一夜城
大陸に上陸すると、ムサシは兵たちに城を作ることを命じた。
兵たちは、上陸後、不満を言うでもなく、すぐに建築を始めていく。
「おい、なんで城なんて……」
「なんせここは敵地でござるからな。 退路は必要でござるよ」
「必要か?」
「必要でござるよ。 敗戦したらすぐ終わりじゃ、兵はいくらあっても足りないでござる」
「全てに勝てばいいだろう。 そのために俺がいるんじゃないか」
「アホ……でござるな。 兵たちは君のように強くはないでござる。 ゆっくりと戦う準備をーー」
「ーー伝令。 敵が接近中だ」
突如、どこからともなくその者は現れた。
顔を布で隠し、忍び装束で身を包んでいる。
その声は、妙に高か感じた。
「数と、時間は」
「本隊だ。 およそ2千ほどだな。 このままだと、明日には到着する」
「わかった。 引き続き頼むでござるよ。 ハンゾウどの」
「……御意」
そう言って、そいつはまた、姿を消した。
恨めしそうに、親指の爪を噛みながら、ムサシは言う。
「早すぎるでござる。 これでは……」
「よくわからないが、城が明日までに出来上がればいいんだな?」
「そうでござるが……木材を集めるところからでござるよ。 とても明日までには無理でござる」
俺は、船へと近づき、コンコンと透き通る音をならす。
拳を、船へとぶつかる音。
そして、その船を丁寧に一つ一つ分解しながら、ムサシに言い放った。
「こいつを使えばある程度作れないか? 外観だけでも立派に造れれば」
「……だが、それでは本国へは」
「帰ることばかり考えていては、前には進めないだろう。 戦いを安全に行うなんてできやしないよ」
「シリュウ殿……」
「考えてる時間、あるか?」
「……皆の者、この船を解体し、糧とするでござる。 なんとしても明日までに間に合わせるでござるよ」
その声に、兵たちは一斉にかけ声をあげ、作業に取り掛かっていく。
「いい覚悟だ。 間に合うかな」
「シリュウ殿は、さすがでござるな」
「何がだよ?」
「覚悟が違うでござる。 拙者たちは、常に自分たちの利権ばかり……安全ばかり考えて」
「別に、それが普通だろ。 そう言う意味じゃ、俺の方が異常なんだ」
「そう……でござるか?」
「あぁ。 そして、戦場は異常なものが勝ち残る、おかしなところだ。 お前は、どうなっていくのかは」
「拙者は……どうでござろうな」
その後も、作業を効率化させるために、俺たちは奔走した。
川を利用して、木材を運搬する。
城の中の造りは簡素にして、その分外壁を強固にする。
そして、城に鉄を利用することで、砲撃で簡単に崩れない造りを再現した。
「奇抜なアイデアばかり、よくも考えつくものでござるな」
「逆に、今までなんでそうしなかったんだよ。 コロンブスの卵か?」
「その卵は知らんでござるが。 今までそうしてきたことには、人は我慢を覚えないものでござるからな」
「この際だ。 思いついたことはなんでもやろうぜ」
と、趣味の悪い作りから、良い作りまで、色々と盛り込んで行った結果。
効率よく、派手な城を完成させることができた。
それを1日で。
そこへ、またも忍びのものが現れる。
「伝令、まもなく敵が来ます」
「うむ。 ハンゾウ、手を貸してくれるか?」
「ーー御意」
「……いや、いいよ。 兵たちも、みんな休めとけ」
「シリュウ殿? しかし、それでは」
「そのための城だろ? そもそも、数千人とか、俺1人でいい」
「……いいのでござるか?」
「あぁ。 いいよ。 まぁ大船に乗ったつもりで待っていろ」
「……頼むでござる」
俺は、肩を回しながら、城壁の外へと出て行く。
前方からは、砂埃をあげながら、沢山の人が近づいてくるのがわかった。
俺は、少し悲しい気持ちになりながら、左手の魔力を解放して行く。
現れたのは、大きな義腕。
それが、目の前の兵士たちを薙ぎ払う。
阿鼻叫喚の極み。
兵士たちの叫びは、その地に轟いて行く。
「悪いな。 戦争なんだ。 それに、お前たちと、闇ギルドである以上、覚悟はできているんだろ」
その地に死体の山。
いや、死体の大地を築きながら、初戦は勝利を飾った。
「シリュウ殿、あなたは……いったい」
「どうした? 驚き方がやけに大げさだが」
「……こんな化け物とは、聞いてないでござる」
「そうか、それは悪かったな」
俺は、ムサシの肩に手を置いて、謝罪した。
朝方の、まだ暗い空が死体の大地を見下ろしていた、




