を確認」
どこからともなく、ハンゾウは現れる。
地に膝をつき、それに手を添えながらムサシの言葉を待っている。
「……話すでござる」
「御意。 八大龍王は、中央へと集められている模様。 また、それに限らず、多くの戦力が集まっていることがわかった」
「多くの……勢力だと?」
俺が問うと、ハンゾウは一瞥をくれるが、答えてはくれなかった、
「……ムサシ」
「ふふっ。 ハンゾウ、答えるでござるよ」
「……闇ギルドの全勢力が中央に集められているとのこと」
「と、言うことでござる」
全勢力が、中央に。
それが意味すること。
「ムサシ、すぐに用意しろ。 さとりを連れて北へ行く」
「しかし、ここはいいのでござるか?」
「ここはもう時間の問題だろう。 それよりも、大事なことがある」
「大事なこと……でござるか?」
ムサシの顔つきが深刻になっていく。
例えるなら、覚悟を決める前の男の顔だ。
「あぁ、なんとなく察してるんだろ?」
「……さて。 まぁ、とりあえず城に戻るとするとござるか」
俺たちは、船に乗り込み、ジパングへと帰っていく。
その間に、小型高速艇による伝令で、首都陥落の報告が届いた。
その報告を受けながら、俺たちは特に会話もないまま、たどり着いたは城。
人質となった2人の元へ、やってきたはずだった。
「……どういうことだ?」
そこには誰もいなかった。
ムサシと俺の2人が、部屋の真ん中近くで立ち尽くしているばかりだ、
「こういうことでござるよ」
ムサシが腰の刀を抜く。
それを俺に突きつける。
「……お前じゃ死ぬだけだぞ」
「主君の命は守らねばならないのが、辛いところでござるな」
「後悔……するなよ」
俺はゆっくりとサムライに近づいて、その手を伸ばす。
少しずつ、近づいていく。
彼は、警戒するように、刀をずらし俺に触れさせる。
俺は、刀を避けながら、ムサシに手を触れようとしたタイミングだった。
鋭い痛みに、手を止めた。
その瞬間、ムサシは俺から距離を離す。
俺の腕には、手裏剣が刺さっているのを横目で見ながら、視界に捉えたのは忍者。
俺をまっすぐに見つめながら、ムサシの前に立つ忍者だ。
「ハンゾウ、お前……」
「行けっ。 3分……いや、1分ほど、私が稼ぐ」
「……しかし」
「行きなさい。 ムサシ」
「すまんでござるっ」
ムサシは、俺に背を向けて走っていく。
武士が敵に背を向けるなど、というのは野暮だろう。
俺は、彼らの様子を腕に刺さる手裏剣を抜きながら眺めていた。
「おいおい。 そいつにはルクス達の居場所を聞かないといけないんだが」
「通さん。 お前は」
「そうか。 稼ぐって言ったもんな。 1分だけ……実力差、わかってるじゃねえか」
「……推して参る」
俺は、刹那で距離を詰め、左腕を伸ばしてハンゾウを掴む。
掴んだ、と思った瞬間、再び鋭い痛みが蘇るが、離さない。
しかし、掴んでいたのは顔を隠す布だった。
背中からも、痛みが現れる。
ゆっくりと俺は振り返り、ハンゾウの姿を捉える。
「……女か」
「だったらなんだ?」
「俺は女には優しくんでな。 命は見逃してやるよ」
「油断していると、お前が死ぬぞ」
「……俺が?」
もう一度、距離を詰める。
ハンゾウは、俺が掴む動作をするときには、もうすでに回り込もうとしていた。
俺は構わず、彼女のいたところを掴むと同時に、腕に刺さる手裏剣。
痛みをそのままに、俺は空を掴む。
その瞬間、ハンゾウは、得物を放つが、それを弾いて、距離を詰めた。
そして、腕を伸ばし、それを避けようとした彼女を、義腕で抑えた。
そのまま、首を掴むと、俺は辺りを見渡す。
「さて……と。 そこか」
俺は、足を運んでムサシの気配の元へと向かうと、その気配の通り、ムサシはいた。
「さて、こいつの命が欲しければ、わかるな?」
「……ハンゾウ。 わかってるでござるな?」
「ーーはい。 すみません」
その瞬間、ハンゾウから、爆発が起きた。
俺と、ハンゾウは、それに飲まれていく。




