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ござる登場

 ついこの間、北で奴隷をしていた頃、タバコを吸ってみたことがある。

 煙は、身体の中では、熱く、苦しい。

 それを吐き出しても、特に快感は得られない。


「おいおい、どうした?」


 なんでタバコを吸うのか、理解はできなかった。

 でも、今ならそれがわかる。

 圧倒的な力で、雑魚を蹂躙しながらも、時には攻撃をくらい、そこが熱くなる。

 身体はどんどん火照っていき、それでも戦いはすぐには終わらない。


「くそっ!! 囲めっ!!」


 これだけの力の差がありながらも、彼らは戦うことをやめなかった。

 彼らを動かすものは、なんだろう。

 おそらく、彼らなりの矜持があってのことだろうか。


「恨み節ってのは怖いねえ。 そんなにあの子が気に入ったのか?」


「ふざけるなっ。 俺たちは舐められたまま生きていられないんだ」


 刀の構え方が変わる。

 下から、上へと持ち上げるように。

 時間が経つにつれて、敵の数が減るが、彼はまだ向かってくる。

 そういう、出来の悪いゲームのように。


「なら、やられても文句は言えないな」


 俺は、左手をそっと差し出して、来る奴を倒そうとする。

 と、その間に、手刀が割ってはいった。

 最後の1人が、それで気絶させられる。


「危なかったでござるな」


 そこには、頬に十字傷を携えた、1人の男がいる。

 長い髪を、後ろへと流して、澄ました顔をしていた。


「別に、俺はこれくらいじゃ」


「いいや、あなたではなくて、彼でござるよ。 危うく殺すところでござった」


「……死ぬ覚悟はあるんだろう」


 その言葉に、彼はこちらを強く見つめた。


「覚悟があるから、殺されても文句がないと言うわけではないでござるよ」


「ーーそうだな」


 十字傷の男は、軽くため息をつくと、俺を……俺の後ろまで、はるか遠くまで見通すように視線を飛ばす。

 その手は、腰の刀の柄に添えられている。


「シリュウ殿で、ござるな?」


「そう言うお前は?」


「ムサシ……と呼ばれているでござるよ」


「そうか。 ムサシ、ここの娘に挨拶だけしていきたい。 構わないよな?」


「察しが良くて助かるでござる……が、余計な抵抗をされないよう、それは断らせてもらえでござるよ」


 俺は、左手を前に差し出して、拳を開く。


「なら、ここでやり合うのも悪くないか」


「……ふぅ。 仕方がないでござるな。 すぐに済ませるんでござるよ」


「わかったよ」


 俺は店の中に入ると、食器を片付ける音が聞こえる。

 そのまま、やけにすべすべなドアノブを開くと、そこで、食器の泡を水で洗い流しているマイカと目があった。


「あ、シリュウ様!! あの、大丈夫でしたか?」


 俺は、笑みを作りながら答える。


「ん、見ての通りだ。 なぁ、マイカ」


「はい? なんでしょう」


「食事、美味しかったよ。 ありがとう」


 彼女は、満遍の笑みを浮かべる。


「はい!! お粗末様です。 それで、泊まるところは……その」


「あぁ、すまない。 面に人が来ていてね。 行かなくては」


「あ……そう、ですか。 それでは、お気をつけて」


 俺は、首の後ろに手を回してから、その手をマイカに差し出した。


「ほら、握手だ」


「え? あ、はい」


「……また、今度泊まりにくるよ。 それでいいか?」


「え? はいっ!! またいらしてください」


「その時は、また美味いものを頼むよ」


 彼女は、頬を赤らめながら、俺を見送ってくれた。


「可愛い娘でござるな。 これでござるか?」


 ムサシは、小指を立てて、こちらに見せた。

 その小指は、第2関節から上がなくなっている。


「さあな。 ほら、案内しろよ」


「ふふっ、隅に置けないでござるな」


 俺は、案内をされるがままに、馬車へと乗り込んだ。

 馬車は、自動車と比べ、速さはないものの、意外にも揺れが少なく、快適であった。

 そして、たどり着いた場所は、大きな城。

 そこの中へとどんどん入っていく。

 床は、踏み込むたびに、音を鳴らしている。

 たどり着いた場所には、見知った面々がいた。


「ルクス……インヴィディア」


「あ、来たね。 シリュウ、久しぶり」


「あぁ……なぁ、お前たちの目的はなんだ?」


 俺は、視線をムサシに移して、そう聞いた。


「簡単でござるよ。 シンの国からくる、八大龍王の者たちに対抗することでござる。 西の英雄がいれば、心強いでござるからな」


「……まて、なぜ俺がここへ来るとわかった? まるで、初めから分かっていたかのような口ぶりだが」


「それは、簡単でござる。 ほっと」


 掛け声とともに、魔力の大きく放出する、何かが生まれた。

 それは、いきているのか、大きく揺れており、それについている瞳は、こちらを伺っているようにも感じる。


「これは?」


「件という、妖怪でござるな。 未来を予知することができるでござる」


「未来予知か。 無敵だな」


「正確には、見た光景を可能な限り再現することができる……でござるが」


「……で、それで俺を見たと」


「彼女たちから話を聞いて、そうさせてもらったでござる」


「ふーん……なぁ、さとりってわかるか?」


 ムサシは、少し考え込むように、視線を落とした後、こちらをまた、向き直した。


「拙者には、まだ扱えないでござるが」


「なら、誰になら使える? できる限りすぐに欲しい」


「……取り引きでござる。 まずは、拙者たちに手を貸して欲しいでござるよ」


「……わかった。 八大龍王を倒せばいいんだな?」


「頼むでござる」


「いいだろう」


 俺は、差し出された拳を握り返した。

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