ジパング到着
船は、港へと到着する。
船と港へは、橋がかけられ、それは足を置くと静かに、少しだけ沈む。
歩幅が気がつかないほど小さくなるが、ジパングには、足を踏み入れることができた。
「さて、どうするか」
ジパング。
まだ、闇ギルドには侵略をされていないようで、独特の文化を残していた。
古い平造りの家に、街を歩く人々は、江戸を思い浮かべさせる。
侍に、町娘。
まるで、時代劇の中に入ったかのように錯覚する。
「こういうの、いいな。 悪くない」
どうやら俺の服装は目立つらしく、周囲の視線を感じる。
特に気にする必要もないだろうが、流石にこうチラチラと見られるのは嫌なもので、ここでの服装を着てみたくなる。
だが、どこで手に入れるのかはわからない。
店があるのだろうか。
話によると、この国は鎖国を行なっているらしく、金も、他の国と共用なのかも分からない。
「まぁ、仕方ないか。 ん? あれは」
適当に歩いていると、いやに目に余る光景が現れた。
「やめてください」
「いいじゃねえか。 俺たちは士族だぜ?」
どこにでも、野蛮でかつ軟派な奴はいるものだ。
俺は、娘に対して伸ばされた手を掴むと、男たちをにらんだ。
「なんだよ。 邪魔するな」
「やめてやれよ。 嫌がっているだろう」
「なにぃ? いてっ、いてててて」
俺は、少しばかり強く腕を握ってやると、男はもう片方の腕で俺の手を掴み、抵抗してくる。
だが、俺は力を緩めることはしなかった。
「どうするんだ?」
「てってめぇ。 離しやがれ!!」
もう1人の男が、腰の刀を抜いた。
太陽の光を反射し側に輝くそれは、俺へと向けられる。
両手で、それを構えて、少しずつ、男はすり足で寄ってくる。
「離してほしいのか?」
「そうだよ」
「そうか……ほら」
俺は、掴んだ手を誘導して、男を刀を構えるそいつに向けて突き飛ばした。
男は、とっさに刀をずらして受け止める。
その瞬間に、日本刀の刃を掴んで、奪った。
2人の男達は、体勢を崩す、その瞬間に俺は足をかけて転ばせた。
「くそっ。 てめえ」
「ほら、返すよ」
俺は、日本刀の刃を掴んだまま、柄を男に差し出した。
手から流れる血液が滴り、刀を濡らしている。
男はそれをひったくるように奪うと、覚えてろよ。 と、言って逃げるように去っていった。
俺は切れた左手を見つめながら、治癒を待つ。
その時、俺の左手に、冷たい手が触れてくる。
「あの、ありがとうございました」
その手に、手ぬぐいが巻かれようとした。
「いや、いいよ。 どうせ治るし」
「いえ、そのままではいけません。 ほら、できました」
手ぬぐいで綺麗に巻かれて、程よく圧迫される。
しかし、止血はすぐにしたものの、手ぬぐいを血で汚してしまった。
「汚れちまったな」
「お気になさらずに。 それで、その……お礼をさせていただきたいのですが」
女は、もじもじと身体をひねりながら、着物を揺らして言った。
「礼か。 別にいいけど」
「いえ、させてください。 それで、うちが料亭なんですけど」
「ほう。 飯か。 うまいのか?」
「はい!! 一流ですよ」
「そりゃあ、いいな。 いただこう……ええと」
「あ、マイカでございます」
マイカは、深々と頭を下げながら、そう言う。
「マイカか。 俺は、シリュウだ」
「シリュウ様ですね。 では、ご案内いたします」
マイカに案内されて、たどり着いた料亭は、予想していたよりも小さかった。
だが、面の暖簾と、提灯が品の良さ、親しみやすさを感じさせた。
料理は、なかなかに美味しかった。
それ以上に、懐かしい。
日本料理を食べるのは、転生して以来であるから、すぐに器の中身がなくなっていく。
「どう……ですか?」
「すごくうまいな。 才能があるんじゃないか?」
「いえ、そんな」
その時、外から不穏な気配がした。
そのことには、マイカはまだ気がついていないようだ。
「ちょっと、面に失礼するよ」
「え、厠ならこちらです」
「いや、知り合いがいたもので、すぐ戻る」
そう言って、俺はそこを後にした。




